#3.野営
「スレイは頼もしい王様に、ビアは……ビアらしく生きなさい」
「ママ!?なんかアタシ適当じゃない?!」
「うふふ、でもね…ビア。あなたには自由って言葉がとてもお似合いよ」
「どういう意味で受け取ったらいいんだい、ママ」
「いい意味よ、お母さんの愛おしくて自慢の子供たち……」
考えればその時から僕らの母さんは何かを悟ったような雰囲気がしていた。
【死霊の森_夜】
パチパチパチ
焚き火の炎が音を立て盛り続ける。
どうやら僕は、母の懐かしい夢を見ていたようだ。
「あら、起きたのサゴリンちゃん」
「ヤギさん……」
「良かったなぁ、今ん所目立った敵がいなくて」
「夜が本番だよ、夜行性のモンスターは多いんだから」
「肝に銘じときやす」
「寝ていいよ、ヤギさん。火の当番ありがとう」
「うい~、にしても思い出すねぇ。火を見てると」
彼女は体育座りでアンニュイに火を見つめる。
「前世の熱い一夜(物理的)のこと」
「あはは、幸いここは締め切ってないみたいだよ」
「あんたも軽い冗談が言えるようになったね。んじゃ、寝るわ」
「おやすみ」
毛布を被ったかと思えばほんの数分で寝てしまった。
そういう訓練でも受けてたのかな。
とりあえず薪を焚べる。
決して絶やさぬように……
死霊の森は中心に近づけば近づくほど危険度が高まっていく。
今はイージーな時だとしても、決して手を抜くことは許されない。
ここは地球とは違う。生命体の危険度が全くもって異なる。
あぁ、例えば……
「グルルルルルルル」
今そこにいるレナイターとか
まずいことになった、しかしなぜここにレナイターが?
ヤギさんを起こすか?いや、それは最終手段だ。
彼女が持ってきた物資の中には飛び道具がない、だから人として知恵を働かせるのだ。
レナイターは狼のようなモンスター、そして彼らは恐るべき狩人である。
夜行性で獰猛、乳離れしてからすぐに群れから離れ幼体の頃から生態系の王として自然に君臨するギルドB級危険指定モンスター。
僕らもいつかギルドにはお世話になるだろうから、説明は省かせてもらう。
レナイター、いや現在発見されているモンスターの全てはおおよそこの頭が熟知しているはずだ。
彼らの苦手なもの……
「
やつをギリギリまで引きつける
「ビビってるのか!!こいよ!!」
レナイターは夜行性だ。
そのため発達しているのは目ではなくその聴力、その耳はまるでソナーのように精密で広範囲から音を収集できる。
だからいま、僕が大声を出して威嚇することによって
「ガアアアアアアアア!!!!」
居場所を特定し、攻撃を仕掛けてくる。
「
僕が指定した範囲にのみ、350dBの大爆音が引き起こる。
勿論、僕には何も聞こえないし、この森は至って静かだ……だが
攻撃を受けた対象、レナイターは音に耐えられず死ぬ。
「ふう……仕留めれた」
350dbほどになると、多分レナイターほど耳が良くなくても死ぬ。それほどの威力。
それにしても疲れる……子供の体だから魔力が成熟しきってない。
とはいえ、血統のおかげが転生のおかげが、僕もヤギさんも魔力と身体能力は常軌を逸している。
この体は九歳の子供ながら魔法を扱うことが出来る。並であれば第二次性徴まで完了しなければ魔法など使えない。
「おーやってるねぇ」
「あ、ヤギさん。起きちゃった?」
「そりゃ、あんたの威勢のいい元気な声が聞こえたからね。それ、ふだんもできないの?」
「疲れます」
「あはは、まぁ……こいつはいい獲物だね」
ヤギさんは絶命したレナイターに近づき、まじまじと観察する。
「レナイターっていうモンスターだよ」
「へぇ……サゴリン」
「ん?」
「食べるか、レナイター」
「え?」
「ちょ、運ぶから手伝って」
「わ、わかった」
彼女は軽々とレナイターを担いだ。
「あ、やっぱ一人で運べるや」
そして、焚き火の近くに落とした。
「まずはこれでこうします」
ナイフを取り出して器用に皮を剥ぎ、肉を削ぐ、まるで職人の手つき。
「内蔵美味いよ、ほら」
レバーの部分だろうか、ほらっていわれても……
「焼かずに食え」
「生で?」
「うん」
「いやちょっと」
「そう?いただきます。はむ」
た、食べた?
「ヤギさん、生だよ?生?大丈夫なの?ここ異世界だから変な病気とか…」
「異世界って手のかかってない森多いから割と安全じゃね?外来種とかもいなそうだし、うわ、うまい」
もぐもぐ言いながら喋ってる。
「それに、殺した命は頂かなきゃもったいないでしょ」
「それは……まぁ」
「もぉーしょうがないなあ。さすがにレバー以外は生で食う勇気ないから焼くぞぉ~!」
「うん」
その辺に落ちてる枝で切った肉を刺し、どんどん焼いていく。それにしてもヤギさんの手際が良すぎる。
「毛皮どうすっかな、とりあえず脂肪とかは川でとるかぁ」
「たぶん、レナイターの毛皮は希少だからギルドで高く売れるよ」
「お、んじゃ…後で加工しとく」
「ヤギさん、森で生活してた?」
「いきなりどした?」
「いや、先から手際がいいからさ」
「うーん、正確には森で放置されてた。サバイバルしてたのよ、ヤギ氏はね」
「サバイバル?」
「この話はいーの、ほら野生の肉はレアがいちばん美味いんだから食え食え」
「うん」
見た目は犬に近いから、食べるのには少し抵抗があるが……
パクっ
「どう?」
「おいしい」
「命をいただく、ってそういうことよ。なんだっけ、レナイターだっけ?こいつはサゴリンが殺したんだから、あんたがいちばん美味しく食わなきゃダメだね」
「おいしいよ、ヤギさん」
「おう!その調子」
すごいおいしいし、すごいヤギさんが逞しい。
「あー、待って……静かにしてサゴリン」
「……?」
ヤギさんが何かを感じとった。
「人だね、野盗かな?火の明かりを目印に近づいてきてるよ」
「……」
僕にも足音が聞こえだした。
「……」
どんどん近くなってる。
あれ、とまった?
「あの~」
「……!!」
後ろから女性の声??
「こんばんは」
「え?あなたは…」
「もしかしてあんた」
どこか見覚えのある顔、そうそれは
「シャラ・モヌヴィルディンさん?」
「ピカおじの娘!!」
「父のことご存知なんですか~?実は今、父が迷子になっていまして~」
「いや、たぶん迷子はピカおじキッズのあんただよ」
「えぇ~そうなんですか~」
どこかおっとりしていて掴めない性格の彼女、顔はペンダントに載っていたそのままだが……でかい、190はあるんじゃないか?
幼い顔に似合わない図体だ。
「あの~、お肉貰っても?」
「いいよ、どんどん食べて」
「ありがとうございます~」
彼女は座り込み、豪快に食べ始めた。
「いい食いっぷりだな」
「お腹がぺこぺこで~」
「ずっといたの?」
「2日くらいさまよってました~」
「よく生きてこれたね……」
「大変でしたよ~、へんなオオカミに襲われるし~」
「わりと足速いんだね、あんた」
「?全部、やりましたよ~?」
「え?」
「私こうみえて力持ちなんです~」
「まじ?」
いや、たしかに力持ちには見えるが……レナイター達を彼女は返り討ちにしたのか?
「お名前を聞いてもいいですか~」
「あぁ、ヤギでぇす」
「サゴリンといいます」
「ヤギさんとサゴリンさんですか~?変わった名前ですね~」
「そう?」
「はいとても~、それでおふたりはここで何を?」
「この森をぬけてサラファンにでもいこうかなぁって」
「サラファンですか~?いいですね~、あそこ楽しいですよ」
「いったことあるんだ」
「はい、父と行きました~。あっ、父。そう父だ!」
彼女は思い出したように食べる手を止めた。
「父知りませんか?!すっごい頭ピカピカな父なんですけど~」
「よく存じてます」
「どこにいるかわかりますか~」
「ん、デコピンして気絶させちゃったから……まぁ、まだ死霊の森で探してると思うよ」
「あの父が気絶だなんて~あはは、この森にいれば見つかるんですね~私も見つけてきます!」
「いやまて」
「はい?」
「2日も歩いてたってことはあんた、死ぬほど方向音痴でしょ?あたしらと行動した方がいいんじゃない?」
「それもそうですね~」
「ヤギさん」
「ん?」
「デクラさんはこの森の入口であったんですから、ブアル草原まで行く道じゃ会えないのでは?」
「たしかに……」
「多分父は、いちどこの森を抜けると思いますよ~」
「どうして?」
「サラファンのギルドに捜索隊を要請するためですね~」
「なるほど、なら森から抜けたところで待っていれば来るんじゃないか?」
「可能性大です~」
「なら、そうしましょうか」
「よかったね~サゴリン。かわいい女の子一人増えて」
「可愛いなんてそんな~」
「あはは、はは」
「うわ、笑い方乾いてんなぁ。やなやつ」
「どう反応したらいいか悩んでました」
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