第24話 神さまになりなさい

「要するに、神さまは願いを叶えることができるけれど、そう易々と叶えるようなことはしない、ということでしょうか」


「まあ、そんな感じね。今までだって、一度も叶えたことはないから」


「えっ、一度もですか?」


「もちろん」


「どうして誇らしげなんですか……。いやしかし、一度も願いを叶えたことがないのに、その力があるとわかるものなんですね」


「繰り返し言うけれど、あたしは神さまよ? 自身に宿っている力のことくらい、使わなくたって完全に理解しているわ」


 過去、一度も使ったことのない力――願いを叶えるという力。


「力を使うか否か、迷ってはくれているんですよね?」


「ええ、初めて迷っているわ。神宮ちゃんみたいな愚直で面白い子、嫌いじゃないからねえ」


「それって、嘆願書を一杯提出したことを馬鹿にしていませんか」


「馬鹿になんてとんでもない。あの内容を馬鹿にできる人間なんて、この世に存在しないわ。もっとも、あたしは人間ではないけれど」


「見てくれたんですね」


「あれは無視できる数じゃないでしょう――百八十通以上はあったからねえ。これが俗に言う同調圧力なのかと震えたわ」


 中身に興味はなし、人間に興味あり。


「……でも、やっぱり二つ返事では無理ねえ」


「お願いします、どうか助けてください。私はどうなっても構いませんが――願いだけは、必ず叶えたいんです」


「…………仕方がないわねえ、願いを叶えてあげる」


「あ、ありがとうございます!」


「ただし、条件を設けるわ」


「なんなりとお申しつけくだ――」


「神さまになりなさい」


 神さまはそう言った、神宮の言葉を遮るようにして。


 放心。


 絵空事のような命令に、口を開けたままの神宮。


「面白い表情するねえ、神宮ちゃん」


「……えっ……あ、はい。すみません、聞こえなかったみたいなので、もう一度――」


「神さまになりなさい」


「……いやいや。一体全体なにを言っているんですか、冗談ですか、幻聴ですか」


「あたしは、いつでも本気なんだよねえ。だから、冗談でもなければ、幻聴でもないんだよねえ。驚かせてごめんね?」


 再び放心。


 それもそのはず、神さまの真意が毛ほども汲み取れない。


「私、神さまになりたいわけじゃなくて――」


「さっき『どんな苦行でも、なんなりとお申し付けくださいませ、巫女姿が世界一似合っているお姉さま』と言ったでしょう?」


「ちょっと! 言ってませんし、神さまが遮ったと記憶していますがっ!」


「了解。じゃ、あたしは帰りまーす。あ、部長には『神さまは先ほど私用で退社しました』ってな感じで伝えといてね」


「同期の会話じゃないんですから……それなら、やります」


 神さまは、神宮の返事を受けて、にやりと口角を上げた。

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