第11話 自前スキル持ち
「特別に実戦形式で戦闘指南をしてやる」
「ありがとうございます。面倒見がいいのは美玲さんの影響ですか?」
ゴブリン&オークの群れから数キロ離れた地点で、美玲が見つけたゴブリンを前にレイが言った。
ゴブリンは数体で巡回を行い、半径百メートル内でバラバラに行動をする。
チームワークがいいのか悪いのか分からないですねと初陽が呟くと、中途半端に知能のあるモンスターはそんなもんだとレイが答えた。
「お前、案外可愛くないのな」
「よく言われます」
「レイは教えるのが上手だから安心して。ちなみに、初陽くんは前衛・中衛・後衛のどれが希望なの?」
「うーん、僕は体があまり丈夫じゃないので、後衛がいいですね」
「俺には〈適正診断〉ってスキルがある。診てもいいか?」
「お願いします」
〈適性診断〉も鑑定系スキルである。
あらゆる事柄の適性をパーセンテージで確認できる。
事前に確認をしたのはマナーもあるが、体質的に鑑定スキルに敏感な人は少なくない。
鑑定時間や深度、鑑定スキルの性質によって察知される確率が変動する。
神娘が最も鑑定に鋭敏であるものの、初陽の〈ディスクロージャー-level1-〉は、表面ステータスであれば九十九パーセント察知されない性質を持つ。
しかし、鑑定時に瞳の色が変わるのが難点である。
「後衛の推奨度は六十パーセントだ。自己申告のわりには低いが、悪くない選択だな」
「これが鑑定される感覚ですか…………それにしても、レイさんは生粋の教官向きですね」
「でしょ! めんどくさがりなくせに、放って置けない性格をしているのよ!」
実際、道中もレイは美玲の前を歩いていたにもかかわらず、背後の動きを気配で把握していた。
どうやら美玲は、レイのそんなところに惹かれたらしい。
「弓と銃、どっちがいい?」
「そういえば武器も何もない状態できてしまいました。狙撃銃はありますか?」
「それなら美玲が初めて買ったやつがあったな」
「懐かしいわね。いいわ、あげる」
初陽は銃の扱いに自信があるわけではない。
単純にFPS好きであり、スナイパーを好んで使っていたから浮かんだにすぎない。
美玲から渡された狙撃銃は、ゲームでよく見る先端が細く、光学照準器が搭載されている一般的なモデルだった。
「一発ずつ手動の装填が必要なボルトアクション式よ。ただ、一番安くて性能の低い銃だから、ゴブリンやオークみたいな初心者向けのモンスターにしか使えないのには注意してね。射程距離は三百五十メートルくらいだったと思うわ」
「ありがとうございます! 赤ん坊くらいの重さがあるんですね」
「華奢な坊主には、立ち姿勢で安定した狙撃は難しいかもな。まあ武器はいろいろ試せばいいし、しばらくはスキルを覚えるためのきっかけづくりだから自由にやるといい」
「非常にありがたいお言葉ですが、随分と余裕なんですね。難易度は分からないですけど、すでに失敗者が出ているのに」
「不確定要素のある群れに、二人で挑もうとした時点で察してほしいわね」
「ああいえ、そうではありません。僕が誤射して二人を撃つ可能性は考えないのですか?」
「そうなったらそうなっただ」
「(なるほど。ゲーム感覚ですか)」
背後から銃弾で撃ち抜かれたところで死ぬことはない。
実戦形式と言えど、安全な訓練と変わらない。
だが、ここで初陽が悪意を持って二人を殺した場合、それは殺人と変わらないのではないだろうか。
法律上の殺人は、相手を殺した結果で認定される。しかし倫理上で考えたら、殺意を持った行為の過程が生じた時点で、それは殺人と言えるのではないだろうか。
特殊な環境で育った初陽は、レイたちの感覚が理解できなかった。
「そろそろ行くか。俺たちの援護は考えなくていい。外れにいるやつを狙ってくれ」
レイは奇妙な形をした大剣を取り出した。
根元付近が、円状のシールドのような形に変形している。
重心がアンバランスであることは明らかで、操るには相当な筋力が求められる。
美玲は神官が持つようなイメージのスタッフが武器のようだ。
近接殴打ができるように、先端に重りが装着されている。
合図はなかった。
レイが走り出して、不意打ちに一体のゴブリンを真っ二つに斬る。
他二体のゴブリンの反応が早く、振り切った後の硬直時間を狙ったのか、離れた位置から手にしていた槍を投げた。
レイは力で強引に柄を引っ張って、盾部分で防ぐ。
直後、ゴブリンの頭上から雷が落ちて絶命させた。
「(レイさんは自己完結ができるほどの近接タイプ。林の中で振り回しにくいはずなのに、そう思わせない練度だ。美玲さんは、レイさんが手間になる位置の敵を魔法みたいなスキルで対処する。仲の良いカップルなだけあって息が合っていますね)」
そしてレイの大剣が、槍に接触する数ミリ手前で弾いたことを初陽は捉えていた。
レイの動きも大剣に振り回されず俊敏であることから、後衛の美玲をいざとなった時に守るためのシールドだと推測した。
「(気づいたら戦闘が終わってしまいましたね)」
とりあえずと構えていた狙撃銃を下ろそうとしたところで、背中がピリッと感じて振り向く。
木々の間から、なぜか一体だけ別行動をしていたらしいゴブリンが向かってきていた。
条件が満たされました。
スキル:〈察知〉を習得。
初陽はスコープを覗いてゴブリンを見る。
多少ゴブリンの体がブレているものの、真っ直ぐ走っているから比較的狙いやすい。
ヘッドショットを狙って発射するが、外した。
風の影響だと判断した初陽は、すぐに調整する。が、今度は銃の重さでわずかに下がってしまった結果、片足にヒットしてしまう。
倒れたところで、やっとヘッドショットを成功させた。
「難しいですね」
「初めてにしては上出来よ」
「そうだな。美玲の時は十発中一発当たればいい方だった」
「それは言い過ぎ。五発くらいだったわ」
ゲームと違って、アシストシステムがない。
動く的を五発で当てられただけマシと言えた。
「それと、スキルを覚えました。〈察知〉というスキルです。おそらく、僕に意識が向いている敵を把握するスキルかと」
「私も早い段階で覚えたスキルね。地味に便利だし、意識していなくても発動するから当たりね。ただ、相手も気配隠蔽系のスキルを使っていたら発動しないから、過信しないように」
「相反するスキルがぶつかった時って、どういった基準で勝ち負けが決まるんですか?」
「『矛盾反応』だな。まず前提として、同じような効果のスキルにも上下関係がある。〈察知〉は感知系の中で最も下位だ。だから一つ上の隠蔽系スキルの察知は難しい。ランク付けされたものがネットにあるから見てみるといい」
「その言い方からすると、ランクの上下が必ずしも決定付ける要素とはならないみたいですね。ステータスにある熟練度が関係するんですか?」
「そこは不明。指標にはなるみたいだけど、絶対じゃないみたい。熟練度一万と千が試しても、千が打ち勝つこともある。確率論が噂されているわね」
「(〈ディスクロージャー〉で追究できそうですが…………)」
気乗りしなかった。
今までではありえない思考に、初陽は瞬きを止めた。
「細かい勉強は後だ。ゴブリンやオークくらいなら〈察知〉で問題ない。俺の感知は広範囲じゃないから、美玲と坊主は周囲を警戒してくれ」
「分かりました」
街で他人のステータスを除いた際、熟練度の低い者は〈察知〉で、高い者はほとんど〈察知〉を覚えていなかった。
〈探知〉や〈感知〉にすり替わっていたというほうが正しい。
このことから、美玲が〈察知〉の上位スキルを覚えていることが推測できる。
「(〈ディスクロージャー〉を使えば簡単なのに…………)」
「レイ、前方百五十メートル先に大量のモンスターがいる」
「実際、二人で対処できるものなんですか?」
「どれだけ囲まれても、ゴブリンとオークくらいなら余裕だ。坊主を守りながらだと厳しいがな」
「前回の失敗者は、調査をするために討伐を控えていたら詰んだそうよ」
「ん? どれだけ囲まれても対処できる程度の相手なのに、詰んだんですか? もしかして僕みたいな新人だったとか?」
「いえ、それなりの経験者だって聞いたわ。単純に油断したのかもしれないけど、確かにちょっと気になるわね」
この世界に慣れれば慣れるほど、死に対する警戒心は薄れる。
特攻隊、という戦略にすら意味を持たせることもできるのだ。
「あのオーク、俺たちに気づいたな」
三メートルほどの崖上から覗き込むと、ちょっとした集落が見えた。
見張り、巡回と、見た目を除けば人間の兵士と同じ動きをしているように見える。
ゴブリンはやや頭が良く、オークは鼻がいい。
特に女性のフェロモンを嗅ぎ取っていると言われている。
そのオークがゴブリンに近づき、人間には理解できない言語で何かを告げる。
「ゴブリンと会話をしていますね」
「襲うために連携をすることはあっても、基本的に異種族同士で連携をすることはない。何か秘密があるな」
レイと美玲が集落を必死に観察している間に、初陽は〈ディスクロージャー-level1-〉を発動させた。
種族:ゴブリン
身長:101cm
体重:21kg
視力:普通
力 :弱
防御:弱
速度:やや遅い
注意:複数行動が基本で、連携をする
特徴:猿以下の知能
武器の使用を好む
小規模な拠点でも30体はいる
隷属化状態のため、ステータスが微向上
種族:オーク
身長:209cm
体重:210kg
視力:弱
嗅覚:鋭い
力 :中
防御:中
速度:遅い
注意:嗅覚が鋭く、特に女の匂いには敏感
女が相手だと理性を失くし、ステータスが向上する
だがそこが弱点でもある
特徴:ゴブリン以下の知能
だが、ゴブリンの真似をすることがある
武器の使用を好む(ゴブリンの真似)
拠点は作らないものの、同じ獲物を追いかけて自然と集まる
複数行動が基本だが、自己中心的で、獲物を前にすると単体行動を取りがち
隷属化状態のため、ステータスが微向上
「…………動きに統率がありますね。単種族だとしても、ゴブリンやオークの連携ってそこまでなんですか?」
「警戒心がある、というのが観察で分かる程度のものよ。あんな兵士みたいに役割別の動きなんてしないわ」
「では、誰かが統率していると考えたほうが自然ですね。強いモンスターの存在かーーーーーー」
「スキルによる隷属か」
「モンスターを操るスキルは一般的なんですか?」
「一般的と言えば語弊はあるけど、マイナーではないわ。でも、ここまで大規模にできるものじゃない」
「(隷属化に焦点を当ててこれ以上スキルを使うと、モンスターにバレるかもしれないな。どうしたものか…………)」
「まあ突撃してみるか」
初陽が悩んでいると、レイがコンビニに行ってくる感覚で言い出した。
これが現実世界であれば、一度態勢を立て直すところだ。
死なないというメリットが冷静な判断力を奪っていた。
「待ちなさい! なんであなたはいつもそうなの!? ここで失敗したら、敵は間違いなくここから姿を消すわ」
美玲のほうは冷静だった。
ベストカップルだなと、初陽は少し安堵する。
「モンスターを使役するスキルがある以上、現状は別に問題視することではありません。モンスターや依頼だってこの世界のシステムですから、無視をしても問題ないでしょう。ですが、ベテランのあなた方を疑問に思わせるイレギュラー。そしてそのイレギュラーな状態を作って、その
この世界での企みを看破するには、この世界について知る必要がある。
「ならどうすりゃいいんだよ」
「過去の事件やネットでの噂に、奴隷やモンスターの使役に関することはありませんか?」
この世界にどっぷり浸かっている人たちは、ネット内の情報にもどっぷり浸かっている。
たいていのベテランは、独自の情報網を持っていることが多い。
街で多くの人の話に耳を傾けていた初陽は、レイと美玲に期待をかけた。
「モンスターを使ってオート生活を夢見ているやつや、人を襲わせるやつ」
「モンスターから女の子へと、スキルの対象が変わることを夢見ているクソ野郎もいたわね」
「夢見てばかりですね」
ある程度の法則が判明しているとはいえ、無限の可能性を秘めているのがMoAである。
そして、欲が際限なく溢れるのが人間だ。
「ああ、そういえば、モンスターを使って国を作ろうとしたやつがいたな」
「そういえばあったわね。モンスター自体は弱いけど、数が多いことを理由に討伐されたのよね」
「へえ。国って作ろうと思えば作れるんですか?」
「ジョブが村長や町長になれば可能だな。そこから国王へと変化していく。ただ、なろうと思ってなれるものじゃねえが」
「でも行動によってジョブや称号が決まるみたいだから、統率者に向けた行動をすれば可能だと言われているわ」
「その理屈だと大規模同盟の盟主なら、カリスマ性が認められればなれそうなものですけど…………戦闘にも特化していたらなれないということでしょうか……?」
「そうらしいな。この世界で統率者にのみ特化するっていうのはほぼ不可能だ。神娘の協力は望めねえし、人は強いやつを好む」
「いえ、その条件であれば一つだけ可能ですね。支配という名の統治が」
「あ…………」
人に対する長期的な洗脳は、今のところ発見されていない。
隷属は可能だが、地球にまでは引き継がれない。
モンスターが半永久的に可能とされている。
「モンスターの王国であっても、似たようなことが可能だってことか」
「人の上に立てないからモンスターで、という程度の理由ならいいのですが…………」
もし、モンスターでも村長や町長と同等のジョブが手に入るのであれば、一つ大きな問題があった。
「どちらにしても放っておくには危険ね。初陽くんは何か案ある?」
「案というほどのものではありませんが、重要なのは裏に人間がいるかどうか。そして家の配置的に、いるとしたらあからさまに囲まれている中心の家です。ならあそこを初手で攻めればいい」
「なら私の役目ね」
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