自称"神さま"の女の子と険悪になりまして ~紡の切なる願いとは~

水本しおん

第1話 自称”神さま”との出会い

 私立三留(みとめ)高校には神さまが存在して、体育館裏の祠に、嘆願書を提出すると、願いが叶うことがある。


 そんな噂を耳にした俺は、迷うことなく三留高校を受験した。


 噂はあくまで噂。


 誰かが嘯いた作り話。


 情報リテラシーが厳しく問われるこの時代、子ども騙しの噂を信じてしまうやつは、学校の勉強の前にリテラシーを学んだ方がいい。


 当然、俺も全く信じていない。


 だがしかし、本当に神さまがいたとしたら?


 いなくとも、神さまの名前を無断使用し、権力者ごっこをしているやつがいるとしたら?


 どちらでもいい。


 目的はたった一つ――神さまを殴ってやることだけだった。


 真っ向から話さなければならない、真っ向から否定しなければならない。


 許してしまうことは即ち――あの憎悪がなかったことになってしまうから。




 私、神さまなの。


 くすりともしない冗談を言ってきたのは、ポニーテールを結び、三留高校の制服に身を包んだ女の子だった。


 目を疑った。


 それは、ポニーテールが反則的に似合うという点についてではない。


 何故この時間に、この場所にいるのかということに目を疑ったのだ。


 時刻は丑三つ時。


 こんな真夜中――いや、こんな早朝に、高校に忍び込むような輩は、俺くらいなものだが……。


 なにかやむを得ない事情でもあるのだろうか……いやしかし、丑三つ時に、学校に忍び込まなければいけない事情とは?


 俺と同じ理由でないとするならば、学校にでも住んでいるのだろうか。


 いやいや、学校に住むなんてことは考えられない。


 住んでいない――であれば、学校に憑いているというのは?


 そういうことであれば、納得だ。


 一期一会。


 せっかく出会ったのだから、挨拶くらいはしておこう。


 挨拶は相手によって、応接を変える必要がある。


 ポイントは、相手の言語と人となりを見極めることだ。


 言語は、相手が英語圏の方なら英語で挨拶した方がいいし、同じ日本人であれば日本語で挨拶すればいい。


 人となりも単純で、相手が幼稚園生なら易しい言葉を心がけた方がいいし、幽霊なら優しい言葉をかけた方がいいというだけの話だ。


 そして、今回ならこの言葉が相応しいだろう。


「早く成仏しろよ」


「ちょっと! 死んでないから!」


 死んでない?


 予想外の返答だ。


 死んでないとすると......いや、待てよ?


 その線があったか。


「......なるほどな。お前、死んだことがまだ受容できていないのか」


「ちょっと! その納得顔やめて! 成仏できていない『わけあり幽霊』とかではないから! というか、もう一度言うけれど、死んでないから!」


 やはり死んでない?


 これまた予想外。


 こいつの言うことを信じるのであれば、理由はわからないが、単なる非行少女の線しかない。


 そういうことなら、俺がこいつにかけてあげられる言葉は一つだ。


「夜更かしは美容の大敵だぞ」


「ちょっと! 神さまを不良女子高生と一緒にしないで! いやまあ......うん、お肌については気を付けるけれど......」


「神さまは肌艶とか気にしないだろ」


「偏見だあ......。あのね、神さまだって、一般の女の子と変わらないよ? ファッションとか、髪型とか、流行を追いかけまくってるから! ううん、それどころか、流行を追い越して未来行ってるから!」


 女子高生、それでいて、神さま――少しパンチが弱い、有象無象だな。


 奇抜さをアピールしようとしているのだろうが、その魂胆が透けて見える時点で、圧倒的に没個性だ。


 いやはや、ライトノベルの題材にしたって酷い。


 もう少し捻って、もう少し頭を柔らかくして、もう少し目新しさを加えた方が受けるだろうな。


「あ、もしかしてきみ――神さまなんて信じないってタイプの人?」


 腰に手を当て、覗き込むようにして訊いてくる自称神さま。


 本心を吐露すれば、即座に回れ右をして、自宅を目指したいところだが――今回ばかりは我慢する。


 俺は、悪戯に神さまを謳っているような輩が嫌いなんだ――話を聞いて、喝を入れてやる。

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