第9話 にゃんっていえよ
「こ、これはその……! そういう趣味で!」
「そういう趣味だったの!?」
「い、いやちが……っ!」
茶髪のショートヘア。と言ってもダイアスみたく地毛ではなく、染めただけだと思う。そこからはえる猫耳は髪と同じ色で、質感や毛並みが驚くほどリアル。ぱっと見本物だ。
「すげえそれ、本物みたい。触ってもいい?」
「それはちょっと……やめてほしい」
「そう、ごめん。なんなら外してでも良かったんだけど」
「実は、ちょっと潔癖で……」
「道端で蛙食うのに?」
彼氏でも惚れられてるわけでもないのに、急に頭を触るわけにはいかない。髪触られるのがすごい嫌な人っているし。でも、あんだけリアルなやつはちょっと触ってみたかった。
と、ガッカリしていると。
「ん、本物だなこれ」
「いってッッ!」
「坂下さん!?」
先の話をガン無視していたのか、このドジはあろうことか猫耳を容赦なくつまんで引っ張った。
「なにしてんの!? 話聞いてた!?」
「お前、猫又か?」
「──! 坂下さん、知ってるの……?」
猫又。聞き捨てならない。吸血鬼ほどパッと出てこなかったけど、聞いたことはある。
河野さんの反応的に本当にそうっぽい。吸血鬼がいる以上、他にもそういうのっているのか。また同じクラスにって、そんなにいるもんなの?
「ねね、坂下さん」
「? んだよ」
俺は小声で坂下さんに手招きする。
「ハンターって、猫又も殺すの?」
「いや、私は基本吸血鬼専門だ。危険な奴なら対処はするが」
「そう。」
ちょっと安心した。それなら河野さんまで問答無用で殺しにはいかないか。吸血鬼相手でもそうやって臨機応変にしてくれたらいいんだけどなぁ。
「ところで河野さん。その耳って普段はしまってるの?」
さっきボロをだしてしまったからか、河野さんは諦めて素直に答える。ほんとに猫又なのか。じゃあ○○にゃとか言ってくんねぇのかな。
「……うん。そうだよ。ちょっと気を抜くと出ちゃうんだ。それより坂下さんって……何者? 猫又のこと知ってたみたいだけど……」
「吸血鬼狩り」
「あ、普通に言うんだ」
坂下さんは隠す様子もなかった。なんで? そういう……怪異というか、その界隈では隠すようなことじゃないのかな。
「へぇ、珍しい。初めて合ったよ。でもこっち側の人ならバラされる心配ないね。よかったぁ」
珍しいとは言っているものの、河野さんもそんなに驚いていない。やっぱり普通の人間以外には隠すもんじゃないのかね。
「じゃあ、神代君は? 猫又のことは知らなかったんだよね。もしかして吸血鬼だったり?」
「え、なんでそう思うの?」
俺の疑問に、河野さんはニヤリと笑う。
「なんか最近、二人一緒にいるからさぁ。付き合ってるのかなって噂になってるよ。で──」
「何!?」
河野さんの言葉を遮ったのはドジ下さん。彼女は目をひん剥いて食らいつく。
「私が! コイツと!? あり得ない!」
「坂下さん、飴あげる。ほら食べな」
「あ、うん。」
口元にコーラ味の飴を持っていけば、迷いなく食いつく。ちょっと黙ってろ。
「河野さん、それで?」
「そういうことしてるからだよ。うん、でね、坂下さんが吸血鬼狩りなら実は神代君は吸血鬼で、禁断の恋──みたいのだったら面白いなって。」
「確かにありがちだけど、残念ながら普通の人間なんすわ」
それに。この人、吸血鬼とくっつくとか絶対ないから。秒で殺しに行くから。よかったね河野さん。吸血鬼じゃなくて。
そういえば、そもそもはこの人が体調でも崩してるんじゃないのかと思って声かけたんだった。そういうわけじゃなかったし、あんまり長居することもないな。
「じゃ、そろそろ帰るね。河野さん、今度猫又のこと教えてよ」
「こっちこそ、色々聞かせてよ。普通の人間なのになんで吸血鬼のこと知ってるのか、とか」
「おっけおっけ。あと蛙生で食うのやめときなよ? 人にも猫にもつく寄生虫とかいるらしいし。人で猫だから倍つくかもよ」
「うっ……今はちょっと我慢できなかっただけだから……」
「ほら坂下さん、帰るよ」
「うん」
翌日、学校。
「ね〜神代くぅ〜ん」
「いや、ちょっと……」
「ね〜ぇ〜もぉおあずけ〜?」
「違うって、ほんとにもう……」
人がいないとはいえ校内なのに憚らず、猫耳をぴょこぴょこと揺らす河野さんがからだに絡まってくる。
「おねがぁい」
「やめ、やめてって……誰か来るかもだし……」
こんなとこ、誰かに見られたら絶対に誤解される!
「神代クン……」
甘い声でねちっこく絡まってくる彼女の顔が、だんだん近づいてくる。
「だ、だめだよ河野さん! 僕たち、付き合ってもいないんだし……!」
さて。またまた言ってみたかった台詞をいったけど、何が駄目なんだ? この状況。もう俺が何しようと駄目じゃねえだろ。据え膳食わぬは男の恥。いただきま〜
「おーい、かみし……」
と。美味しいタイミングで邪魔をしやがったクッソ愚か者は。
「うわ……」
「ち、違うんだ!」
明らかにドン引きして立ち去ろうとした。
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