第3話 おれのせいだよ!

「ほんと、すみません……」

「いや……気にしないで。ちゃんと話してなかった私が悪いから……」


 折角ご機嫌とって勝ち得た母アスの親密度も、水泡に帰したどころかマイナスまで振り切れてしまった。相手は吸血鬼。未知の存在だというのに、俺としたことが未知への恐怖が足りなさすぎる。

 高速でリビング駆け回ったりなちゃんはすっかり疲れたのか、今はソファーで横になっている。


「あんなことになるとは思わなくて……。ダイアスが猫の血吸ってたときもなんにもなってなかったし……」

「うっ……」


 猫の話を持ち出すとダイアスから変な音が出る。これからもたまに使っていこう。


「人の血だとこうなっちゃうものなんですか?」

「まぁ……そんな感じ。だから、今の時代吸血鬼はなるべく吸血しない。生きていくには普通の食事で問題ないからね。動物ならこうはならないんだけど、吸い慣れてくると我慢できなくなっちゃうの」

「あー、だから猫でも駄目と」

「ううっ……」


 どうやら、吸血鬼にとって血液というのはドラッグのようなものらしい。幼子にドラッグを与えてしまった。この始末、どうつければ良いのだろうか。


「吸血鬼はね、人の血を吸うとその人の力を少しだけど取り込めるの。」

「……えっ、それじゃ俺、もしかしてめちゃよわになっちゃったとか?」


 母アスはクスリと笑うと首を横に振る。


「ううん。奪うわけじゃないから。コピペの方が近いかな」

「そうなんだ。……だったら人の血吸いまくった方が良くないですか? こっちに特にデメリットないなら、強くなれるんだし」

「そうもいかないの。悪いことしてなくてもね、あんまり強くなっちゃうとハンターに見つかっちゃうし。」

「ハンッッ! ……たーねぇ」


 危ない危ない。

 ハンター、つまるところヴァンパイアハンター。どう足掻いてもテンション上がる存在の登場に危うく叫んじゃうとこだった。もしりなちゃんがヴァンパイアハンターに狙われるってなったら、原因俺なのにな。


「といっても、一人や二人吸血したくらいなら大丈夫だから、気にしないでね。」

「ほんとに大丈夫ですか? ……なんかめっちゃ速かったんだけど……。」

「そう、そうなの。普通あんなに顕著に出ないの。翔吾君、実はオリンピック選手だったりする?」

「まさかぁ。ごく普通のありふれた高校生ですよ。」


 ごく普通の高校生。アニメの主人公たるには重要な要素だ。ここは譲れない。

 というか。こうなるとやっぱり、りなちゃんが狙われるなんて可能性も捨てきれないんじゃないか。


「ほ、本当に気にしなくて、いいよ。吸血鬼もハンターも、もう滅多にいないから……」

「うーんそれならいいけ──」


 ダイアスの言葉に、僅かに安堵したその時。


「伏せて!」


 突然、母アスが叫びながら飛びかかってくる。

 瞬間、ガラスの割れる音とやかましい破裂音が数度、響き渡る。

 割れた窓の奥には、一人の女が立っていた。


「──お前……っ! ……っと、えー、あの……坂下さん!?」

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