#13.おい、9歳が酒を呑んだぞ!
【サラファン_冒険者ギルドサラファン支部_ギルド長室】
何千もの呪文の詠唱のせいで、ギルドマスターの部屋に戻る頃には夜も本番を迎えていた。
「これがうぬらのギルドカード、そしてこれがレナイターの皮を買い取った金額の25000エナ」
「ありがとう、じいちゃん大好き~!!」
"
「それで……悪しき魔力の鍵は見つかったのか?それにソフィアだって生きてるのか…」
「はい、悪しき魔力もだいたいが発覚しましたし、彼女は本物のフィア・ソフィアさんでした。生きているとだけ伝えておきます」
コピーだと言うのは伏せておこう。
「そうか……ならばこちらで変更しておこう。そう、うぬらに忠告しておく、うぬらの名前もそうだが悪しき魔力についても絶対に人前で口を出すな」
「……」
ギルドでも禁忌だったのか。
「有識者が聞けば…たちまちうぬらは懸賞にかけられる」
「へぇ~、アタシらラッキーだったね。じいちゃんでよかったよ」
「もしうぬらが成人していたら……ワシはなんと言っていたかしらぬ。子供だから情けをかけただけだ」
「孫みたいだった?やっぱ可愛く見えちゃうよね~」
「……そうだな。あぁ」
ハンスさんは虚を見つめる。
「夜も深くなってきたな、先まであんなに急いでいたうぬの事だ。もう行くのだろう」
「そうですね、僕はいつでもいけっ」
「アホか!!」
ビシッとヤギさんにツッコミを入れられた。
「先まであんなにキツそうにしてたやつが休まずに行くなんて信じられねぇよ。ほら、アタシらはまだ子供なんだから寝るぞ」
「それじゃ、間に合わないよ」
「ふぅん、今アタシに気絶させられるか、それとも従うか…どっちがいい?」
「……わかった」
「聞き分けがいいね、んじゃじいちゃん!この辺どっか泊まるとこある?」
「そうだな……近場の宿屋を手配しておこう、今から連絡するから少し待っていろ」
まさに僕が使いたかった魔法道具を駆使して、ハンスさんは近くの宿屋とコンタクトをとっている。
「よし、空いているそうだ。直ぐに行くがよい」
「りょ!じいちゃんでツケとくからよろしくね!」
「ふぅん、好きにしろ」
「まじ?!何から何までありがとう!」
「……」
「いこっ!サゴリン!!」
「う、うん」
ハンスさんはお人好しなのか……ヤギさんがおねだり上手なのか……。
「……あっ、そうだ」
ドアに手を掛けかけたところでヤギさんは振り返った。
「じいちゃん、また来るよ!アタシ甘いもの好きかなぁ~なんちゃって」
「好きにしろ……」
ハンスさんは帽子で目元を隠し、静かに呟いた。
「じゃあね!」
「…お世話になりましたっ」
そして、僕らはドアの外へ_
「……」
ハンスはソファに深く腰を掛ける。
彼らが去った後の静寂は、よりいっそ孤独を深めていく。
「……甘いものでも用意するかな」
そして彼は机に立てかけていた写真を眺める。
それは、離れてイアストラに住んでいた家族の写真だった。
【サラファン_宿屋】
すごい、ハンスさんの名を使えばスムーズに宿に入れた。
「うあー!すごいな、ふかふかベッドだ」
ヤギさんはベッドでぴょんぴょん跳ねてる。
「よぉし、アタシはお風呂に行ってくるぞ!」
「うん、いってらっしゃい」
「一緒に入る~?」
「入らないよ」
「つまんねぇな!」
彼女は陽気にステップしながらお風呂へと向かっていった。
サラファンの水はかなり貴重だ、ここらステップ気候特有のオアシスから直接水を引いているらしい。
風呂は魔法道具を駆使して温めているのだとか……捨てるのは勿体ないから湯船式で使っているとのこと。
ありがたいことにこの部屋はハンスさんの口利きもあってかなり上等な部屋だ。
ヤギさんも使い回しされていない風呂に入れると聞いて嬉しがっていた。
そして数十分。
「はぁ~さっぱりぃ」
ヤギさんが長い時を経て帰ってきた。
そのホカホカと湯気を立てる肌着だけの姿はまるであの時の
「ジロジロみんなよ、子供の体だぞ」
「そういうのじゃない」
「ケッ」
彼女はまたベッドに飛び込む。
「サゴリン」
「ん?」
「ちょっとあっち向いててくれる?」
「なんで」
「いいから」
「わかった」
なにかあるのだろう、僕はヤギさんから目を背ける。
するとなんだろうか、嗅いだことのある芳醇な香りが辺りに漂ってきた。
しまいには、水の音。
「ヤギさん」
「んー?」
「ビール飲んでる?」
「ブフッ」
当たりみたいだ。
「いや思ったのよ、アタシもさ、なんか匂い強いな~ってでもさぁ!ね、呑んでもいいじゃん!アタシ飲兵衛だしさぁ」
「僕は飲まない方がいいって言ってるだけで飲むなとは言ってないよ」
「そう!だよな!なら今日だけ許して~」
「うん、いいと思うよ」
「そうそう、一杯なら酔わないって~」
それからまた数十分後。
「……」
ベロベロによってるヤギさん。
「大丈夫?」
「……うん」
酔ったら静かになるタイプだ。
「酔ってるね、顔赤いよ」
「……」
「寝た方がいいんじゃない」
「……」
確かに向こうでは酒豪だったかもしれないけど、こっちでは転生してる身なんだからアルコールに対する耐性はそりゃ変わっているはずだ。
「なぁ……」
「ん?」
「なんでサゴリンはハンケイン区解放に躍起になってるの?」
「まぁ、そのうちいうよ」
「今言えよ」
「そうだね……、なんていうかその……大切だと思う人がハンケイン区に取り残されているかもしれないんだ」
「オンナ?」
「女って…まぁ、女性?かな」
「へぇ……恋してたんだ、あんた」
「そうかどうかはまだわからないけどね」
ほぼ確定的だが
「いいね…青春っていうのか、アタシも取り戻したいなぁそういうの」
「そういや、ヤギさんの過去なんて聞いたことないね」
「アタシ……ね」
彼女は静かに微笑んだ。
「自分語り苦手なのよ、生きづらいわァ~ほんと」
「随分前に僕に指摘してたねそれ」
「ビルの時じゃない、随分もなにも一生分前よ」
「あはは、そうだね」
「それにもう、思い出すのも辛い…だからあんたと一緒に死んだんじゃない」
「……」
「……」
「いつか、話して欲しいな」
「気になる?」
「うん、それに僕もヤギさんに話したからね。分が悪いよ」
「気にすんな、ほら寝よっ明日は戦いが起こるかもよ」
「うん、わかんないけどね」
そうして、僕は灯火を消した。
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