第2話 思春期vs青年期
「当たり前だろう? 神さまなんているわけがない」
「いるんだよねえ、たまに。自分から祠に嘆願書を出したくせに、『神さまなんているもんか!』って言う人」
「何故そのことを――お前!」
自称神さまは、俺が祠に置いたはずの嘆願書を持っていた。
「返せ」
「なになに。人のラブレターを読むなって感じの鋭い目になったね......いやはや、思春期は面白い」
お前はお前で、人のラブレターを盗んで、楽しいって感じの不快な目をしているな......いやはや、青年期は鬱陶しい。
「お前のような得体のしれないやつに宛てた手紙じゃない、返せ」
「私に宛てた手紙でしょ? 想いを寄せる子に宛てた手紙なら、下駄箱、机の中、もしくは直接渡すのが鉄板だけれど――三留高校において、体育館裏の祠に嘆願書を提出したら、それはもう神さま宛だよね」
「お前の話は聞いていない。俺は返せと言っているんだ」
「きみにとって、神さまだって得体のしれないやつじゃないかな?」
「揚げ足を取るな」
「揚げ足って、唐揚げみたいで美味しそうだよね」
「いい加減黙れ、青年期」
女生徒は、俺の言葉を無視し、なに食わぬ顔で嘆願書を開いた。
「どれどれ。『神さまに会いたい』か......それだけでいいの?」
「帰る」
「ちょっと! 恩人にその態度は失礼じゃない?」
「どこに恩人がいるんだよ」
「どこって……ここだよ、ここ! きみの目の前!」
「お前に施された覚えはない」
「いや、きみの願いは叶ってるよ? 十分、施されているよ? ほら、きみが会いたかった神さまだよ?」
駄目だ、怒りゲージが有頂天に達した。
サハラ砂漠よりも広大な器を持つ俺でも、流石にこいつの妄言には飽きた。
言って聞かないのであれば......。
「わかった。自称神さま――歯を食いしばれ」
俺は、いきなり神さまに殴りかかった――が、すらりと攻撃をいなすようにして回避されてしまった。
自称神さまは、顔を真っ赤にして、
「ちょっと! 女の子に暴力を振るうなんて最低!」
とクレームをつけてきた。
無意識の手加減。
本気で腕を振り抜いたつもりだったが、女子高生相手だからか、力を抜いてしまったようだ。
ここは反論をしなければ、示しがつかない。
「最低はお前の方だろう」
壊滅的な語彙力と、幼稚な論理がコラボレーションしてしまった。
「あー、高校生にもなってまだそんなこと言う? 『最低って言った方が最低』理論が通じるのは、小学校低学年までよ?」
おっしゃる通りで。
だが、男たるもの、毅然とすべきだ。
「茶化すな。どうして殴りかかったかわかるか? 俺は、お前みたいに神さまを気取ってるようなやつが嫌いなんだよ」
「気取りじゃないって」
「気取りだ。神さまはいない――だから、神さまを名乗るやつは、例に漏れることなく全員嘘吐き確定だ」
「む、そこまでコケにされると、流石に腹が立つ! 別にあなたに固執する必要はないけれど、アレはあなたにやってもらうわ! ここで退いたら負けみたいだし」
アレ?
一体なんの話をしているんだ。
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