第21話 本当の神さまは、あたしだけ

 あたしは神さまよ。


 もしも真壁がそんなことを言いだしたら、その瞬間から蔑視することは間違いないが――お姉さんは、違う。


 神宮が神さまで――俺が神さまであることも見抜いていたからだ。


 お姉さんの発言は、入学当初の俺なら、神宮に出会う前の俺なら、到底信じられないことだったはずだ。


 だがしかし、現在の俺、つまり――神さまになった俺なら、信じることができる。


「お姉さんは、神さまなんですね」


「ほー、疑わないんだねえ。まあ、それもそうか。戸出一二三くんもまた、神さまだからねえ」


「俺の名前まで知っているんですね」


「常識だねえ」


「神さま界隈では、俺は有名人なんですか」


 問いかけに、巫女姿の神さまは、ぷっと吹き出すように笑った。


「界隈って。これはまた、大層に表現したねえ」


「お気に召さない表現のようで、どうもすみません」


「申し訳ないという気持ちが、微塵も伝わってこない謝罪ねえ。……ま、別に気に入らなかったわけじゃないの、事実とあまりにもかけ離れた表現だったから、思わず笑ってしまっただけ」


 その事実とやらを端的に述べてもらいたいものだ。実に回りくどい。


「あのね――本物の神さまは、あたしだけなの」


 一言で、脳内CPU使用率は百パーセントに達した。


「ちょっと! 整理させてください」


「させません」


「……お姉さんの寛大な心で、どうか整理させてください」


「どのくらい?」


「は、はい?」


「鈍いねえ。どのくらい寛大か、と訊いているの」


「青い海くらい寛大にございま――」


「狭い」


 うん、本当に狭いよ! あんたの心!


 本当、相手が真壁だったら、心臓を貫いているところだったぞ。


 だが、眼前にいるのは神さまだ――おだてないと、疑問は解消できない。


「じゃあ」


「じゃあは余計よねえ」


「……はい。森――」


「おっ! 森かな? 森かな?」


 口を挟まれると、変えたくなってくる。


「森を流れる川くらい寛大にございま――」


「海よりも規模狭まっているよね? 森って言いなさい」


  希望があるなら、最初から指定してくれ。


「森くらい寛大にございます」


「よろしい」


 あんたの心は川より狭いよ。


「それでは、本題に入らせていただきます……俺も神宮も神さまですが、『本物の神さまは、あたしだけ』というのは、どういうことでしょうか?」


「あら。神宮ちゃんから聞いてないの?」


「神宮からは『神さまにならない?』と誘われました。一応、願いを叶えるという役割は果たしてきましたので、神さまになったつもりだったんですが……」


「神宮ちゃんには説明したけれど、上手く伝わっていなかったみたいねえ」


「そも、二人はどのような関係ですか」


「ただならぬ関係」


「……」


「戸出くんも男の子だねえ。いやらしい目になっているねえ」


 さっきから話が全く進まない。


 このお方、時間稼ぎのためだけの交渉人としては、一流ではないだろうか。


「神宮ちゃんは一年前の入学直後、体育館裏の祠にやってきたわ――」


 ようやくお姉さんは、真剣な表情で、ことの成り行きを語り始めた。

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