第13話 スキルの創造
「サクラさん、折り入ってご相談があるのですが」
「……レイさん、美玲さんのご好意で解散したのではないのですか? 私はギルドの職員ですよ?」
ゴブリン&オークを使役するモンスター使い・文太を倒した初陽は、国へ戻ると昼食をとり、だいぶゆっくりしてからサクラメイトの元へ向かった。
初陽が神娘にすら鑑定できることを知っているサクラは、レイと美玲の行いをよく理解していた。
「用があれば来ていいと言ってくれたじゃないですか」
「私を困らせていいとは言っていません。私の目の前でパーティを組んでいたのに、臨時作成扱いにしていることも把握しているんですよ?」
ギルド加入者は、パーティを作成したら申請する義務がある。
もし申請していたら、今頃初陽は、関係者として呼び出されていたはずだ。
「すみません…………」
「はあーーーーーーそれで、ご用件は?」
「サクラさんのそういうところ好きです」
まだ出会って間もないはずなのに、サクラは初陽の世話を焼くことに抵抗がなかった。
サクラ本人も戸惑っていたが、それ以上に周囲の反応が驚きに満ち溢れていた。
普段のサクラは、世話を焼くどころか無駄なやり取りを望まない。
先ほどの会話でも、嫌味とも諭しとも取れる発言をそもそもしない。
「ご用件は?」
ほんのわずかに怒気が混じっている。
「この国で神娘の売買があったことは聞いていますよね?」
「はい。文太を拘束しましたが、背後に繋がる正体には辿り着けませんでした」
「僕なら提供できます」
「…………だからこんな遅くに訪れたのですね」
ジト目で見つめるサクラを、初陽は表情を変えずに正面から見据える。
周囲で様子を伺っていた何人かの男が、サクラのレアな顔に悶えていたがーーーーーー。
「お昼ご飯を食べていただけですよ。それで、いかがですか?」
「それは、
「逆に言えば、僕の秘密を明かして助けろと言いたいのですか?」
「……………………秘密にするように言ったのは私でしたね。しかしあなたの戦闘力で助けられるのですか?」
「問題ありませんよ。サクラさんがいれば」
「なぜです?」
初陽がサクラのステータスを見た時と同じーーーーいや、それ以上の怒りを含めた視線を向ける。
「一度見せてもらいましたからね。瞬読といって、僕は視界に入った情報を一秒で記憶できるんですよ。ありていに言えば、処理能力と記憶力に優れているだけなのですが」
「【
「【天技】?」
「この世界で得たスキルではなく、地球内で先天的、または後天的に得た技能のことです。ステータスに反映されないので、隠し球になり得ることもあります」
「ああ、レイさんが言っていた自前スキルのことですね。このくらいの能力ならたくさんいると思いますが」
「主に認定するのは神娘ですから、特に基準があるわけではありません。強いて挙げるのであれば、スキルで防御できない技能を指すことが多いですね」
「なるほど。まあ僕の技能を分かっていただいたところで、僕の案に乗りますか?」
「分かりました。応接室にご案内します。ただその前に、報酬をお渡しします。ゴブリンとオークの討伐に一万円。こちらはレイさんと美玲さんの分も含めてあります。少ない金額を分けてもしょうがないとのことです」
「(討伐に関してはほとんどノータッチだったのに)」
「神娘の救出は一人あたり十万となり、計九十万を三で割った三十万円です。ちなみに人命にしては安いのは、自演を避けるためです」
バレた時のリスクと天秤にかけたら安過ぎる。
身代金目的の誘拐が増えそうだなと初陽は思ったものの、人命救助の優先度を少しでも上げるためだと考え直す。
「本来なら危険人物の排除と国の危機を未然に救ったことで報酬が出るのですが、今回は初期段階だったので対象外でした。ですが、本件の依頼内容である『ゴブリンとオークの討伐。二種が手を組んでいる調査』の報酬が上乗せされます。三十万を三で割った十万円が初陽さんの報酬です」
「あまり高単価な案件ではないと思っていましたが、意外に高いのですね」
「討伐自体は安いです。高いのは情報料の上乗せがあるからですが、情報とその解決までされたのでむしろ安いくらいです」
「(相場の把握と金銭感覚の調整に手間取りそうですね。僕が子どもだからなのかもしれませんが)」
「合計で四十一万円です。報酬はギルドから初陽さんのステータスに直接振り込まれますので、ご確認ください」
初陽はステータスを開いて、手持ちが『41,9950円』になっていることを確認する。
「確かに」
「では応接室にご案内します」
サクラが立ち上がって、初陽を連れて移動を始める。
ただそれだけなのに、どよめきが一気にギルド内に波及した。
目的が応接室だと気づくと、何人かの男がすごい形相で初陽を睨む。
口に手を当てている女性陣は驚きからニマニマへと変化させる。
サクラと初陽は当然気づいているものの、欠片も気にしない。
応接室に入って互いに正面を向いて座ると、サクラはすぐに口を開く。
「周りくどいのはやめにしましょう。単刀直入に伺います。私が力を貸せば、仲間を迅速かつ確実に助けられるのですね?」
「可能です。サクラさんにはもうバレているので話しますが、僕の〈ディスクロージャー〉はステータスを覗き見れます。そしてステータス画面で可能なもう一つのシステムーーーーメモの中身も見られるんです。そこまで覗くと相手に勘付かれてしまいますが」
「あの文太という人間は情報を持ちながらも、話さなかったということですか?」
「理由はいくつか考えられます。ギルドは主に人間が管理しているのですから、地球で利益を得ていたか、弱みとして情報を握っていたか。もしくは報復を恐れていたのかもしれません。性格的には後者な気がします」
法律を定めているのは国であり、ギルドに情報を与えたところで文太の監獄行きは変わらない。
それなら黙っているのが無難であれば、外部からの救出に淡い期待を抱いていたほうがいい。
「文太は何も知らされていなかったみたいですけど、断片的な情報から推論をメモしてありました」
無許可
奴隷を交換? している
レンタル偽装
シーカーが客っぽい?
いろんなところにいる
大きな組織?
ヤクザみたい 怖い
「人間はそこまでしてお金が欲しいのですか………………………………?」
「お金を求めるのは手段であって、目的ではないのかもしれません。サクラさんはレンタルと聞いて、何か思い当たることはありませんか?」
「パーティレンタルですね。初陽さんのようにサポート向きの人間が前衛を必要とした場合、人員をレンタルすることができます。ギルドがレンタル組織に委託している案件です」
「冒険者登録の特典の一つですね。そのレンタルって、お金のない人が誰かを奴隷に落として交換するということはないですよね?」
「ありません。レンタルといってもお仕事です。他国では奴隷をレンタルできるところもありますが、アルモニアではシーカーしか登録ができません」
「うーん、僕は朝、神娘の奴隷が酷い扱いを受けているのを見ていますし、特におかしな光景ではないと聞いています。今までの話を総合すると、この国の方針とは矛盾している気がするのですが…………」
「それは…………」
初陽はサクラの憂いている感情と、言いにくそうな態度を悟る。
「言いにくいのであれば構いませんが」
「いえ大丈夫です。アルモニアで禁止しているのは、奴隷を生み出すことと、倫理に反する扱いをしないことです。しかし、他国では奴隷を生み出すことも、倫理に反する扱いをすることも許可されています」
「つまり、倫理に反する用途で奴隷を販売することは禁止されているけど、購入後の奴隷の扱いにまでは関与が難しいということですか。随分と中途半端な処置ですね」
「法律で全てを禁止することは簡単です。しかしそれをすれば、この国から人間がいなくなってしまいます。神娘にしても、この国の戦力が減るのは都合悪いのです」
「(MoAの設定を知った時、神娘の世界に人間が侵略したようなものだと思いましたが、複雑な事情があるみたいですね)」
知識欲が疼く初陽だが、サクラの表情を見て口を固く閉ざす。
初陽は知識を得るためならば、食と睡眠を削って没頭したり追求したりする悪癖があった。
その対策として、自身に優先順位の義務付けを心掛けている。
「話が逸れましたね。レンタルした人と永続的にパーティを組みたくなったらどうするんですか?」
「レンタルは一つの運用方法で、メインは別にあります。人間たちがマッチングと呼んでいるシステムです。試用期間としてレンタルをし、お互いが納得したら正式にパーティを組むという流れですね」
「なるほどーーーーーー見えてきましたね」
初陽はニヤリと笑みを浮かべると、サクラは頭の中で情報をまとめて思案顔になる。
やがてこの会話で出た情報が一本に繋がると、ハッとして初陽を見た。
初陽が頷くと、次第に怒りの感情がわずかに表出る。
「サクラさんがどのような理由でギルドに勤めていらっしゃるのかは分かりませんが、心中お察しします」
「お気になさらず。推察するに、私の役目は潜入ですね? ですが一つ大きな問題があります。ギルドに関わる全ての事柄に、ステータスのチェックが入ります。これを誤魔化す
初陽に対して、サクラはわずかに期待を抱いた。
しかし一方で、初陽はこの世界の常識に疎過ぎる。
予想も作戦もかなりのものであったが、自前情報の少なさに不安が拭えない。
だが初陽の次の行動ーーーー現象とも呼ぶべき出来事に、サクラは人生で数度しかしていない大きな表情の変化を見せることになる。
「まあそうですよね。冒険者登録をした時にそんな予想はしていました」
「私は立場上、多くのスキルを目にしてきましたが、他人のステータスを偽装するスキルは見たことがありませんよ?」
「そうでしょうね。自分のステータスを偽装することはできても、他人のまではなかなかいないでしょう」
この世界では、自身が必要とするスキルが得られる。
初陽は、自分が〈ディスクロージャー-level1-〉を最初に習得したことで予感し、美玲のスキルがレイと相性が良いことを知って確信した。
そしてそこから、誰も考えなかった突飛な推論をする。
「僕の〈ディスクロージャー〉は、僕の性格そのものと言ってもいい。相手の中身を知ることは、あらゆる面でアドバンテージになる。知ることを目的とし、知ることを武器にする。本来鑑定系は、モンスターと出会ってから目覚めるのが通常ですよね?」
「え、ええ」
「そして鑑定系のスキルは、対人間かモンスターのどちらかに偏る。でも僕のスキルは、どちらにも等しく効力を発揮します。事前に把握していた一般的なスキルと比べても、これは相当レアな部類でしょう」
サクラは喉を鳴らして、黙って初陽の続きを待つ。
「スキルは、その人が本当に必要だと思ったら発現する。程度は分かりませんが、それほど難度の高いものだとは思いません。そして僕は今、心の底から、サクラさんのためにこの問題を解決してあげたいと思っています」
「何を言ってーーーーーーーー」
「そしてそのために、サクラさんのステータスを偽装するスキルが必要です。これ以外に方法は、ない!」
条件が満たされました。
スキル:〈掌握〉を習得。
「ほら、できました」
「そんなこと…………!! あなたは今、スキルを創造したとでも言うのですか!?」
「そう聞くと大層な話に聞こえますが、それほどのものではありませんよ」
初陽にとって、スキルの創造とも言える結果には興味がなかった。
自分の感情が偽りでないと知ることこそが重要だった。
「さて、替えの利かない人材とスキル、そして作戦が揃いました。再確認しますが、よろしいですね?」
「一つだけお聞かせください。なぜ私のためにそこまでしていただけるのですか? 出会って一日ですよ?」
人を信用しづらいところが自分に似ているなと、初陽は少し嬉しくなる。
自分の頭が固いことを理解しているからこそ、それを直接相手にぶつけることの意味を理解して。
「理由は分かりませんが、サクラさんが僕のことを想って気にかけてくれたことは分かっています。僕はそれが嬉しかった。ただそれだけですよ」
サクラの綺麗な髪が、波打つようにそよいだ。
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