第8話 サラマンダー
(本当に精霊が出てきた)
ってことは俺は、本当に英雄なのか? あまりに唐突すぎて、状況が理解できず、呆然としていると精霊が俺に向かって話しかけてくる。
{おい、聞いているのか?}
{あ、はい}
{お前が呼んだってことだな}
{そうなりますね}
すると精霊は、俺の目の前にやってきて問われる。
{お前は何を求めて俺と契約をする?}
{何って......}
口ごもってしまった。なんせ、ティターニアに魔族の世界征服を止めてほしいと頼まれているが、それが俺は本当にしたいことなのかわからない。
{口籠るってことは決まっていないってことだよな? だったらもう一度来な}
そう言ってこの場から消えそうになってしまったので、引き留める。
{ちょっと待ってくれ}
{なんだ? だったら契約する理由があるのか?}
{わからない。でも}
{でもじゃねぇ。俺はシルフみたいにすぐ契約したりしない}
すると、シルフが出てきて言った。
{サラマンダー。この人は英雄だよ?}
{そんなこと知っている。だけどな、覚悟がない奴と契約なんてできるわけないだろ}
そう言って、俺の方を見てきた。
(覚悟か......)
まず覚悟ってなんだよ? 今まで、誰かに頼まれて古代文字を解読してきた。それじゃダメってことなのか?
{サラマンダー様、覚悟とは何ですか?}
{お前は、俺の力を何に使いたいと考えている?}
{それは......。魔族の食い止め?}
ふと思いついたのがこれであった。ティターニアに頼まれたことでもあったが、それ以上に魔族が世界征服をしてしまったら、魔族とそれ以外の種族で上下関係ができてしまう。そうなってしまったら、今以上に住みにくい世界になってしまう。だから俺はそれを食い止めたい。
{あ~。だったら契約はしない}
{え?}
{魔族を食い止めたい。それは立派なことだ。だけどな、そんなことで俺は契約なんてしない}
{......}
なんでだよ。魔族を食い止めるじゃなんでダメなんだよ。サラマンダー様だって魔族を食い止めるために戦って、封印されたんじゃないのかよ。
{はっきり言う。魔族を食い止めた後、お前はどうする? 俺の力なんていらないんじゃないのか?}
{......}
そこまで考えてもいなかった。まず魔族を食い止めること自体、出来るかわからない。なのにその後のことなんて考える余裕がなかった。でも、サラマンダー様に言われて、自分の愚かさを実感する。
もし、魔族を食い止めた後、俺はその力を何に使うのか。力を弄ぶだけなのか? そう思ってしまった。
俺が考えている時、サラマンダー様が真剣な顔でもう一度聞いてきた。
{もう一回聞くぞ。お前は何のために俺と契約をする?}
{俺は......。俺は}
そこで、周りを見る。すると、ミシェルやアメリアは不安そうな顔で俺を見てきて、モールト王子やラルクさんはよくわかっていない状況で俺を見て来ていた。
(あ~。そう言うことか)
{俺は仲間のために戦いたい}
{仲間のためね。じゃあ仲間が殺されそうになったらお前は世界も見捨てると}
{それは違う。仲間を救うために世界を助けるんだ}
そう、今までは世界征服を食い止めるためにという、浅い考えで行動をしていた。でも本当に俺がやらなくちゃいけないことはそれなのか? ふとそう思った。
俺は、本当に世界を救いたいのか? いや、違う。ミシェルやアメリア、そしてティターニアやアメリアのお父さん。それにミシェルの家族やモールト王子たちを助けたいから今の俺がいるんだ。
サラマンダー様は少し不気味な笑みを浮かべながら言った。
{......。ははは。結局は私利私欲のためってことか}
{あぁ。でもそれが普通なんじゃないのか? 誰だって自分が守りたい、助けたいと思うために力が欲しい。そうだろ?}
サラマンダー様は先程までの不気味な笑みとは一変し、笑顔になりながら俺に近づいてきた。
{いいぞ。そう言うのを待っていた。誰かに言われたからではなく、自分がなすべきことのために力が欲しい。そう言う回答を待っていた}
{だったら......}
すると、真剣な雰囲気になってサラマンダー様が言った。
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