第12話 隷属化モンスター
「なら私の役目ね」
「さっきも見たとおり、玲奈は魔法と言ってもいいスキルを使う。不便な点と便利な点が顕著なのが特徴だな。スキルの射程距離、威力、範囲などがある程度調整できる反面、精神力の消耗が激しい。当然、威力や範囲などが大きくなるほど消耗もでかい」
「三百メートルくらい離れていますけど、正確な狙撃が可能なんですか?」
「問題ないわ。もともと狙撃銃を使っていたこともあって、それに因んだスキルがあるのよ」
「(なんでもかんでもスキルがあるから、で片付くのはやりにくいですね)」
魔法にもいくつかタイプが分かれている。
基礎的かつ初級の魔法を除くと、ピンポイント型か広範囲型に分かれる。
一般的に魔法は、ある程度戦闘経験を積まないと習得しないため、それまでの戦闘スタイルでタイプが決まる傾向にあった。
「〈ライトニング・ストライク〉」
玲奈の声と共に、雷が集落中心の家に落ちた。
中級の魔法だが、ピンポイント型の中では初期に習得する程度のもの。
だが込めた精神力が多かったため、建物を飲み込む大きさで塵芥に変えた。
モンスターの反応は一つしかなかった。
慌てふためき、揃って塵芥となった中心を見つめる。
それは、雷に思わず振り返ったのではなく、指示を出す人物を頼っての行動だった。
「無防備です。遠距離からゴブリンを狙い撃ちにしましょう。レイさんは壊れた家を見張っていてください」
「なぜゴブリンなんだ? オークのほうが厄介だぞ」
「オークのほうが行動を読みやすいのと、肉厚なので脳天を撃ち抜かないと確実に殺せないからです。スキル補正のない僕の腕だと、確実に頭をやれません」
「分かったわ!」
足が止まっているとはいえ、体が動いていないわけではない。
オークの頭よりは大きくとも、ゴブリンの体は小さい。
初陽は何度か外しては当てるを繰り返していた。
初心者にしてはマシと言えたが、実戦で行うには早すぎた。
初陽が三体、美玲が七体を倒したところでレイが叫ぶ。
「出てきたぞ!」
瓦礫から、ゴブリンによって黒こげのオークが複数体掘り起こされ、その下から人間が出てきた。
二十代前半で、大学生ほどの年齢。
パッとしない風貌に、幸薄そうで覇気がない。
「主人の危機に魔物が自動で庇ったんだな。用心深いやつだ」
「人間がほぼ無傷なところを見ると、使役スキル以外も警戒したほうがいいわね」
「(経験から導き出す判断が早い。僕も足を引っ張らないようにしなければ)」
初陽はスキルを使って、モンスター使いのステータスを覗き見る。
氏名:
熟練度:8775
尊号:
スキル:
〈隷属化〉
自力で倒せるモンスターのみ隷属可能。
〈攻撃命令(隷属)〉
隷属下にあるモンスターに攻撃命令を下せる。距離は声が届く範囲。命令時、モンスターの攻撃力が増加する。
〈防御命令(隷属)〉
隷属下にあるモンスターに防御命令を下せる。自らを盾に使用者を守り、予め発動していれば自動で防御体勢に移行する。命令時、モンスターの防御力が増加する。
〈単純命令(隷属)〉
一つの簡単な命令に従う。危機の際は、モンスターの本能が行動を決める。命令時、モンスターは通常よりも連携が取りやすくなる。
〈使役主としての評価〉
使役しているモンスターの数だけ、身体能力が上昇する。上昇率はモンスターによって異なる。
称号:【モンスターを従属せし者】、【下級の長】、【神娘を従属せし者】
固有スキル:
「(よくできたスキル構成だ。モンスターを増やせば強くなり、さらに強いモンスターを使役できる。熟練度から察するに、それほどアクティブに動かなかったのが幸いでしたね)」
初陽はバレることを覚悟で、モンスター使い・文太の情報をさらに奥深く覗き込む。
氏名:
ジョブ:モンスター使い
熟練度:8775
スキル:
〈隷属化〉(頻度:高)
自力で倒せるモンスターのみ隷属可能。モンスター以外にも、〈隷属の首輪〉を用いて、かつ明確な上下関係が成立していれば可能。
〈攻撃命令(隷属)〉(頻度:中)
隷属下にあるモンスターに攻撃命令を下せる。距離は声が届く範囲。命令時、モンスターの攻撃力が増加する。
〈防御命令(隷属)〉(頻度:高)
隷属下にあるモンスターに防御命令を下せる。自らを盾に使用者を守り、予め発動していれば自動で防御体勢に移行する。命令時、モンスターの防御力が増加する。
〈単純命令(隷属)〉(頻度:低)
一つの簡単な命令に従う。危機の際は、モンスターの本能が行動を決める。命令時、モンスターは通常よりも連携が取りやすくなる。
〈使役主としての評価〉
使役しているモンスターの数だけ、身体能力が上昇する。上昇率はモンスターによって異なる。
(上昇率:ゴブリン0.01/体、オーク0.02/体)
(現在:ゴブリン321体、オーク197体、身体能力7.15倍)
称号:【モンスターを従属せし者】、【下級の長】、【神娘を従属せし者】
固有スキル:
備考:
命令系スキルは、命令するたびに上書きされる。
同時使用は不可。
複雑な命令はできないが、ある程度は主の意思を感じ取る。
「なるほど。今は単純命令だから自己判断によって動いているけど、攻撃命令が発動されたら厄介になりそうですね」
文太がキョロキョロしている。
「何か分かったのか?」
「彼の性格は掌握しました。レイさんは攻撃の意思をあいつに向けつつ、迫ってくるモンスターを動き回りながら倒すことだけに集中してください。美玲さんは僕に襲いかかるモンスターの処理を」
「あら、私たちが特攻をかけたほうが早いんじゃないの?」
「おそらくこの地に向かって五百体が集まってくると思いますが、掻い潜れますか? ちなみに、やつには七倍のバフがかかっていますけど」
「ーーーーーーいいぜ、坊主を信じよう」
美玲の返答を待たず、レイは走り出した。
モンスターがすぐに気づき、その様子で文太も気づく。
「あ、あいつらを『攻撃しろ』!! 何体かは僕を『守れ』!」
シンプルな命令に、前線に立っているモンスターはレイに襲いかかり、文太の近くにいたオークは守るように立ち塞がる。
「背後とサイドからも来たわ。巡回させていたモンスターが戻ってきたのね」
「時間を稼いでいただければ問題ありません」
「了解。周りは私たちに任せなさい」
レイは初陽の意図を理解したかのように、雄叫びを上げて文太を威嚇するように剣を奮っている。
美玲はレイのフォローを一切せず、大技も使わず、初陽に向かってくる敵だけを小さな魔法で牽制していく。
初陽は狙撃銃のスコープを覗いた。
映るのは、複数の肉塊に囲まれた文太の一部。
文太の身長が低いために服の一部や足元ぐらいしか見えないが、レイが大きく移動すると囲っているオークも追いかけるように体の向きを変える。
その瞬間、文太の体が一瞬だけスコープに晒される。
呼吸を止めて、上下していたスコープを静止させる。
静けさの中で引き金を引くと、スコープの中で文太の胸から複数の血飛沫が湧き上がった。
モンスターの反応は分かりやすかった。
突然スキルが解除され、戸惑い棒立ちになる。
レイと美玲が殲滅にかかっている間に、初陽は文太に近づく。
「まさかあなたが、僕の疑問解消の一手になるとは思いませんでした」
「お、お前かーーーーぼ、僕を見ていたのは……!」
初陽は右眼を金色に変えて文太の全てを覗き見る。
〈ディスクロージャー-level1〉は、単に情報を見るスキルではない。
初陽は、『データ化された経験』を見ているのだと推察していた。
「記憶を失うのは都合がいい。モンスター使い…………なかなか厄介な能力でしたが、あなたが凡愚で助かりました。それに、強力なだけあってリスクもそれなりでしたね」
「僕の能力が全部分かるって言うのか!? そんな鑑定スキルなんて聞いたことがないぞ!!」
「無知は罪。暴力も罪。罪には死だ」
文太の怒声に一切の反応を見せず、狙撃銃を文太の脳天に向けて躊躇なく引き金を引いた。
興味をなくした初陽は、消える文太を見ることすらしなかった。
「片付いたな」
「途中から逃げ出してくれたから楽だったわ。今回は下位のモンスターだけで運が良かったと言うべきなのかしら」
「後ろの家に神娘が捕らえられています。奴隷として売っていたみたいですね」
「マジか!?」
「見てくる!」
美玲が見に行くと、九人の小さな神娘が押し込められていた。
〈隷属化〉スキルによって自由を奪われており、モンスターに囲まれている環境と、不潔な衣服と少ない食料で衰弱していた。
現在はモンスター同様、首輪が外れている。
初陽とレイが入ると、全員がビクッと体を震わせた。
「彼のスキルは、死亡することでリセットされるようですね。ちなみに、神娘の売買ってどういう扱いなんですか?」
「法律は国によって定められているわ。私たち人間は所属している国に準ずるんだけど、〈アルモニア〉は奴隷制度を禁止しているの」
「だが売買自体は禁止していない。一部の風俗も売買と同じ認識らしいからな。だから、どのような手段で奴隷を生み出したかが問題になる。それに人権を無視した売買はそもそも禁止されている。申請が必要なものだしな」
「この子たちと私たちの証言で、あのモンスター使いのブラックリスト入りは免れないでしょうね。軽いものだと国外退去だけど、〈アルモニア〉で神娘の奴隷化だから、牢獄行きかも」
「何度死んでも攻略できないモンスターで埋め尽くされていると言われているところですか? 本当にあるんですね」
「まあ実質、この世界を諦めて現実に戻るのと同義だからな。現代人には堪える罰だろうよ。噂では、現実でもリストに載って犯罪を防ぐために監視されるらしいぜ」
「道理ですね」
神娘の視線を感じて、初陽は思わず怯えた目をしている少女の神娘たちを見る。
「どうしました?」
何人かが目を逸らし、一人が首を横に振る。
しかしそれでも初陽を見つめ、やがて絞り出すように言葉を発した。
「…………助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして?」
「同性の私でも警戒心が剥き出しだったのに、君すごいわね」
「少年、ちょっと来い」
レイと美玲が初陽を外に連れ出す。
あれだけの大剣を振り回していたにもかかわらず、建物が一つも瓦解していない。
モンスターの死体が消えているのもあるが、大群と戦闘した形跡が見られなかった。
「もうすぐ転移ができるギルド職員が来る。坊主は先に戻れ。いろいろと都合が悪いだろ」
「君、けっこうレアなスキルを持っているでしょ? それも鑑定とかそっち系で」
「………………」
「別に言わなくていいし気にしていない。俺らの情報までは見なかったみたいだしな」
「言っておくけど、レイならゴブリンやオークが五百体いても瞬殺よ。初陽くんの経験のためにセーブしていたんだから」
「やはりそうでしたか。そういえば、一度もスキルらしいスキルを使っていなかったですね」
「レイが本気を出せばすごいんだから!」
「(惚気ですか)」
「坊主のスキルはいろんな意味で厄介なタイプだ。坊主自身が強くなるか、強い仲間を見つけろ。それまではフォローしてやる」
「たまたま声をかけられただけの相手に、なぜそこまで?」
無償の善意は信用ならない。
タダよりも怖いものはない。
レイには、初陽からそんな心の内を感じていた。
「今後役に立ちそうだから恩を売っておきたい。と言えば安心するか?」
「…………分かりました。借り一つでお願いします」
初陽は表面上の笑顔だけ浮かべて頭を下げる。
経験を与えてくれたことにお礼を言い、素直にその場から去った。
「面白い子だったね」
「ありゃあ苦労しそうなタイプだな。いろいろと若い」
「そうね。たまたま声をかけた相手を鑑定するのは正しい。サクラの言いつけを守るなんて、子どもなのか大人なのかよく分からないわ」
「あいつなら辿り着くかもな。この世界の真実に」
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