第3話 ようやく始まるモノガタリ
ポニーテールの神さまは、嘆願書にもう一度目を通し、こちらに向き直った。
「一年生、戸出一二三(といでひふみ)くん――」
記載した名前を確認したらしい。
「あなたにどういう事情があって、神さまを毛嫌いしているのか、一切わからないけれど、私は決めました! 戸出くん、あなたには、神さまになってもらいます」
ディスイズ素っ頓狂。
発言の意味も意図も理解が追いつかない。
俺を引き止めた一言目に似た言葉だが、一言目とは明確に異なる。
今度は、勧誘ではなく、それが決定事項のように淡々と言ってきたのだ。
「神さまを信じていないやつに、そんな台詞を吐く......益々理解できないぞ」
「もちろん戸出くんにも利があることよ」
「利?」
「戸出くんには、『私が神さまであること』を証明してみせます。そして、証明をできたら神さまになってもらいます――ただし、もしも証明できなかったら、私をぶん殴ることを許可します」
「そんなこと、お前に許可してもらう必要はない」
そう言って握り拳を作った。
「気張っても無駄。私、空手を習っていたから、一般的な男子高校生が相手なら負けないよ?」
こいつ、格闘の鬼じゃねえか......。
回避された理由がわかった――やっぱり俺は手加減をしておらず、向こうが一枚も二枚も上手だったから、余裕の表情ですらりと躱されただけらしい。
これは、戦略的に敵の提案を飲むべきだ――真っ向から挑んでも、反ってこちらが怪我をしかねない。
「......わかった。じゃあ、悪魔の証明を証明してみろ」
「お、乗ってくれるんだね! それじゃあ、明日からの業務に同行してね」
「業務って......」
こじらせすぎて、見ているこちらが恥ずかしい。
「間近で仕事を見てもらう方が、こっちとしても手っ取り早いからね」
「仕事って『人々の願いを叶える』とか、そんなところか?」
「そうそう、それが神さまの仕事――本当、皮肉なものだよ」
皮肉?
わざわざ訊くようなことでもないと思ったが、彼女のその瞳が、その表情が、寂寥感に染められているように見えて、質問したくなってしまった。
「お前――」
「ちょっと! いつ言おうか迷っていたけれど、お前って失礼だよ!」
遮られた。
「いや、お前の名前知らないし」
「またお前って言った! はあ......私は二年生の神宮紡(じんぐうつむぎ)ね。紡ちゃんって――」
「神宮だな」
「......はいはい、それでいいよ」
こうして、俺と神宮紡の物語は始まった。
どのような物語にも、始まりがあれば、終わりもある。
それは、心得ていた。
だが、厚顔無恥だった。
そして、俺は知らなった。
まさか、突然に始まった話が――唐突に終わることもあるなんて。
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