第13話 やっぱりカーフキックは痛い

 いやはや、二回目とて、疲れるものは疲れる。


 むしろ二回目の方が、疲れる。


 物事というのは、そういうものなのかもしれない。


 スポーツで例えるとわかりやすい――具体的にはテニス。


 一回目のテニスは、誰もが純粋無垢にプレーするだろう――言うなれば、力任せにラケットを振り抜くスタイル。


 だが、二回目は違う――一回目の際に、フォームなり、基本の動作に施しを受けるはずだ。


 世間一般に考えれば、二回目の方が上手になっていると思うはずだろうが、それはまさに思い込みというやつで、実は二回目の方が圧倒的に下手なことが多い。


 理由はすこぶる簡単で、キャパオーバーということだ。


 基本の動作という教科書が脳にあるため、それを必要以上に意識するあまり、プレーが疎かになってしまう。


 俗に言う、元の木阿弥、本末転倒、呉越同舟だ。


「ちょっと! 最後のやつは意味がわからないけれど」


「ともかくだ、俺が言いたいのは、登山は疲れるってことだ」


「これを登山に含んだら、登山家にいびられるよ? しかしまあ、体力がないことを言い訳するために、よくも平然と嘘を羅列できるね」


「言い訳じゃなくて、釈明だ」


「本当、物は言いようだね……」


 そう、俺は神宮と二回目の守山に訪れていた――この状況、まさに呉越同舟。


 しかしだ、神宮は登山というものをまるで理解していない。


 こんなものは常識の範疇だから、他所に行って平然と「知りません、わかりません、物は言いようだ」と言われては、神宮に関与している者として、恐ろしく恥ずかしい。


 仕方がない、こいつに、登山とはなにかを享受させよう。


 ここは、次期神さまの懐の広さを見せてやる。


「聞け、神宮」


「そう高圧的に指示されると、背きたくなるなあ」


「じゃあ……聞きやがれ」


「ちょっと! 酷くなってるよ!」


「ともかく聞いた方がいい。いいか? 登山とは――」


 ありがたい解説の冒頭で、突如のカーフキック。


「うがぁあっ!」


 脹脛に、感じたことのない強烈な痛みが響く。


 あまりの痛みに、立位を保持することが困難になり、情けなくその場に倒れてしまった。


 こいつっ!


「なにすんだ!」


「なにって……知らないの? これは、カーフキックって言うの」


「カーフキックくらい知ってる! 俺は、なんでカーフキックを蹴ってきたのかを訊いてるんだ!」


「だって……戸出くん、『登山とは人生だ』とか、凄くベタで、薄っぺらいことを言おうとしなかった?」


「言ってもないのに蹴るな! というか、言っても蹴るな!」


 この暴力女が、世間的に崇められている神さまだったなんて、想像するだけで背筋が氷点下に達しそうな話だ……脹脛いてえ……。


 こうなったら、意地でも、登山とはなにかを解説してやる……脹脛痛いです、本当に勘弁してください……。

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