第17話 真壁興(まかべきょう)はユニークなやつだ

 ねえ、神さまって知ってる?


 真壁興(まかべきょう)は、好奇心旺盛な瞳で、俺を睨むように見つめてきた。


「神さま? 神さまって概念のか?」


「概念って……いやいや、違うよ」


「それ以外の神さまは知らんな」


「またまた、冗談でしょ?」


 真壁という人間は、自身が持ち合わせている知識が、他人の知識の範囲内だと思っているようなやつだ。


 むかつきはしない、小学一年生からの長い付き合いだ。


 なんと言っても、俺は真壁に感謝しているんだ――俺が母親を失い、心が荒んでいた時、こいつは傍にいて話しかけてくれた。


 真壁興は、紛うことなき親友なのだ――なにをされても腹が立たない自信がある。


 俺の心中を察して意地悪をしたくなったのか、真壁は寂しそうに肩を竦めてみせた。


「全く……この学校の生徒で、神さまの存在を知らないやつなんて、きみくらいだよ。逆に称賛したいね」


 ん、流石に今のは腹が立つ。


「それほどメジャーな都市伝説があるのか」


「都市伝説か……うーん、どうもそういうのとは違うんだよねえ」


「学校の怪談か?」


「少し離れたね」


「……いかにも答えを知っているような口ぶりだな」


「答えというか、ニアイコールならわかる。ずばり、『噂』だね!」


「噂ねえ……」


 都市伝説、学校の怪談、それに噂。


 その三つはわざわざ議論するほど遠いものなのか?


 まあ、真壁とはそういうやつだから、仕方がないところはあるが。


 真壁は、二人で挟んでいる机に勢い良く乗り出した。


「ともかくだよ! この噂にはすこーし興味深い謎があってね、それを調べてるんだけれど……」


 俺はかぶりを振った。


 いつもこういう話を見つけてきては、俺に協力を求めてくるが、大抵断っている――神さまになった今でも、サブカル系には興味がない。


 それに、『三留高校の神さま』について調べているということは、『俺のこと』を調べているのと同義だ……関わらないのが得策だろう。


 拒否すると、真壁は萎れた花のように大人しくなった。


「本当、こういうのには興味を示してくれないねえ。面白いのに」


 まただ。


 自分が面白いと思うものは、誰もが面白いと感じて然るべきという少数派思考だ。


「興味がないわけじゃないが、こいつがまだ残っている」


 シャーペンの先で四百字詰め原稿用紙をさした。


 呆れた表情に変わる真壁。


 色々な表情があって面白いやつだ。


 こいつは、自分の表情の豊かさの秘密について探究した方がいい。


 さらに呆れたということを強調したいのか、深いため息を吐いてきた。


「小説で食っていくのは難しいと思うよ? 独創性もなければ、探究心もない、おまけに根性なしときたもんだ。そもそも論を言えば、きみは人間としてのパロメーターが低すぎるよ」


 最後の部分は否定しない……が、批評の際は良いところも言ってほしいものだ。

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