第11話 しょうじきんなれよ


「じゃ、文化祭の出し物は『夏祭り』で決定でーす」


 7月頭に開催される文化祭。我がクラスは『夏祭り』をすることになった。様々な案が飛び交った結果、全てを合作した『夏祭り』。たこ焼きも焼きそばもかき氷も何もかもをやるというズル。生徒や来校者はこのクラスだけで文化祭の百パーセントを楽しめる。


「内容はいいんだけど、名前もうちょっと捻って『夏の香り』とか『夏の先取り』とか……『一足先に』とかどう?」


 こんなめちゃくちゃな案には特に反対せず、出し物の名前にクサイ提案をするのは担任の島ちゃんことよーちゃんことハーシマこと島田葉月。ストレートミディアムで丸眼鏡をかけたやや童顔。大人しそうな顔をして平気でこんなことを言う曲者だ。


「やだー!」

「蛇足ー!」

「鼻につくー!」

「ムカツクー!」

「ダルすぎ!」

「はい……」


 はーちゃんの名案は全会一致の野次によって無事却下される。が、頑張って考えた案が野次なんかで消されてしまうのはあまりにもかわいそうだ。


「ままそう言わず。案が出た以上、ちゃんと多数決を取りましょう」


 『夏祭り』『夏の先取り』『一足先に』『夏の香り』。


「や、あの、いいよ? わざわざ」


 前に立つ文化祭実行委員の男が晒しあげるようにそれらを羅列する。彼ははーちゃんの言葉に耳を傾ける気も無い。

 文化祭実行委員の男、それ即ち俺。

 結果は火を見るより明らかだった。クラスメイト42人、うち41票が『夏祭り』に投票した。他の案が良かったがノーと言えなかった日本人も少しは居るかもしれない。


「じゃあ俺は『夏の香り』に同情票を入れときますっと……」

「やめてよ……」

「じゃあ次内容決めよっか。分担しなきゃいけないし……三つ? 四つ?」

「何やりたいか決めてからじゃね?」


 肝心のテキ屋は何をやるか。本来ひとクラスで一つしかやらない出し物が数倍になるわけだから、無尽蔵には増やせない。話し合いの結果『かき氷』『焼きそば』『射的』の三つに決定した。たこ焼きもなかなかの人気を誇ったが、他のクラスがやりそうなので敗退。


「班分けはくじ引きで」

「えーやだー」

「はんたーい」

「いやいや皆さ、文化祭仲いいやつと回りたくない? でも希望で決めたら被っちゃうでしょ? かと言って仲良くないやつとみたいな組み方気まずくね?」

「「賛成!」」


 十四人三班の編成は順調に決まり、俺は焼きそば組になった。ここで今日のホームルームは終了。顔合わせというかよろしくの挨拶だけ済ませ、帰宅部は残って少し作業したり……なんだけど、ここで一つ大きな問題が。


「うわ……」

「奇遇だな」


 ドジ下さんと同じ班になってしまった。しかし見方を変えればこれは僥倖。当日にドジ下さんと入れ替わりのローテになれば自由時間は別々の行動ができる。


「まず当日のローテーション決めようよ。ドジ……なんだっけあの、えっとそう! 坂下さんと俺は別のローテに」

「だったら坂下さんと神代君は一緒がいいよね!」

「だなー。あとはくじ引きでいんじゃね?」

「俺部活行くからテキトーによろしく」


 まずい流れになってきた。俺とドジ下さんが付き合ってるっぽいというのはどうも結構な共通認識になってしまっているらしい。


「俺ら別に付き合ってたりしないからね? むしろ仲悪いくらいだし」

「またまたぁ。仲悪いのに一緒に帰ったりしないって!」

「それ」


 くそ、確かにその通りだ。しかし『付き合ってるのか』という見解についてはドジ下さんの方が強く反発する。俺は『言ったれドジ下!』という意思をこめて彼女に視線を向けるが。


「そうだな。私もそれがいい。それなら自由時間も一緒にいられるな」

「った〜……バカ!」


 つい言葉に出てしまった。

 「ほらー」だの「坂下さんも言ってるじゃん」だの、そういう空気になってしまった。


「……俺なんか飲み物買ってくる」

「俺もなんか炭酸ほしい」

「私お茶ー」

「金後でもらうからな。坂下さん、ちょっとこいこい」

「? 何故だ」

「いいから」


 俺は坂下さんを半ば無理やり連れ出して戦線を離脱する。


「あんなこと言っていいの? 俺と付き合ってるって思われてんだよ?」

「そんなことわかってる。お前は私をなんだと思ってるんだ」


 あ、わかってたんだ。なんだと思ってるって、クソバカのドジちゃんだと思ってますけど。


「だいたいなんでそんなくっついてくるのよ。俺にくっついても何もないってわかるでしょ」


 吸血鬼と裏で良からぬ繋がりを持っているかもしれない、とかなんとか言って俺を監視しているらしいが、もし後ろ暗いことがあってもこんな露骨にくっつかれてボロを出すわけがない。


「…………」


 すると、坂下さんは黙り込んでしまった。さすがの坂下さんでもわかっていたらしい。意外だなぁ。もっとアホちゃんなのかと思ってた。

 でも、そしたらこれを続ける意味がわからない。ましてや文化祭でまで。何か他に理由があるとか? しかし監視以外に何か理由なんて……


「もしかして……友達いないの?」

「!」


 坂下さんはピクリと反応すると、目を泳がせる。


「一緒にいられる友達いないけど一人は嫌だから俺にくっついてんの?」

「ややめやめて……」


 いつもの雄々しい坂下さんは何処へやら。随分としおらしくなってしまった。普段からその方がいいよ。


「話す程度なら大丈夫だが……文化祭一緒にいるって一番の友達じゃないと無理だろ? 私が一番の友達の人なんていない……」

「なんだそれ。だったらこのタイミングで同じ班の人と仲良くなれば良いじゃん。同じローテのやつだったら一緒に回れるし」

「そ、そんな簡単に言うな……慣れない相手には……話しかけられない……」


 話す程度もだめじゃねぇか。


「なんで俺は大丈夫なの。凄えオラついてくるじゃん」

「お前の場合は……流れでそうなったから……」

「はぁ……」


 ついため息が出る。


「しょうがないなぁ。まずは焼きそば組と仲良くなりなよ。俺もまあ……手伝う? からさ」

「本当か!」


 文化祭。実行委員、といっても大した仕事はないが、それと焼きそば組の仕事に加え余計な仕事が一つ増えてしまった。

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