トラウマメモリー⑨
―――どうして?
―――どうして私の心は悲鳴を上げているの?
その涙は恐怖からではない。 自分の手で復讐できなかったという無念でもない。 思い出されるのは晃良との楽しかった日々だった。
―――今頃晃良は酷い目に遭っている可能性が高い。
―――でも、私にできることなんて・・・。
あの時裏切られたのは事実で人を信じられなくなった。 だが偽りだったとしても、楽しかった日々まで全て嘘だったとは真記は思えなかった。
―――晃良がどうして私を裏切ったのか、本当にお金だけがほしかったとは思えない。
それは都合がよく楽観的過ぎる思考だ。 ただお金がほしかっただけならもっと別の方法があったとも思える。 考えていても埒が明かず、このまま帰るのも何故か憚れた。
非力な真記にできることは少ない。 それでもせめて誰かには伝えようと交番へ向かった。
「あ、あの!」
「どうなさいました?」
震える声で警察に晃良が襲われていることを伝えた。
「場所はどこですか? 僕たちも向かいます」
「えっと・・・」
警察も男性だ。 本当に信用できるのか分からなかった。
―――・・・でも私には、これくらいしかできないから。
他に縋るものがなかったため仕方がなかったとも言える。 それは裕香を信じた時の真記の心境に近い。 また騙されるかもしれない、そう思いつつも最後の希望として警察に託してみようと思った。
警察に場所を伝え念のために共に向かった。
「ッ!?」
しかし現場に戻ってみたが、真記が想像していた状況とは全く異なっていた。 確かに部屋は凄まじいことになっている。 だがそれは晃良が一方的にやられていると思っていたのだ。
―――酷い・・・。
―――でも、どっちが・・・?
何人もの男が床に倒れて血まみれになっている。 晃良も男に羽交い絞めにされ、今も激しく殴られ酷い有様になっていた。
「暴行事件! 現行犯で逮捕する!!」
「くそッ、警察か!」
流石に男たちも警察には驚いたのだろう。 逃げることもできず警察に捕まることになった。
「君。 後で話を聞かせてほしいから連絡先を教えてくれるかな?」
「え・・・。 あ、はい」
真記は警察にそう言われ渋々連絡先を渡した。
―――本当は怖くてもう関わりたくない。
―――・・・でも高校の時のことも含めて伝えられるチャンスかもしれない。
―――流石に警察までグルだとは思えないから・・・。
―――そもそもグルだとしたら警察ならより重い罪になって・・・。
ぐるぐると思考が回る。 自分の中で割り切ると晃良のもとへと近付いた。
「晃良・・・」
警察は晃良の様子を見ている。
「酷い怪我だな。 意識はあるか?」
「・・・はい」
晃良を殺したいくらいに憎んでいた。 だが自分を逃がすために悲惨な目に遭っているのを見て、そのような恨みの心は急速に萎んだ。
―――もちろんまだ簡単に許すことはできない。
―――だけど・・・。
その時晃良の懐でスマートフォンが着信してるのが見えた。
「・・・電話が鳴ってる」
晃良は真記の言葉にゆっくりと顔を上げ、スマートフォンを取り出すと電話に出た。 空気を読んだのか警察は離れていく。
「もしもし・・・? ・・・え?」
―――・・・何の電話だろう?
晃良の表情が一変した。
「うわぁぁぁあぁぁぁッ!!」
一体何の電話なのだろうか。 突然晃良は号泣し大声で喚き始めたのだ。
「どうかしたのか!?」
警察が驚いて再びやってくる。
―――急に何!?
―――どうしたの・・・?
真記も理由は分からない。
「おい、誰か! 救急車を回してくれ!」
晃良の緊急事態に現場を調べていた警察も慌ただしく駆け回る。 その時何かがおかしいことに気付いた。
―――・・・あれ?
―――人数が少ない。
どうやら警察が来ているのにもかかわらずドサクサ紛れに逃げた人間がいるようだ。 だが真記からしてみればそこまで気を回す余裕はなかった。
「・・・真記」
「・・・え?」
晃良が光を失った目でこちらを見ていた。 口の中を切ったのか血まみれで、コブや痣ができている。 だがどうやらすぐに救急車が必要という程でもなさそうだ。
「全てを話したい」
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