第六話 無敵のあたしちゃんが爆誕した件×∞について

 運動場入り口に立つ『死が二人を別つまで』は、復活したあたしちゃんに少し戸惑いを見せながらも、蛇頭から何かを高速で撃ってくる。四ちゃんが示す光は赤色。避けなければまた死んでしまう奴って事。光の筋のお陰で間一髪避ける事が出来るけど、避けてばかりではコイツを倒す事は出来ない。

 で、また前方に懐かしい雰囲気がする赤い光が出てくる。ちゃん朔だ。コイツは何処までもあたしちゃんを追ってくる。


「フヒヒ、この子には近付けさせないよーだ」


 ちゃん朔は得意げな表情で言う。鮫って笑えるんだ。ってダメだ。このモフモフシャーク、何もかもが可愛すぎてダメだし、そもそも近付けさせたくないイコール近付けば勝てる奴じゃん。この残念具合も可愛くてならない。

 でも、ちゃん朔にダメージを与えながら、死が二人を別つまでの長射程攻撃を避け続けるというのは、難しい。

 いや、難しかった、だ。

 ガチャも引いたし、新しい武器もある。


「ちゃん朔、突然だけど、好きな食べ物って何?」


 他愛の無い会話で気を逸らし、少しずつ死が二人を別つまでに近付く作戦。

 新しい武器、鎖鎌を持つ。ヒュンヒュンさせる。水の力で、あたしちゃんは一度も習った事のない鎖鎌式維と絶を使う事が出来る。

 ヒュヒュヒュン、ヒュヒュヒュン、ヒュヒュヒュンヒュン。


 ちゃん朔が少し考えるように頭を傾げて、ニコニコしながら言う。かわいい・・・・・・。

 

「好きな食べ物? んーとね。おねーちゃん」

「おねーちゃん食べちゃうんだ。かわいいね」

「あ、勘違いしてるかもだけど、おねーちゃんって、あなた・・・・・・みおちんの事だからね」

「あたしちゃんかよ! かわいいね。食べちゃいたい」

「食べるのは朔ちん側なんですけど?」


 直後に四ちゃんレッドアラートが、死が二人を別つまでの尻尾に現れる。狙撃が飛んでくる。

 前に踏み込んで、ちゃん朔に近付く。


「いただきまーす」


 すぐに鎖鎌式維に移る。可愛く開いた大きなお口の中に鎖鎌を投げて、狙撃が来ない方向に飛んで避ける。ちゃん朔の口が閉じられる瞬間に鎌を戻す。薙刀を取り出し、柄に鎖と分銅を巻きつけて・・・・・・、引っ張る!


「痛ッ! 痛い痛い!」


 ちゃん朔は、あたしちゃんの作戦通り、異次元の海からこの場に釣られて落ちて来た。

 鎌部分を吐き出したちゃん朔の鼻を狙って麦野さんで殴る。


「ぎゃぁ! そこ弱いんだよー」

「ごめん! でも、痛がるちゃん朔、かわいいね」

「怖いー」


 そろそろ例の狙撃が来る。分銅を投げてちゃん朔の口を鎖でぐるぐる巻きにして、引っ張り、あたしちゃんの前に持ってきて、逃げる。


「むぐ?」


 死が二人を別つまでの攻撃が、ちゃん朔に命中した。声にならない叫びをあげながら、ちゃん朔は異次元の海に逃げ込んだ。この隙に、奴に近付く。近付くと、奴は大きな声で叫んで、周辺の雑魚を呼び寄せた。

 力の加減で鎖鎌は生き物のように動かせる。薙刀はリーチを活かして敵を薙ぎ倒す。荒国さんでトドメを刺しながら移動して、ついに奴を攻撃できる位置まで近付いてきた。四次元ポケットから出した薙刀を雑魚に突き刺して、もう一度鎖鎌を出そうとして、気付いた。なんか知らんけど、薙刀もう一本出せそうじゃん。これ、中にあるもの複製出来んのかよ。

 やっべー。これ、思いついた作戦がもっともっとつよつよになる奴じゃん。とりあえず、この薙刀を取り出して、地面に刺しておく。

 近付いて気付いたけど、コイツ思ったよりもデカい。近くにあるサッカーゴールの三倍くらいはあるぞコイツ。


「よくやったぞ、澪! これで奴は終わりだ」


 荒国さんが興奮気味言う。でも、違う。終わりじゃない。雑魚を倒しながら飛ぶように移動して、狙われないように動く。


「まだだよ、荒国さん。あたしちゃんの予想が当たれば・・・・・・」


 着地する予定の場所にレッドアラート! 来た! 狙った通り、ここに来た!

 ちゃん朔が大きな口を開けながら、あたしちゃんがそこに行くのを待っている。


「おねーちゃん! もう怒ったからね! 一口で行くよ!」

「そうだよ、ちゃん朔・・・・・・それでいいんだ。かわいいね」

「は⁉︎」


 あたしちゃんの頭まですっぽりとちゃん朔の口が覆う。薙刀を使って口を閉じさせないようにする。でも、これは多分間に合わない。


「無駄だよ。朔ちんの口の中は、歯をいっぱい出せるから、こんな棒、すぐにぐちゃぐちゃにしちゃうもんね!」


 その言葉通り、口の中にたくさんの歯が生えて、まるで回転ノコギリのように動き始めた。こえー。でも、これはこれであたしちゃんのスペシャルな作戦のプラス要素でしかない。とにかく、上半身だけでも抜け出せるように飛び出して、荒国さんに捕まる。同時にちゃん朔の口が閉じられる。

 結果、あたしちゃんの腰から下は薙刀と一緒にちゃん朔に食べられてしまった。

 ちょっと違うか。

 あたしちゃんは、ちゃん朔に、体の半分を食べさせたんだ。


「澪!」

「イッテェ! でも、作戦、通り・・・・・・な! ん! だ! よ!」


 力を振り絞り、ちゃん朔と死が二人を別つまでに背を向け、食べられないように胸のポケットに入れておいたスマホを取り出して、二匹を背にしながらケン坊が作ったアプリを起動して、今できる精一杯のスマイルを浮かべて自撮りする。キツいけど、可愛く自撮りできたと思う。


 シャッター音が聞こえた瞬間、あたしちゃんの身体は再生し、二匹の妖怪は後ろに吹っ飛ばされるくらいの衝撃を受けた。死が二人を別つまでも、ちゃん朔も、運動場入り口を壊しながら、運動場の中まで飛んでいった。

 荒国さんが動揺したかのようにふよふよとあたしちゃんの周りを動き回る。


「えっ! 何したの? 今何したの? おじさんちょっとどころか全くちっとともなぁんにもわからなかったなぁ?」

「あたしちゃんもわかんない・・・・・・でも、作戦通り。この自撮りアタックを使えば、ヤバいダメージを受けてもすぐに再生出来る。これなら両腕が無くならない限り、身体を犠牲にしながらずっと維を繰り出せる」

「三代目のような戦いが出来るという事か・・・・・・澪がどんどん人間離れしていくのが、俺は少し怖くなってきたぞ」

「そうだね。ごめん。でも、あたしちゃんの予測が正しかったら、この後すぐ、また人間離れすると思う」


 死が二人を別つまでが立ち上がる。ちゃん朔はいない。びっくりして出てくるのをやめたかもしれない。でも、そうさせないように、怒らせるような戦い方をした。必ずどこかで出てくるはず。

 出てきてもらわないと困るんだよね。この予測が正しいなら、あたしちゃんの選択肢は大きく増える。


 立ち上がった死が二人を別つまでは、また仲間を呼び、こちらに蛇頭を向ける。さっき刺しておいた薙刀を拾う。

 んで、薙刀なら、一刀一戟式が使えるはずだ。雑魚を倒しながら、蛇頭に気を付けて、ちゃん朔の事を忘れたフリをしながら進む。

 全ての攻撃は完全に避けなくてもいい。食らったら自撮りアタックを使うだけだ。

 蛇頭に四ちゃんレッドアラート、来る。このままだと身体の半分は消し飛ぶだろう。タイミングを見極めて・・・・・・


「来た!」


 口から何かが発射される。この時初めて、発射されるそれが雑魚妖怪だとわかった。そして、発射の瞬間の一瞬、四ちゃんの光がオレンジ色になるのも見れた。ラッキー。これで避ける以外の選択肢が増えたじゃん。

 さて、ここまでは予想通り、周りの雑魚に邪魔されて、完全には避け切れず、あたしちゃんの左脇腹から左脚までの部分が消し飛ぶ。

 振り返って即座にアレを使う。


「自撮りアタック!」


 パシャリと敵が範囲内に入るように自撮りすると、身体は元通りになり、敵は吹っ飛んだ。

 んー。さっきより死が二人を別つまでが吹っ飛ぶ距離が短い。使うたびに威力が減る? それとも別の要因かな?

 あとでケン坊に聞くか。あ、でもケン坊に会う為には死ななきゃいけないのか。めんどくせえ。


 自撮りアタックで倒し切れなかった奴らが集まってくる。これもめんどくせえから自撮りアタックで倒すかな。


「くらえ! 自撮りアタック!」


 今度は超スーパー余裕卍MAXの表情でパシャリ!

 しかし、雑魚達はデコピンを食らった位に仰反るだけで、あいつらも超スーパー余裕卍MAXで突撃してくる。


「えっ、なんで? なんで今効かなかった?」

「澪、ひょっとしてそれ充電がめちゃくちゃ減るんじゃないのか?」


 荒国さんに言われてスマホを見る。でも、充電はそんなに減ってない。まだ大丈夫だけど、いつかは充電しなくてはいけないはずだ。その時もまた死ななきゃいけないのか。


 ん?

 身体半分無くなった時は相手が吹っ飛んで、体が四分の一無くなった時はそれほど吹っ飛ばなくて、元気百倍あたしちゃんの時は全然吹っ飛ばないって事は・・・・・・そっか! これはあたしちゃんがダメージ受けてれば受けてるほど威力がつよつよになる仕組みってわけか!

 ケン坊もめんどくさい仕組みを作るな・・・・・・。いや、この仕組みだからこそ電池食わないのかもしれない。知らんけど。


 それじゃあ、これで自撮りする時は、死にかけとかじゃないとダメって事ね。

 って事で、作戦変更。普通に維で横に斬ったり縦に殴ったり斜めに突いたりあちこちに撃ったりして、雑魚を切り抜ける。

 既に戦闘態勢に戻っている死が二人を別つまでが、蛇頭をこちらに向けている。

 あの光が赤からオレンジになったら、荒国さんで斬らずに打ち抜く。


「朔は来ないようだな」

「その内来るよ。あたしちゃんにはわかる。今は多分、来れない事情があるはずだから」

「まったく。お前、一体奴に何をしたんだ」

「フヒヒ。あ! 荒国さん、狙撃、来るよ!」


 オレンジ色になったのと同じタイミングで荒国さんを振る。強い衝撃で身体が吹き飛びそうになる。でも、その衝撃はそのまま、あいつに返す。反動を殺しながら、且つ力は維持しながら、打ち抜いた先には、蛇頭があった。タイミングバッチリだ。流石あたしちゃん。流石荒国さん。流石四ちゃん。あたしちゃん達三人、誰か一人でもタイミングを外せばこうはいかなかった。

 蛇頭は消し飛んで、死が二人を別つまでが痛みに耐え切れずに暴れ回る。これで後は近付くだけだ。一気に距離を詰める。


 そこに、レッドアラート無しでちゃん朔が現れた。疲れてヘトヘトなのか、呼吸は乱れ、舌を出している。

 作戦は成功したようだ。


「お、おねーちゃん・・・・・・ハァハァ・・・・・・なんなのこれ・・・・・・なんで、なんで・・・・・・」


 ちゃん朔は疲れ過ぎてうまく言葉が出ないようだ。だったら、人生で一度は言ってみたいセリフ五位のコレを言うしか無さそうだね。





「お前は次に、『なんで増えてるの?』と、言う」

「なんで増えてるの? ハッ!」


 言えた! これ絶対に言いたい奴だよね。よね! しかも予測が完全に的中してて百点満点中一億満点じゃん。

 ちゃん朔は異次元の海から逃げるように抜け出し、新しい異次元の海を開く。


「こ、こうして閉じ込めちゃえば、もう安心だよね・・・・・・もう新しいとこに逃げよ・・・・・・」


 って事は、つまり、あれは今までの異次元の海とは別の異次元海だ。ここまで、完全にあたしちゃんの予想通りだ。何を閉じ込めたのかも、全てあたしちゃんにはわかっている。

 そして、それはそろそろ出てくるはずだ。


 新しく出来た異次元の海にX印の亀裂が入った。そして亀裂が割れて、そこから出てくるのは・・・・・・


「あたしちゃんです!」

「ぎゃあああああ! も、もう、イヤァァァァ!」

「ぎゃあああああ! み、澪が二人!」


 元気良く出てきたのは、毎日鏡で見ているあたしちゃんの元気な姿だ。薙刀を持ってる。あれで異次元を破ったんだ。

 それだけでは終わらない。


「はい、三人目のあたしちゃんです!」

「四人目です!」

「五人目じゃオラァ!」

「あと残り五千人くらいいるけど、まだ続きやる?」

「怖い! このおねーちゃん、もうやだ!」


 五千は増えすぎだろ。どんだけだよ。

 ちゃん朔は慌てて別の空間に異次元の海を作り、脱兎の如きっていうの? そんな感じで逃げた。


「皆のもの、ご苦労!」

「澪、まずは説明してくれ」

「後でね。今は、死が二人を別つまでを倒すよ! みんな、そこから出れる?」

「やってみる!」


 あたしちゃんナンバー・・・・・・わかんねえよ、全員同じ顔だし五千は多いわ、マジで・・・・・・が、異次元の海から抜け出る。


「おっ! 行けそぼぼぼ」

「あああああ! 出た瞬間に四千十二号が溶けた!」


 うっわ! 無いわ! 無い無い! 異次元生まれのあたしちゃんは、異次元から出た途端にドロドロとまるでスライムか何かのように溶け出した。自分が溶けるのを見るのはかなりキツいけど、水の力でなんとか気持ちが和らいでいく。

 これさ、もうホラー映画を二度と楽しめない身体になってしまったのでは?


「ちょっとこれ無理っぽいわ。たぶんご先祖スキルいくつかゲットすればイケると思う。手を出すくらいならイケるかな?」

「じゃあ、アイツの近くで全員で維。行ける?」

「ラクショー!」


 ヨシ! 作戦を少しだけ変更して、死が二人を別つまでに突撃だ。

 死が二人を別つまでは、まだ暴れている。隙だらけだ。はやくあのカップルの魂を救ってあげなきゃ。


「待て、澪。アイツ、いくらなんでも暴れすぎた。罠の可能性があるぞ」

「それはあるかもね。あたしちゃん五、六人で突っ込ませてみるよ。行ける?」


 あたしちゃんズは異次元の向こうでガッツポーズをしながら薙刀を振り回す。


「行ける行ける! やったるで!」

「なんか、異次元澪、性格ちょっと違くないか?」

「魂は別人だと思うよ。多分、あれに乗ってるのは、虫になって消えた子達だと思う。彼らを使うご先祖様がいたの、覚えてない?」

「三十五代目、刑太郎か」


 本来この力は人形を使うらしい。でも、異次元でバラバラになったあたしちゃんの肉片は、自撮りアタックによってちゃん朔の中で復元した。四次元ポケットごとちゃん朔に食べさせて良かった。お陰で全員分の武器が行き渡った。

 一度入れたものは複製出来る。スマホも、あの中に入っていた。あの異次元の海の中で、あたしちゃんは無駄に増えまくって、ちゃん朔を追い回したのだろう。


 死が二人を別つまでの周りに、例のX印がいくつも現れる。薙刀が飛び出して、死が二人を別つまでに突き刺さる。

 そこから飛び出たのは、紫色の煙。明らかに「ぼくちん毒ガスです☆」って奴じゃん。

 やっぱり何か用意してやがった。


「うわぁ、やっべ! ヤバヤバのドバーンじゃん!」

「待って二千五百一号。多分今のあたしちゃん、なんか外に行ける気がするから、アレ受けてみるよ!」

「マジで? 三百三号、任せた!」


 あたしちゃん三百三号が飛び出す。身体は溶けない。誰かの能力を手に入れたんだ。

 そして、毒ガスを思いっきり吸い込む。って、そんな森林浴中の深呼吸みたいに思いっきり吸わなくていいじゃん!

 程度とかあるじゃんよ。


「あ、コレ、なんか小豆? 餡子の匂いがする。クラクラするけど、大丈夫!」

「なんかあったら自撮りアタックで回復すれば行けそうだね。あたしちゃん一号殿、行けそうであります!」

「あと、あたしちゃんズも誰が何番か把握してないんで、数字はテキトーであります!」

「五千は多いわ」

 

 わちゃわちゃしているあたしちゃんズは、異次元から四次元ポケットを投げてあたしちゃんにパスする。

 あたしちゃんは銃で攻撃して、あたしちゃんズは異次元から薙刀と鎖鎌で攻撃・・・・・・毒ガスを回避しながら、トドメは荒国さんで行こう。


 騙し討ち毒ガス攻撃が効かないとわかったのか、死が二人を別つまでは起き上がり、威嚇するかのように吠える。雑魚は集まらない。もうこの辺りの雑魚は倒したって事ね。全部で多分六十匹くらいはいたはずだ。

 

「澪、これで最後だな」

「うん。しばらくちゃん朔は来ないはずだから、一気に叩こう。行くよ!」


 数え切れない程のXマークが、死が二人を別つまでを囲む。異次元の壁がガラスのように割れて、中からあたしちゃんズが次々と維を繰り出す。

 一瞬で死が二人を別つまでは倒れ、その頭と舌に四ちゃんの青く光る印が現れる。絶の光・・・・・・紫の光が見えないって事は、まだ油断はできないみたい。

 でも、気にしている余裕は無い。一気に近付いて、舌を切断してカップルの身体を解放、そしてすかさず頭を左右に真っ二つにする。


 悲鳴に似た叫び声をあげながら、奴の頭からもう一つ、狐面の頭が出てきた。これが多分本体だ。証拠に、示された光は紫色だった。毒ガスがあたしちゃんを囲む。むせ返る餡子の匂いに、ふとあずきアイスが食べたくなってくる。

 毒ガスの癖に美味しそうな匂いをしやがって。


「荒国さん!」

「おう!」

 

 荒国さんを鞘のまま構えて、抜刀して縦とか横とか斜めとかに切り刻む。

 チン! と荒国さんを鞘に収めると、狐面はバラバラになって、その巨体も虹色の光を放ちながら消えていく。


 毒が回ったのか、頭がクラクラしてきたので、自撮りで回復を試す。


「おっ。すげー。なんかラクになってきた」

「本当にスゴイな、この神アプリ」


 苦戦したけど、中ボス的な奴は倒せた。多分まだ、このレベルの奴が何匹かいると思うけど、あたしちゃん×五千にかかれば敵じゃないはずだ。


「ここら辺はもう全部倒したみたいたから、このまま南に行って狐石病院に行こう。お医者さんとか入院してる人とか助けたい」

「そうだな。成長したなぁ、澪。だいぶ人間から離れてしまったがな・・・・・・」


 荒国さんは寂しそうに言う。確かに、あたしちゃんはほとんどもう人間ではなくなってる気がする。だけど、やらなきゃ。この戦いに勝たなきゃ地球は滅んでしまうんだ。


 と、病院に向かって歩き出したその時、異次元の壁が割れて、中から灰色の鈍い光を放つ何かが飛んできた。

 そのすぐ後に、あたしちゃんズが顔を出した。


「あ、あたしちゃん一号! そっちに、おばさん? ん? これ、なんて言うかわかんないけど、激ヤバにスゲー人が行くから!」

「てか、もう行ってる!」


 スゲー人? 誰?

 灰色の光はあたしちゃんの周りをクルクルと周り、あたしちゃんの顔の前で止まった。


 ゴキブリを擬人化したみたいな、ゴキブリの触覚と羽を生やした小さな女の子が、フワフワと浮いている。肌はほんのり青い黒色で、目は白眼が黒くて黒目が黄色い。見るからに生意気そうな顔をしている。なんだろう。ピーターパンに出てくるティンカーベルの薄汚い版みたいな奴だ。服装もそれっぽい。

 何の情報も無ければ敵の妖怪判定して斬っちゃいそうになるくらい、敵オーラが強い。でも、四ちゃん光は味方を示す水色の光だ。


「おめーがアイツらの本体か。助けてくれて、サンキュな」

「そ、そうですけど、どちら様っすか?」


 そいつはこれまた悪そうな笑顔を浮かべ、親指で自分を指して言う。


「オレ様は闇の妖精、トビー・コマセール。お前らの先祖、シンジ・コマセールの妹だ」


 マジで激ヤバにスゲー人が来たようだ。

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