#17.変態的すぎる好意
【クロリア王国】
「お前はいつも元気だな、屋根なんか走ってさ落ちるんじゃないぞ?」
「おはよう、ムッシュ トレビーノ。不本意だが走り回ることこそ我が人生なのさ」
「まぁ、気をつけろよ」
クロリア王国領付近で
その日の新聞には、こう書かれている。
〘神の子、クロリア領付近にて保護。名をヤギ〙
この国は彼女を神の子と呼んだ。
というのも発見されてからすぐに、9年の成長により一層強くなってしまったその力を誇示してしまい、一瞬で兵士たちを圧倒してしまったからだ。
現在彼女はクロリア王国の王室を警護する重要な職務に着いている。
それほどまでに、彼女の力は凄まじかった。
職務についているというが、割と自由奔放で気ままに過ごしている……なんていえば嘘になる、正しくはちゃんと目的を持って生きている。
それは、イアストラ王国奪還、そしてもう一度 凛都と会うこと。
今はそのための下準備に過ぎない。
冒頭で彼女は屋根の上を飛び回りながら走っていた。
それはとある人物の家に向かうためだった。
その人物とは……
「お邪魔しマース」
「やぁ、おかえり」
フィア・ソフィアだ。9年前と比べ彼女の髪はえらく長くなっている。
「まーさか、あんたが生きてたとはね~」
「こんな研究をしてたんだ、人に怪しまれぬよう設置していた地下室が功を成したよ」
「よかったよかった」
「まぁ、3号は行方不明だけどね。いよいよボクは一人ぼっちだ」
「いや、そもそも同じ人間は二人いないから」
「ふふ、そうだね。温かいミルクを用意したよ。君の口に合うといいけど」
「いただく~」
「勿論、無添加。睡眠薬からは卒業したよ」
「当たり前でしょ」
彼女は熱いコップを両手で持ち、ズズズっと啜っている。
「……ふふふ」
この女、ヤギが啜ったあとのコップを保存するつもりらしい。
「一緒に住ませてもらってありがとね、あんたがクロリア出身だなんて知らなかった」
「かなり昔のことだけどね、人が住まないようなところに住まなきゃしたい研究もできないから」
「熱心だねぇ」
「あぁ、その通りさ。いまも別の研究で熱心だが」
「なにしてんの?」
「これまた内緒だ。人に教えれる研究はしない主義で」
「また変なことしようとするなよ~」
「その辺は卒業したよ、ボクだって9年も経てば倫理観は培うさ」
「見た目は全然かわってないねあんた、今何歳なの?」
「数えてなかったな……24くらい?」
「え?あんたあの時15だったの?!」
「そうだよ」
「妙に達観してたから二十歳は超えてたと思ってたわ」
「悪しき魔力については12歳から研究していたからね、だから人はボクのことを天才と呼ぶのさ」
「あんたそんな知名度あるの?」
「無いね」
「だよな」
「あ?」
ヤギは思い出したように、立ち上がった。
「どうしたのかな?」
「アタシ職務中だ!!のんびりしてる暇ないや」
「それは大変だ、今すぐ行きな」
「おう!また夕暮れくらいに帰ってくる!!ばあい!」
「待ってるよ」
そうして、彼女はバタンっとドアを勢いよく開閉して去っていった。
「まったく、君は騒がしいね」
さぞ当たり前のように使用済みコップを洗わず使い回すソフィア。
「まったく、恥だね。ボクは……一言で言えば気持ち悪いよ」
自覚はあったようだ。
彼女は常に何を考えているかよく分からない表情をしているが、9年越しにヤギと再会した時はそう出なかった。
いや、彼女と顔を合わせている間はよく分からなかったのだが、一人の時間になった途端、自分の理性と相反して泣き崩れた。
彼女にとってヤギとは生きがいのような存在であり、9年間……死んだというリスクを考えずひたすらに想い続けてきたのだ。
そう、想いが強いからこそ彼女は恐ろしく気持ち悪いほどの奇行に走る。
その一、
彼女が使っているベッドについている皮脂、汗、髪の毛などは隈無く採取し、観察する。
その二、
先程もしていたが、彼女と粘膜接触を図るため使用済みの食器は全てバレないように回収している。
その三、
ヤギの嗜好する食事や、行動パターンはあらかた把握しており様々な表情のヤギを見るために日々思考を凝らして計画している(一番好きな表情は笑顔)
その四、
もちろん、ヤギがいない間はヤギの匂いが染み付いたものを使用する傾向にある。
彼女の変態性は9年前にも垣間見えていたが、それは今も健在である。
だが、一つだけ変わったことがある。
それは、むやみに手を出さず観察するだけに留めておくこと。
意外にもヤギの寝込みを襲ったり、風呂やトイレの最中を覗いたりするなど、そのような行為は無くなった。
凛都に夜這いしようとしていた時とは大した変わりようである。
今のソフィアは……気持ち悪さこそ突出しているものの倫理観に反したことは一切しない。
気持ち悪いことは擁護できないが、
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