#15.ここから始まる物語

【元イアストラ王国_ハンケイン区】


なにここ、僕が見知ったハンケインじゃない。


「うわぁ、荒れ放題だなぁ~。アタシ本とか読まないからハンケイン区には全然来たことないけど……こんなんじゃなかった!てのは分かるわ」


ハンケイン区は全27区で一番小さい、建物は研究や文化に触れているものが多く、そこに住む住人はほとんどが学者。

だから、他の区よりゴミは少なくいつも綺麗にされていたあのハンケインが……こんな凄惨に……


「結界の外からは見えなかったからね~、ん?サゴリン、ちょ、どこいくの?!」


僕は一目散に駆け出した、王国図書館にめがけて。


【元イアストラ王国_ハンケイン区_王立図書館跡】


「はぁはぁ……」


「ちょ、サゴリン。息切らしてんじゃん。それに魔法も使わないなんて冷静じゃないね」


「はぁはぁはぁはぁ…」


「ちょ、あんたそれ…ただの息切れじゃないじゃない」


こんなことに…なるなんて…なんで…


「動悸?ストレスでなっちゃったの?大丈夫、姉ちゃんが背中さすってやるからな」


「…はぁはぁ」


命を感じない、生命が薫らない。

刺激しておくれよ、僕の五感を……ッ


「アメリさん!アメリさん!!」


「危ないよ?サゴリン!」


廃墟と化した王立図書館へ突入する。


「僕だよ!佐護だ!凛都だ!!返事してよ!!」


僕は知っていたじゃないか、アメリさんはいない可能性の方が高いって……僕は知っていたじゃないか


「ルース……アメリ!!僕だ……!!来ましたよ!僕!!」


なのに目の当たりにすると、なぜこんなに


「僕らの特等席……まだあるじゃないですか。アメリさん、でてきてください」


辛く苦しく、藻掻かなければならないのか。


「……オエッ」


「…大丈夫」


ヤギさんが僕を摩ってくれてる。


「ルース・アメリ……その人の名前ね」


「……うん」


「ここじゃない可能性は?」


「……僕は彼女の家を知らない、だけどハンケイン区である可能性が高いと思ってる」


「それはなんで?」


「分厚い本を所有していたから。イアストラでは教材だったり、参考書だったりの本を発行していても……単純な物語だけの本は……庶民には手の届かないくらいの値段で取引されてる。国内で流通せずに他国ルートで入ってるからね」


「なら、富裕層じゃないの?」


「アメリさんの身なりから考えてそれは考えにくいと思った。貧しくはないにしても、富裕層ではないと思ってる。だから、本を手にすることが出来る学者という立場であると僕は考えているんだ」


「名探偵だ」


「でも、ここにはもう…いやハンケイン区すべてに命を感じられない。そんな華のような町では亡くなったんだここは」


「……」


「そして僕は……大切な人を2度も亡くしたんだ。もしかして、ヤギさんがみた僕の妹ってやつもその暗示なんじゃないの」


「…断片的だからね、否定はしないけどそうでないと願っ

てる」


「……」


「どうするの?」


「……」


「サゴリン?」


「……どうしたらいいの?」


「……」


「僕は……どうしたら」


「"神聖なる血統、シャンクトワール"」


……アメリさんの声、アミリさん?


「……?サゴリン、下がって」


いる、そこにいる。アミリさんが立ってる……これは幻じゃない。


「あれが……え?サゴリンが言ってたアミリって人?」


「そう…です、間違いないです…アメリさん」


「夢で聞いた声……でも、待って。見た感じやばそうだけど」


「ちがう、アメリさんだ。なにもおかしくない、本物のアミリさん」


「ま、まって!まだ危ない」


僕は彼女のすぐ正面まで何も考えず走った。


「生きてたんですね!良かった……心配したんですよ、僕」


「……」


彼女の手を握る。


「ここは危険です、はやく安全なとこっ」


あれ、なんか……お腹が熱い


「サゴリン?サゴリン?!」


「……っ」


腹部にナイフが、刺さってる。


「一体誰が……こんなこと、あはは…アメリさん」


「そいつ以外いねえだろうが!!」


ヤギさん。


どうする?サゴリンが刺された。

とりあえず、アイツの安全だけ確保しなきゃ……

ジャンプで届くか…いや信じろ。


「…くっ!」


よしっ掴んだ、あとは距離を離す!


「…ふぅ」


アミリとかいうやつはサゴリンの腹部を刺したっきりゆらゆら揺れている。

攻撃の意志を感じられない。


「サゴリン、痛いと思う……でも、ナイフは抜いちゃダメ。わかった?」


「う……ん」


「よし、いいこ。おい!テメェ、一体何者なんだ」


「私…は……ルース…アメリ……じゃない、の。本当の…わた…しは」


なに、これ。


「ちがう…の リ… …私…は……こんなこ…と…望んで……な…」


不気味、気味悪い、何この子。


「お前たちはもう会えないよ、あはは、あはははははは」


まるで中身が変わったかのような、口ぶり。


「……」


戦うこと…アタシが戦う。


「ナイフなんて取り出しちゃってどうしたの~?!あはは!私に勝てるとでも思ってんのか?チビ!!」


「チビ?!きゅーさいだからね、でもお前貧乳じゃん!!」


「うるささささささい!!」


いきなり向かってきた、勝てるか……これ。


「くっ!」


なんて速さ、関節も柔らかさも全てが人を逸してる。


「……っ」


「シャンクトワールはここで終わりっ!晴れて世界の命もここで終わりっ!」


「意味わかんねえよ!」


太刀筋を追うだけで、精一杯だ。


「くっ!」


「待て待て!お前弱いな!」


「…はぁ?!アタシが世界一だから!」


「口だけじゃん!」


「……うっ!」


ナイフが飛ばされた!腕も掴まれた。


なんて力だ……払えない。払えない……ッ


「終わりってね、あはは。あっは……はぁ」


力が急に弱くなった。


「ダ……メ、ダメだか……ら……ぅぅ、ダ………メ」


形勢逆転……ここで殺さなきゃ!こいつは!


「ヤギさん…?待って、ダメだ……ヤギさん」


夢の声だ。サゴリンの……


「お願い……アメリさんは…殺さないで」


「……」


「ヤギさん」


「じゃあ、どうしたらいいんだよ!!アタシにも教えてくれよ……どうしたらいいの?アタシは」


「……殺……し…て、大丈……夫」


アメリはアタシのナイフを持った手にそっと右手をかけてくる。


「……私…死な……な…きゃ」


「ぐっ……」


殺らなきゃ、こんな化け物…アタシが手も足も出なかった。

だから、


「…ヤギさん」


だから……


無理だよ……アタシはサゴリンが嫌がることはしたくない。

殺すことに躊躇はない……けど


「……」


「ぁぁ……ダメ…また……く…る」


アメリの力が、また強くなってくる。


「甘ちゃんだ!!甘ちゃんだよ!!お前は!!」


「……」


「逃げ…て!ヤギさん!だ、誰か……」


「……」


もうなんか無理だぁ。


「サヨナラ!!」


ごめん、サゴリン。思ったようにならなかったね


「……ッ!!」


ナイフが飛んできた。アメリ目掛けて。


「へぇ、危なかったね。でも本体は狙ってなかったんだ。へぇ~へぇ~」


サゴリンが投げたのか……腹部から…抜いちゃダメって言ったじゃん。


「ぐぁ……ぁ……ああ」


今行くからちょっと待って。


「なんて速さ……おまえ隠してたのか?!」


出血してる。


「圧迫するよ」


袖、破かなきゃ


「……はぁはぁ」


「気をしっかりもて、大丈夫だ。死なねーよ」


「ヤギ……さん」


「おう、どうした」


「逃げて、お願い……アメリさんは…僕が何とかする」


「バカ」


「私を無視するな!おい!」


「……はぁ、サゴリン。しっかり布で抑えてて」


「…にげて」


「おう、任せろ」


アタシはアメリより、速い。でもそれだけ。

力も及ばない、アメリが魔法を使わないっていう確証もない。

ここまでの強さだとイアストラを崩壊させたのが彼女だと考えてもおかしくない。


「あんた?イアストラ壊したの」


「そうだとしたらどうするの?」


「ん~、どうもできない」


「んふふ、そうだよ。私…私が全部こうした」


「なんで?」


「シャンクトワールが嫌いだったからだよ!!あはは!憎くて憎くてしょうがなかったんだ」


「なにがあったんだよ、それ」


「もう何百年も前の話だ、でも引きずってた……ずっと」


「あんた何歳?」


「さぁ、数えてない」


「……」


「禁書に…触れたな……アメリさん」


「サゴリン?」


「へぇ、知ってるの?お前」


「ここにあったのか……なんで王立図書館にそんな危険なものがあったんだよ!!」


「ちょ、あんまり興奮するな。血が…」


「サゴリン……ねぇ、私はこいつの記憶を覗けないから繋がりとかわかんねぇけど、お前たちはスレイとビアだろ?シャンクトワールのことはよく知ってるよ。あまりある時間をこの図書館で過ごしたんだ。時事でもなんでも知ってる」


「野ざらしにされてたのか?!お前を封印した本が!」


「バカ?そんなことするわけないだろ!頭使えよスレイ・シャンクトワール!!全部こいつのおかげだ。ルース・アメリのな!」


「……は?」


「こいつの潜在能力は計り知れなかった。ひとたび私の結界に触れただけで全てが崩壊したんだ!ハンケインを囲む結界だって私は何も関与してない!!こいつの単力だけで囲めた!」


「……アメリさんが?そんなこと」


「それに私の力も加算されるんだ。……あはっ、無敵だろ?天下無双だ」


「……」


「さっきから何の話かわかんないんだけど?」


「イアストラ王国……過去何百年に及ぶ歴史の中で鮮明に残された大事件があるんだ。あいつの名前はマルム……大災害と呼ばれた魔女……魔法のサンプルが欲しくてイアストラ王国全体をモルモットにした大犯罪者」


「そんなやばいやつなの?」


「そう!そんなやばいやつである私は…この子の力を手に入れることであの頃の何百倍も強くなれた……魔法をつかえばいいのにわざわざ物理で戦うくらいにね」


「……?!」


「体を動かすの楽しかったよ?最高だった!でも、魔法の方が強いんだよね。私」


本気じゃなかった?


「私を封印したシャンクトワールが憎い、だからお前たちを根絶やしにして、今度は世界を相手にしてみせる!!面白いよな!私の目標は世界になった!!」


「世界……破滅……」


「あ、その前に、まずこの辺の地形から滅ぼさなきゃなぁ」


待て、そうなったらピカおじやシャラちゃん……じいちゃんも全員…!


「完成記念だよ、お前たちの目の前でやりたかったんだ~…爆ぜろエールプローガ……!全部!!」


爆発する!?待て、サゴリッ_




この日、イアストラ王国を中心として周辺の地域を巻き込んだ大規模な爆発が起こった。

そのエネルギーは凄まじく遥か遠くの国にまで……爆風が靡いたという。


_そこから9年後


依然として世界に動きはない、そして僕は何故か生きている。


「おはよう、起きたのかい」


「…おはようございます」


目を覚ました場所はイアストラから何百キロも離れた小さな村。


「バインガでの生活には慣れたかな、なんもない村だけど傷が癒えるまでゆっくりしていきな。朝食はそこに置いてるから」


「どうも……」


目を覚ました時には、僕は17歳になっていた。体つきもだいぶ変わっている。

新聞で日付を確認した時には、驚愕した。信じられなかった。

今はメイ・タナジという女性の家で保護してもらっている。


「んじゃ、私は仕事にいくから」


「あの、僕も手伝いますよ」


「私が君の腹を殴って痛がらなきゃいいよ」


「それは…ちょっと」


「じゃあ、いってきます」


「行ってらっしゃい」


……行ってしまった。

新聞で確認した世界情勢、やはりイアストラを中心としたその他の地域は全て壊滅していた。

サラファンも…すべて。

9年も経てば、復興は概ね終わっているらしいが…一部では未だに手が着いていないものもある。

他の国は、難民の受け入れで手一杯……らしい。

ってことは、生き残りもいる訳だ。

希望的観測だが……ハンスさんもモヌヴィルディン親子も生きているかもしれない。


マルムがなぜ動いていないのか、世界を敵に回すなら準備が必要なのか。

どちらにせよ、僕は絶対にアメリさんを救う、妹も探す。


ヤギさんのことは心配ない、僕と一緒で彼女も安全にどこかへ飛ばされたはずだ……。きっと……

ヤギさんが死ぬなんてありえない。

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