第27話 いかなる契約も背くことなかれ

「では、不可能な理由を教えてください。そのくらいはいいでしょう?」


「不可能である理由ねえ。それはまあ、戸出くんだったらわかるんじゃないかなあ」


「俺がですか?」


 少し考慮してみるが、ちっとも心当たりがない。


 いやはや、不敵に微笑む神さまを見ていると、揶揄われているとしか思えない。


「悪いですが、さっぱりです。俺と神宮が関わったのって、神さまの引継ぎくらいですからね」


 神さまは、呆れをアピールするように、深いため息を吐いた。


「戸出くんって不感症なの?」


「はい? 急になんですか、変態ですか」


「ああ、不感症より鈍感と言った方がわかりやすかった?」


「その二つは結構違うと思いますが……。でも、神さま以外に鈍感と言われたことは――」


 そういえば、井筒ファミリーに見つかりそうになった時、神宮にも「鈍感」と罵られたことがあった気がするが……世の中には言わなくてもいいことがある。


「うん、やっぱりないですね。鈍感ではないと思います」


「そこが鈍感だよねえ。実はねえ、神宮ちゃんは――罰を受けているのよ」


 神宮が――罰を?


 俺が知るところのあいつは、罪を犯すようなやつじゃない。


 神宮は、ちとジョークがキツめで、運動神経が抜群で、ポニーテールがトレードマークの女子高生で、おまけに元――神さまという経歴もあるやつだ。


 特段優しいやつだと感じたことはないが……人の気持ちに寄り添えるやつではある――現に俺の過去を打ち明けた時も、神宮は涙を流して一緒に悲しんでくれた。


 考えれば考えるほど、神宮は――罪を犯すようなやつじゃない、罰を受けるようなやつじゃない。


「嘘ですよね、ハッタリですよね、神宮みたいなキツめのジョークですよね。だって、神宮ですよ? あいつが一体なにをするというんですか」


「神宮ちゃんは、あたしとの契約に背いた。無断で、神さまを、神さま擬きを交代しちゃったんだから、駄目だよねえ」


 体中に電流が走ったような感覚に陥った。


 鈍感――確かにそうだ。


 俺は、あまりにも鈍感だ。


 神さまにならない? 


 その提案から始まり、『神さまの証明』ができなければ、俺が神宮を殴り――できれば、俺が神さまになるという流れが生まれた。


 賭けに負け、俺が神さまになって――神宮は姿を消した。


 定められた条件に反したことを行おうとしていた時、もっと疑うべきだったんだ――相当な理由がない限り、そんなことをする必要がない。


「解放してください」


「無理」


「解放してください!」


「ほう、驚いた。温厚そうな戸出くんも激昂するんだねえ」

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