第25話 不完全な神さま、歪を体現した神さま――神さま擬き

「あたしから提案しておいてなんだけれど、楽じゃないわよ?」


「それでも、やります――やらせてください」


 神宮の瞳は、本気度を窺わせる鋭さを帯びた。


「いい目ね。確かにあなたなら、あの枚数の嘆願書を書いてしまう、そう感じさせられたわ。それじゃあ、神さまになってもらうけれど――ただ、あたしとは確実に、明確に、別個の存在ということは心得ておいてもらうわ」


「神さまになるというのに、神さまと私は、確実に、明確に、別個の存在なんですか」


「あたしの力は――完全な神さまを創造することはできないんだよねえ」


 神さまの力は、人々が抱くような願いなら、容易に叶えることができる。


 ただ、神さまが、もう一体の神さまを生み出すことは不可能。


 だから――可能な範囲で、神さまを生み出す。


 不完全な神さま、歪を体現した神さま――神さま擬き。


 神さま擬きも、人々の願いを叶えることができる。


 しかし、完全な神さまとは違い、片手間に叶えることをしない、できない。


 これからは、体育館裏の祠に提出された嘆願書の願いを精査し、四つの条件をクリアするものは、願いを叶えることとする。


 一つ目は、嘆願者の心身の健康状態から、努力をしても、永久に叶わないものを叶える。

 二つ目は、命を復活、または延長の願いは叶えない。

 三つ目は、願いは一人一つまでしか叶えない。

 四つ目は、神さま自身の願いは叶えない。


 条件は、神宮が納得できないものだった。


 その全てではない。納得できないのは――四つ目の条件だ。


「私は、私の願いを叶えてほしいのに、私自身の願いを叶えてはいけないんですか」


「これでも非常に親切だと思うけれど」


「意地悪をされている気分です」


「青いねえ。いい? あたしは、神宮ちゃんの気持ちを知ったから、現状を知ったから、初めて重い腰を上げたんだよねえ。他の人間には、神宮ちゃんみたいに特別待遇はしないんだよ? 大丈夫、しっかりと役割を果たしてくれれば、その時はあたしが願いを叶えてあげるから」


 通常であれば、神さまに願っても、それが叶うことない――だが、神宮は神さまが一目置くような所業を行った。


 千載一遇にして、ラストチャンス。


「……前言撤回します。条件に、一縷の異論もありません」


「賢明ねえ。ま、神宮ちゃんが奔走してくれるなら、あたしとしても助かるから、是非お願いするわ。願いを叶えられる力を持ちながら、誰にも行使してこなかったことを、後ろめたいとは思っていたからねえ」


「精一杯頑張らせていただきます――お望みなら、今からでもできます」


「言われなくてもそのつもりよ」


 そう言って、神さまは神宮の手を包み込むようにして、優しく握った。


「あなたは今日から――神さまよ」


「私が……遂行します」


 動揺の色を声に含みながら、神宮は決意を述べた。


 己の願いを叶えるため――神さまに。

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