トラウマメモリー⑧




「久しぶりだね、真記ちゃん」

「あれ? 真記ちゃんだよね? 雰囲気暗くなった?」

「まぁ、それでも可愛いけど」


真記は彼らの顔を見てすぐに高一だった時の事件のメンバーだと分かった。 見た目に多少の変化があっても、内面から滲み出る醜いオーラは変わっていなかった。

晃良だけはいないが、正直どうでもよかった。


「もしかして、貴女も・・・」


気付けば吐き気を催すオーラを放ち隣に立つ女、裕香に恐る恐る視線を向ける。 彼女はまるで悪びれる様子もなくあっけらかんと言い放った。


「うん。 整形したから気付かなかったでしょ? つーか、マジでウザいんですけどッ! どうして整形したっていうのに、アンタみたいな女の方が可愛いわけ?

 まぁ、今度はその顔をぐちゃぐちゃにするようにってお願いしてあるから!」

「ッ、酷い・・・!」


裕香もそっち側の人間だった。 あの時見て見ぬフリをしていた女、ニヤニヤと笑う顔が確かに今の裕香と重なった。 名前なんて知りもしなかったし、性格の悪さから出るオーラも巧妙に隠していたのだ。


「最初から裏切るつもりだったの・・・?」


裕香を睨み付けるようにして言うと彼女は笑い出した。


「裏切るぅ? まさかぁ! 私は最初からアンタのことが死ぬ程嫌いだったよ」

「何よ、それ・・・」 


嫌う理由はあっても嫌われる理由はないはずだった。 ただ顔がいいというだけで嫌われるなら、別に真記以外にもたくさん標的になる女の子はいるはずだ。

ただ一つ言えることは顔を憎く歪めて笑うこの女が最低な悪魔のような人間だということだ。


―――少しでも信じようとした私が馬鹿だった。

―――結局はどうせ裏切られる。

―――それは私が一番分かっているはずなのに・・・!


呆然と立ち尽くしているうちに男たちの手が伸びてきた。 過去の記憶が蘇る。


「嫌ぁぁぁぁぁぁッ!!!」


今度こそ無理だと分かっていても必死に抵抗したその時だった。 地下のドアがガバっと開きそこから晃良が姿を現した。


―――・・・やっぱり晃良もグルだったんだ。


晃良を睨み付ける。 タイミングよく現れたことに腹が立って仕方がなかった。

 

―――忠告とか助けるとか甘い言葉は、全て罠に嵌めるためだった。

―――・・・晃良のことは信じなくてよかった。


だがどうやら様子がおかしく晃良の登場は予定にないようだった。


「アイツを呼んだのは誰だ?」


八人の男女はピタリと動かなくなる。 だが裕香だけは複雑そうな表情で晃良を見据えていた。


―――来る・・・。


晃良は堂々と地下へと入ってきた。 顔を真記に近付けて言う。


「どうしてこんなところへ来た?」

「・・・」

「あれ程俺は外を出歩くなって言ったよな?」


確かに言われたが、何が言いたいのかよく分からなかった。 ここでこんな目に遭っているのは当然晃良も関与しているはず、そう思っているからだ。

しかし晃良の顔は冗談でも馬鹿にしているわけでもなく、本気で怒っている顔をしていた。 目の奥に炎が灯っている気がした。


―――まさか晃良はこの人たちとは関係がなかった・・・?


そのような淡い希望を持ってしまった。 晃良は優しく真記の頬を撫でた。


「ッ・・・」 


まるで羽毛を触るような手つきにいつも通りぞわりと鳥肌が立った。


―――やっぱり無理ッ・・・!


心が全力でこの世界を否定していた。 晃良はニヤリと笑う。


―――やっぱり晃良もこっち側の・・・ッ!


「手を出したら許さないって言ったはずだよなぁ!?」

「・・・え?」


よく分からない。 その言葉は周りにいる人たちに放った言葉だった。


―――どっちの味方なの・・・? 


男たちは晃良の言葉を聞き笑っていた。


「許さないって、お前一人で何ができんの?」

「刺し違えてでもコイツを逃がすことくらいはできるさ」


―――まさか、私を助けてくれようとしている・・・?


晃良は一歩下がり拳を握る。


「真記! 逃げろ!!」

「ッ・・・」


そこからの晃良の動きは速かった。 瞬時に身体をかがめ近くにいた男に肉薄すると、目にも止まらぬ速さで放った拳が顎を捉えていた。

血液や唾液、その他固形物のようなものが飛び散り、演技をしているわけではないと理解した。 その剣幕に気圧されたか男女は怯み、その隙に真記は地下から逃げることができた。

自宅めがけて無我夢中で走った。

 

―――私には何もできない。

―――助けてくれたけど、最初に裏切ったのは晃良なんだから・・・。

―――こうなっても仕方がないよ。

―――・・・そうだよね?


そう思う真記の目からは何故か涙が溢れていた。



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