第6話 きゅうせっきんじゃん


 クラスメイトが吸血鬼だったことが判明し、その妹を暴走させ、そのせいで家の窓がぶち破られ、それをやったのが吸血鬼狩りである別のクラスメイトで、そいつは叔父に気絶させられたあれから一日。

 俺は勿論変わらず登校した。しかし驚いたことに、坂下さんはともかくダイアスまでもが平然と登校していた。


「ダイアスダイアス」

「な、なに?」


 声をかけると、ダイアスはいつもとかわらぬ様子だ。キョドってるのはいつも通りだから。


「よく普通に学校来れたね」

「なんかあのあと、さカスたさんの叔父さんが一人で戻ってきて」

「うんうん、うん? なんて?」

「だからさカスたさんの叔父さんがね、一人で戻ってきて」


 さ『カス』たさん? 聞き間違いかな? ダイアスは温厚な性格のはずだけど。まぁ殺されかけたらしょうがないか。いや、俺だって殺されかけたけども、これに関しては吸血鬼に血を与えた俺も悪いから。


「何話してたかは教えてくれなかったんだけど、『明日は普通に学校行って大丈夫』って。」

「ふーん?」


 結局何を話しのかわからないから腑に落ちない。でも母アスがそう言うのならそうなの、かなぁ?

 だってさ。


「おい」


 俺に話しかけてきた坂下さん、未だ怒り冷めやらぬ御尊顔をしてらっしゃるから。


「クソ野郎、よくもぬけぬけと来れたな」

「うわ、ら抜き言葉じゃん」

「チッ……この……ッ!」

「冗談冗談! あんまりアレだとまた叔父さんに伸されちゃうよ!」

「お前……本当に殺されてぇか……!」


 とはいえ俺だって坂下さんに思うところはある。殺されかけたんだもん。何も知らんかったのに。吸血鬼って潜在的に強いものだと思うじゃん。吸えば吸うほど強くなるとか知らねぇよ。いやまぁ、そんな設定もありがちではあるけど。

 という僅かな怒りを込めての煽りだったのだけど、予想以上に効いてしまったのか坂下さんはどこからかナイフを持ち出す。


「わわ、か、顔が近いよ〜っ!」

「はじぽん……叔父に言われたから大人しくしてやってるけど、あんま調子乗んなよ」


 実績解除、『顔が近い!』。次は『と、とにかく服を着てくれ〜!』辺りを狙いたい。いや、それはあまりにも飛び級か。

 胸ぐらを掴まれ、顔を近づけてきた坂下さんは俺の首筋にナイフを這わせる。


「あっ、結構かわいい……そんなに近づかれたら好きになっちゃう……」

「テメェ、マジで殺されてぇか……!」


 ナイフを持つ手に僅かに力が加わり、首の皮膚に少し食い込む。

 この状況でなぜ俺はこんなにも冷静なのか。この前のイキり続き? ノンノン。

 そのナイフは俺の皮を切り裂くことなどなく、逆にブレードが柄に少しだけ引っ込む。


「おもちゃじゃん」

「えっ……」


 咄嗟に俺の胸ぐらを離した彼女はナイフのブレードを掴んで押し込む。ブレードはシャコシャコとバネの音を鳴らせて見事に引っ込んだ。


「え〜っ! おもちゃのナイフでごっこ遊び!? かわいい〜!」

「クッ……はじぽん……!」


 どうやら叔父の坂下一さんの仕業らしい。はじめおじさんとかじゃなくてはじぽんって言ってるのかわいいな。もしまた会ったら俺もそう呼ぼう。

 坂下さんは「覚えてろよ」と吐き捨てると自分の席に戻ってしまった。実績解除、『覚えてろよ』。この短期間で二つの実績解除。てか、君の失態覚えてていいの? 「忘れろ」じゃね?


「あれ? そういえばなんでダイアスには何にも言わなかったんだろね。話すのも嫌だ、とか?」

「お、俺も不思議なんだけど、もしかしたら……」


 ダイアスは「いや、流石に……」と迷いつつ。


「あの時、顔腫れてたから……わかんなかった、とか……」

「……いやいやいや。そんなまさかぁ」


 そんなことある? いくら顔がパンパンになっててもさ、髪の色とか目の色とか、この辺じゃダイアスの家系以外一人もダブってる人いないよ? それは流石に……。


『俺のときは殴ったのに……』

『そこ、うるさい!』

『誰だアイツ? アイツも吸血鬼か?』


 …………。


「あるかもしれない」


 嘘だろ。あまりにもドジっ子すぎるだろ。あんな決め顔に口調荒いキャラで、それ? 萌えるな。





 一日、授業は滞りなく終わり、なんの問題もなく帰宅オタク。さてとサブスクでアニメでも見ようかな〜と人を駄目にするソファに腰を沈めた時、インターフォンが来客を知らせた。


「……んー。今俺、駄目になっちゃってるからな」


 何か荷物が届くなんてのも聞いてないし。今駄目なんで。しょうがない。

 しかし数秒すると、またインターフォンが鳴る。この時点で宅配説は薄くなる。営業か勧誘の線が厚い。

 数秒後、また鳴る。

 もう一回。

 さらにもう一発!

 飽き足らずもっかい。

 もうひと押し!


「うるせぇ!」


 人を駄目にするソファをも凌駕するインターフォン。ついに耐えられなくなってモニターを見てみると、そこに立っていたのは。

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