第23話 世間は神さまのことを勘違いしている

「な、なんですか! 私を馬鹿にしたいんですか、馬鹿にし足りないんですか」


「神さまがレズで問題ある?」


「……その話はもう終わらせたつもりなんですが」


「イッツ神さまジョーク。安心して、本物だから」


「信じていいんですか?」


「それは、あなた次第。でも、神さまに会いたかったら、この先どこかで、誰かを信じなければならないけれど」


 お姉さんからの、神さまからの正論に、神宮は頷いた。


「その言葉で、あなたを信じるには十分ですね。では、神さま――どうして願いを叶えるかどうか迷っているんですか?」


「うーん……神さまってそういうのじゃないからねえ」


「そういうのでなければ、どういうのなんですか」


「そも、世間は神さまのことを勘違いしているのよねえ」


「勘違い? 多少は知っているつもりですが」


「所詮は『つもり』じゃない。じゃあ、訊くけれど、神宮ちゃんが抱く神さまのイメージはどんなもの?」


 神宮は即答した。


 その回答は、世間一般では正解。


 だが、神さまにとっては不正解。


 近くもなければ、遠くもないが、明確な不正解。


「なるほど――願いを叶えてくれる存在、ねえ」


「誤りではないと思いますが」


「そうね、あなたにとっては」


「お姉さん……いえ、神さまにとっては違うんですか」


「違うねえ。神さまはねえ、ただの置物なんだよねえ」


 人々は、神さまを『願いを叶えてくれる存在』だと誤認している。


 人々は、受験の時、恋愛の時、出産の時、それぞれのターニングポイントで、神さまに願ってきた、祈ってきた。


 だけど、願いが叶うのは、いつだって神さまのおかげではない。


 いつだって、個人のおかげで、努力の賜物。


 そこに、神さまの力は関与していない。


 願いが叶った者は、神さまに感謝する。


 願いが叶わなかった者は、神さまを恨む。


 つまるところ、神さまに縋ったところで、運命は変わらない。


 つまるところ、神さまは置物。


 誰だっていい、なんだっていい、その人が無条件に願えば、例え置物であろうと、それが神さまになる。


「言いたいことはわかりましたが、それじゃあ、神さまに『願いを叶える力』はないということですよね」


「そうとも言ってない」


「……は、はい?」


「あたしは、正真正銘の神さまで、願いを叶える力も持っているんだよねえ」


「ちょっと! 神さまに願いを叶える力があるって……いやいや、神さまは置物なんでしょう?」


「かー、言いたいことを理解してくれたんじゃなかったの? 神宮ちゃんのような一般人にとっては、どんなものであろうと、縋ればそれが事実上の神さまになる。ただ、一般人が創造した神さまとは別に、本物の神さまが存在するの――あたしがそうね」


 ここまで説明してやっと納得したのか、神宮は臨戦態勢を解除し、一歩二歩と神さまに近付いた。

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