一章~それぞれの道~

#16.メイ

【バインガ村】


メイさんが用意してくれた朝ごはんを食べた。

寝てばかりの生活だと、彼女に申し訳なく、僕は働いていないのだという罪悪感が生まれてくる。


「また会えるといいね……」


ヤギさん達へ向けて……そう独り言を呟いた、やはり余計寂寥感が増すだけで何も変わらない。


イテテ……リハビリ程度に散歩でも行こう。


爆発で飛ばされてから9年経って、体は大人へと近づきつつあるのに、どうして腹の刺傷が癒えていないのだろうか。

ヨイショ

うわ、視点が高い……今までとガラッと変わってしまったもんだから、慣れるまで時間がかかりそうだ。

体が振動するたびにズキズキと痛む腹を擦りながら、僕は家から出た。

見渡す限り畑の風景、朝日がカカシを照らしている。

これが異世界ののどかな農村風景。


「あんれぇ、あんた起きれるようになったのぉ?」


隣の家のおばあさんだ。


「おはようございます、歩けるようにはなりました」


「んだんだ、そんでさ、メイちゃんとはどうなの?」


「どうって?」


「ひとつ屋根の下で若い男女がふたりきりって、もうそれはそれは健やかなんだろうねぇ」


「あぁ、メイさんは真面目な人です。善意で僕を看病してくれてますよ。そんなことは一切ないです」


「なんね、つまらんねぇ~。でもさ、あのも今年で21歳よ。いい歳なんだから、あんたも考えときいね」


僕にそれを答える程僕は偉くはないよ、おばあさん。


「おばあちゃん」


メイさんだ。


「あんれ、メイちゃん聞いてたの?」


「余計なお世話、ほら」


「あれまぁ、あたしゃ余計だったね。おほほ、若いふたりはお楽しみねぇ」


おばあさんは嬉しそうにニタニタしながら自分の家に入っていった。


「ごめんなさい、ああいう人なんだ」


「いえ、気にしないでください」


「それで?歩けるようにはなったんだ」


「おかげさまで、とても助かりました」


「いいのいいの、夜は暇だし……起きたんならその辺散歩しようか。紹介するよ、村のこと」


「お仕事の邪魔じゃないですか?」


「今日やることは明日にもやれるから問題なし」


「なら、お言葉に甘えて」


「行こうか」


遠くに山の見えるあぜ道をふたりで歩く、イアストラやサラファンとは違った澄んだ空気が流れていて療養するにはうってつけの場所だ。


「この村は農家で生計を立ててる村でね、何も無いところだけど……美しさは保証するよ」


「綺麗です」


「人の心を動かすのはいつでも綺麗なものなんだ、君だって綺麗な女の子は好きだろ?」


「まぁ……そうですね」


「正直でいいね、青少年はそうでいなくちゃ」


「メイさんも意外と面食いだったり」


「間違ってないね、でも、まぁこの村に生まれたものの宿命だから一生外の男と会うことはないかな」


「へぇ……」


「顔のいい男を私は知らないからね。ふふ、贅沢言い過ぎだね」


「いえ、取捨選択する権利くらいあると思います」


「でももう22だよ、村の存亡がかかってるから早く結婚しなきゃね」


半ば諦めかけたような口調で彼女はつぶやく。


「そういうもんなんですね……」


「まぁ、いいや。奇跡的に縁談なんかも来てないし」


「そうですね」


【夜_夕飯】


「ありあわせで悪いね」


「いえ、とても美味しいです」


夜になった、メイさんは僕の夕食まで作ってくれる。

いつもご飯は野菜と魚が中心だ。

家庭的で料理が上手い、容姿は端麗だから引く手あまただとは思うけど……世の中の出自というものはどうも不思議なものだ。


「あぁ、そうだ。君に村長から呼び出しがかかっている。別に行かなくてもいいけど」


「いえ、きちんとした挨拶もまだなので行きます」


「そう、わかった。場所は1番大きい建物といったらわかりやすいはず。気をつけて行くようにね」


「はい、伺います」


「それでさ、君は傷が癒えたらこの村から出ていくつもりなのかい?」


「ええ、そうするつもりです」


「そう……わかった」


寂しいのかな、……そりゃ寂しい。人が恋しい気持ちはわかる。


「冷める前に早く食べよ」


「そうですね」

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