第19話 神さまに会いたい

「ただし!」


「声がでかい」


「まだデータが十分でないからね、この先もっと考察レベルが向上していくはずなんだよね」


「どうだか」


「そして、そのデータのことだけれど、僕は誰も知りえない機密情報を入手しちゃったんだよね」


 そう言って、真壁はメモ帳を俺にも見せてくれた。


 ……酷い殴り書きだ。


「読めん」


「失礼だなあ、まさか無配慮だっだなんて……罵倒ボキャブラリーに追加しておこう」


 罵倒ボキャブラリーに『無配慮』が追加された!


 これで、現存する罵倒用語は『独創性もなければ、探究心もない、おまけに根性なし……さらに、救いようのないことに無配慮』だな。


 うむ、隙のない布陣だ……今すぐそのメモ帳を灰に変えてやりたい。


「もう聞かん。反省文に集中させてくれ」


「つれないなあ、僕たち長い付き合いじゃないか」


「こういう時に『長い付き合い』が云々と言うやつは、将来友達以下のやつにも金を借りにいくような人間になるぞ。無論、俺は貸さないがな」


「メモ帳には『新たな嘆願書を入手!』って書いてあるんだよ」


 都合の悪いことは無視する、華麗なる身のこなしだ。


「……嘆願書? なんだそれ」


「もしかして本当に神さまのことを知らなかったわけ?」


「だから、そうだと言っているだろ」


「はあ……あのね、神さまに願うのにもルールがあるわけ。ただぼーっと天を仰いで『配慮ができる人間になりたい』と願っても、現状はなにも変わらないわけ、わかる?」


 実に人を小馬鹿にしながら話をするのが上手いやつだ。


「じゃあ、どうするんだよ」


「よくぞ訊いてくれた! 神さまにお願いをするには、体育館裏にある祠に嘆願書を提出しなければならないんだ」


「へえ、そんなところに祠なんてあったんだな」


「そんなことも知らないで、よくものうのうと学校生活を送ってこれたね」


 我慢の限界だ。


 俺は反省文に目を落とした。


「……んー、これ以上の反省は少し演技っぽいだろうか」


「悪かったよ、反省文に戻らないでくれよ」


 全く……調子のいいやつだ。


「ルールについては理解したが、お前、祠にある嘆願書を盗んだんだな……窃盗犯」


「違うよ! 僕はあくまで写真を撮らせてもらっただけさ」


 撮らせてもらったと言うが、当然、誰の許可も得ていないのだろう。


「ただ……妙な嘆願書なんだ」


「……妙?」


 真壁は、学ランのポケットからスマホを取り出し、俺の目の前に差し出した。


 液晶には嘆願書が映っており、そこに記された文字を見た俺は、背筋が凍るような感覚に陥った。


『神さまに会いたい――』

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