第七話 あたしちゃん一族が神の末裔だった件について

 アニメ好きなあいちーとゆにっぺに連れられて、アニメショップに行った事がある。その時に、小さいのに可愛くていろんなポーズが取れるフィギュアを見た。1/12サイズのアクションフィギュアってあいちーが言ってたっけ。

 突然現れてご先祖さまの妹を名乗った汚らしい妖精は、だいたいそんくらいのサイズだ。

 爆ねーさんも相当邪悪フェイスしてたけど、それが赤ちゃんに思えるくらい邪悪な顔だ。絶対にコイツの話をまともに聞いちゃいけねぇのが魂で理解できている。それくらいヤバい。


「澪、この・・・・・・・妹様? 叔母上? ん? この場合なんて呼べばいいんだ?」

「それより、この・・・・・・・オバサン? ん? が、なんでこんな所に?」

「まったく下等生物はこれだからめんどくせぇな。トビー様でいいぜ」


 なんだこいつ。超スーパー究極アルティメット上から目線だな。

 顔はめちゃくちゃ美人で可愛いのに、口調も目付きも全て極悪だ。


「てめーは兄様の匂いがぷんぷんしやがる。クソムカつくぜ。コマセールの雄がどうやってこんな下等生物との子供を作れたのかはわからねーが、現実は受け入れるべきだな」

「なるほど。この世界を創った一族の末裔たるトビー様は、異世界に吹っ飛ばされた一族に会いたいのですね」

「て、てめー・・・・・・・コマセール族の力をナチュラルに使いやがって・・・・・・・」

「澪、それ使うなら事前に言ってくれ。俺には何が起きたか全くわからん」


 でも、これを使うとリアル時間も飛んでしまう。このロリババァ妖精、長々と五分、激ヤバにとんでもねぇ話をしやがって。こっちは急いでるんだ。

 それにしても激ヤバだ。あたしちゃん達十三段一族は、全ての並行世界の元を生み出した創世四王の一人・・・・・・・一人? 神様って一人って数えていいのかな?・・・・・・・である、闇の妖精、女王ホーリー・コマセールの末裔だったのだ。

 コマセール族は子供を産む時に、何十匹の牝と一匹の雄を産む。雌は何らかの概念との間に子供を作り、雄は姉妹や、その子供達を守る。

 そんなのを繰り返していく内に、コマセール族はそれ自体が重力である、意志を持つブラックホールになった。

 既に意味が全くわかんない。荒国さんは何が起きたかわからないって言ってたけど、こっちも何を話されたのかスケールが激ヤバ過ぎて全くわかんない。


「トビー様、あたしちゃん達急いでるから、移動しながら詳しい話聞くわ。おっけ?」

「話した所で下等生物には理解できねーだろ」

「うん。それになんかすげー長そうな話だから、作業用BGM代わりにする」

「このクソガキ・・・・・・・力があったらてめーみてーな虫ケラ、この宇宙ごと消してやるのに」


 コマセール族は、くしゃみで宇宙を五千兆回消せる神様だ。それくらいは出来て当然だろうけど、トビー様はその力を封じられているのだ。


 病院への道は遠いし、これまでより妖怪の数が多い。あちらこちらから狐猿タイプ、狐ゴリラタイプ、狐カラスタイプが襲ってくる。

 だいたいこの三タイプの亜種や派生ってやつが多いのかな。んで、共通してんのは、頭に寄生してるから、首さえ狙えばコイツらと寄生されてる人は分離される。完全に寄生が進んで融合しちゃってる人は、もうごめんなさいと言いながら斬っていくしかない。

 距離が遠い奴は銃と薙刀、早い奴は荒国さんと鎖鎌、遅くて硬い奴は麦野さんを使って、撃ったり斬ったり叩いたりして進む。

 人間部分が残ってるタイプへのトドメは荒国さんで刺さなければ倒せないのがメンドーだ。


「澪、増やせる武器は捨てておけ。後で拾うか、拾った奴を倒せばいい」

「うん! わかったよ、荒国さん!」


 武器を捨てる事で、ポケットに戻す動作を省略出来る。三ちゃんの戦い方にだいぶ近づいて来た。

 でも、それってあたしちゃんがどんどん人間離れしているって事だ。って事は、その内トビーみたいな汚らしい妖精みたいな姿になるんだろうか。ちょっと嫌だな・・・・・・・。


「んで、オレ様は・・・・・・・」

「一兆年前からお兄さん・・・・・・・三ちゃんを探してるんだね」


 気が遠くなる話は続く。雑魚妖怪を蹴散らしながら、目的地に進みながら、とりあえず話を聞く。

 全ての並行世界の元を生み出した闇の女王、光の王、星の王、虚無の王・・・・・・・こいつらの上には彼らを生み出した何かが存在する。

 それが生み出した二つのシステム・・・・・・・文明を破壊するカオティックと、ついうっかり世界を破壊してしまう超越者と呼ばれる存在を隔離する『出口』と呼ばれる概念だ。

 三ちゃん含むトビーの家族は、その超越者に選ばれてしまった。末女のトビーだけ、新たに女王となった三女メリーによって、ほぼ全ての力を封印され、この世界に残った。

 何故、自分だけがこの世界に残されたのか。いろいろ考えて、結局トビーは、家族を取り戻して『出口』を破壊しようと決めたらしい。で、その出口を探す為にいろいろしていたら、どうやらそこから一時的に抜け出す事があると知った。で、家族の痕跡を探る内に、あたしちゃん家にたどり着いたって事らしい。

 フーン、健気じゃん。

 こいつ、ひょっとして良い子なのかもしれないな。

 途中から数を数えてなかったけど、襲って来た雑魚は全部倒して、病院の近くのスーパーにたどり着く事が出来た。ホストボールみたいな小ボスが出て来なかったのが気掛かりだ。


「んで、兄様の匂いをさらに辿ってたら、アイツらに捕まっちまったってワケよ。流石に異次元から出てくる奴は、今のオレ様には難しかったんだ」

「しかし、朔が飲み込まなければ、澪と妹様は会えなかった。結果的に良かったのかもしれませんな」

「・・・・・・・そうだな。力さえあれば、あんなガキどうとでもなるんだけどな」


 トビーの話を聞きながら、少し歩いて気が付いた。病院に向かう道路に、なんかデカい壁みたいなのが出来ている。

 飛んで越えられる高さじゃないっぽい。上が全く見えない。


「おめーらが目指してたのはここか」


 トビーが、苦虫を噛み潰したってヤツ? な顔をして、壁を見上げた。

 この言葉たまに見たり聞いたりするけどさ、苦虫ってなんなんだろ。だいたいの虫はなんか苦そうじゃん。


「マズイな。これはカオティックと戦ってる連中がタワーって呼んでる構造物だ。カオティックの習性は知ってるか?」

「だいたいはね」

「おめーら下等生物が食事をする時、素材を自分好みに調理するよな? カオティックはそれと同じように文明を自分好みに調理する。それは知ってるな?」

「うん」

「ここは、おめーらの言葉で言う調理場だ。このタワーを中心にこの土地を改変して、あのカオティックが食べやすいようにする。ここまでの大きさになると、何が起こるか、このオレ様にも予想が出来ない。おい、下等生物。ここに来た途端、時間が飛ばせなくなってるだろ」


 ほんとだ! これまでならこんな話聞くのめんどくせーから飛ばしてたのに、意識しても六十っちゃんの能力が全く使えない。


「あの能力は、俺としては使われるとびっくりして少し混乱するんだが、使えないとなるとそれはそれで厄介だな。あれは不確定要素が無い事が確定した証拠でもあるからな」


 荒国さんの言う通り、厄介な建物だ。大きさから考えると、病院はこの中にある。

 もう手遅れなのかな?


 心配そうな表情が、思わず出ちゃったんかな。トビーが少し優しげな口調で言う。


「コイツはただの壁が上に伸びてるだけだが、中はまだそれほど改変されていないはずだ。文明ってのは記憶の集合体でもある・・・・・・・多くの生命体の記憶に残っている建物は奴らにとってはクセが強くて調理に時間がかかるらしい。だから安心しろ。おめーらの目的地は多分無事だ。あと、コイツは多分、あの虎のガキか鮫のガキをぶっ殺せば壊せるはず。なんとかなるだろ」

「ババァ、クソ生意気な口調以外も出来るんですね!」

 ありがとう、トビー様!


「あっ、びっくりして心の声と口からの言葉が逆になっちった」

「あのなぁ、てめーが一番クソ生意気なんだよ! オレ様は十五年前この星に来て、情報集める為にいろんな奴に会ったけどな・・・・・・・その中でも一番のクソ生意気な下等生物だよ! マジで! てめーはよ!」


 マジか。

 あたしちゃん、そんなに生意気かな?


「荒国さん、あたしちゃんってそんなに生意気キャラかな?」

「えっ。あっ。うん。俺を使った歴代十三段流数百人の中で一番元気かな! そう、元気!」

「刀のおっさんもクソ生意気って言ってるじゃねーか」

「言ってないぞ! 生意気かもしれんがそんな言うほどクソ生意気では無いと思うぞ、多分!」


 そんなやり取りをしていると、四ちゃんの声が聞こえた。この壁沿いのどこかに行けっていう声だ。白い光が目的地を指している。

 そう言えば、トビーはカオティックと戦ってる人達がいると言っていた。つまり、カオティックは倒せる・・・・・・・攻略法があるって事だ。

 その攻略法が、この白い光の先にある。そんな気がする。


「あっちに行ってみよう。何かあるかも。あるかもっていうより、いるかも?」

「別世界と繋がる能力でわかったのか。オレ様はそれ使えなかったんだよ。使えたのは上の三人の姉様と、兄様だけだ。そいつが使えるんなら、オレ様はてめーを信じるぜ」


 四ちゃんの能力は絶大だ。あたしちゃんの本来ならめちゃんこ未熟な維でこんなにも戦えてるのは四ちゃんのお陰だ。行くべき道を教えてくれる。出す技も決めてくれる。その間、あたしちゃんは四ちゃんが考えられない部分を考えて、好きにやっていい時は好きな技を出す。失敗しても四ちゃんがカバーしてくれる。

 そりゃトビーも信頼するはずだ。


 進んでいくと、大型スーパーがあったはずの場所に、狐像の集合体のような・・・・・・・なんて言うんだコレ、モニュメントってヤツ? それにしてもでかい。ここにあったはずの大型スーパーと同じ大きさだ。そんな物体が鎮座ましましていた。

 駐車場だったはずのめちゃんこ広いスペースには、何かクソデカい箱みたいなのが置かれている。遠足とかで乗るデカいバス五台くらいの大きさかな。とにかくデカい。

 目的地はその箱のようだった。

 今の時間は夜中の十時くらいだと思うんだけど、街灯が全部・・・・・・灯籠って言うんだっけ。あの石で出来たなんか寺とか神社とか池とかにある奴・・・・・・それになってて、真っ赤な火の玉と紫の火の玉が混じりあいながら燃えている。

 おばけみたいで、めちゃめちゃ怖いんですけど。


「出たな、十三段流!」


 うっわびっくりした!

 箱から爆ねーさんの声が聞こえた。

 突然、箱からワニみたいな鱗のついたデカくて長い脚が生えた。ドスンドスンと八回くらいデカい足音を立てて、そいつは立ち上がった。

 鱗に灯籠の炎が反射してキラキラとしている。何らかのオイリーなもんでも塗ってるんかな。

 デカい箱は側面に足が十六本生えている。よく見ればそれは手のようでもある。規則性があるようで無い、めちゃくちゃな並びだ。

 不安定そうな奴だな。突然転びそうだから、気をつける点はそこかな。


「出たなとか言うなよ。あたしちゃんはゲッタードラゴンかよ」

「知らねーよ。なんなんだよソレ。ゲッター?」

「あたしちゃんがアニキの誕生日に買ってあげたなんかいろんな描写がキツい漫画だよ! 詳しくは知らんけど」

「オメーも知らねぇんじゃねーか」


 アニキがなんか熱く語ってくるからそれっぽいワードだけは覚えてんだよね。出たな、ゲッタードラゴン・・・・・・最終話のセリフなのは知ってる。

 爆ねーさんの姿はまだ見えない。でも声だけは箱の中から聞こえて来る。


「コマセール族と十三段流の両方を餌にすれば、星、宇宙ごと一瞬で消せそうだな。ウチ、ワクワクしてきちゃったゾ」


 なんかサイヤ人みたいな事言い出したぞ、このねーさん。


「黙れ下等生物が。蛆虫は蛆虫らしく夢も見ないで死ぬまで這いつくばってろ」


 トビーが対抗意識バリバリのバリで返す。

 こっちはこっちでホントに口が悪いな。まだ爆ねーさんの方が可愛い。

 どうも爆ねーさんは、あたしちゃん達と決着をつける気なのか。今、ここで。


 タワーの中には妖怪やウチの門下生、荒国さんと同い年の仙人みたいなお医者さんもいる。

 簡単にカオティックの餌にはならないだろうけど・・・・・・多分きっと、あたしちゃん達に残されている時間は少ない。

 荒国さんが空気を読んで右手の中に入ってくる。左手で四次元ポケットから薙刀を取り出す。あたしちゃんズの何人かも異次元の向こうで待機済みだ。ちゃん朔の妨害も懸念して、周りに配置させておく。四ちゃんを通じてあたしちゃんズに命令を出せる事についさっき気付いたんだよね。

 トビーもなんかあたしちゃんの周りをビュンビュン飛んで爆ねーさんを威嚇している。


「行くよ、荒国さん。トビー様」

「任せておけ、澪!」

「オレ様は見物しながら、ついでに弱点とか探してやるよ」


 荒国さんが手の中に入ってくる。脚だけであたしちゃんの五倍くらいはデカい。どんな攻撃をしてくるかも分からない。

 様子を見て・・・・・・って、ちょっと待って。

 なんか脚を挙げたかと思ったら、箱の中に・・・・・・手を突っ込んだぞ、コイツ!


 トビーが急上昇して様子を見に行く。


「お、おい下等生物! 上から来るぞ! 気を付けろ!」

「なんだっけそれ。確か・・・・・・デスクリムゾンだよね。なんかケン坊がはしゃいでたゲームだ」

「知らねーよ!」


 あたしちゃんも詳しくは知らねーけど、ケン坊がめちゃんこはしゃいでたから覚えてるんだよね。

 で、トビーの言う・・・・・・上から来る・・・・・・の正体は、この箱、中にめちゃんこ寄生前の妖怪が入っていて、それを雨かよってくらいぶん投げて来るって奴だった。脚であり腕であるものが箱の中に手を突っ込み、それを思い切り高く強く早く振り上げる。すると、狐面をつけたタコみたいなのが飛び出す。これまでピナコの眷属妖怪と嫌ってほど戦ってきたからわかる。っていうより、もう寄生する気まんまんのデザインの妖怪がシャワーみたいに降ってくる。

 寄生前の妖怪が降ってくるって事は、あたしちゃんが寄生されたらマンパーセントアウトって事☆ミ


「ちょっとちょっとパイセン、それマジでヤベー奴じゃん!」

「気付いたか、みおっち! あんたの想像通り、そいつらは全部、寄生する前の奴さ!」

「みおっち! カワイイ! めっちゃうれしーけど、そんなんぶん投げるの止めてほしーなー!」

「止めない」

「っ・・・‼︎ ボスキャラっていつもそうですね・・・! 主人公サイドのこと、なんだと思ってるんですか⁉︎」


 ヤバヤバのドワォだ。

 四ちゃんの力を借りた維でもギリギリしか間に合わない。あたしちゃん、荒国さん、四ちゃん、あたしちゃんズ・・・・・・誰かがミスをしたらその時点でゲームオーバーだ。あたしちゃんが妖怪に乗っ取られたらもう終わり。宇宙最強の武術を使える妖怪が誕生して、誰も止められなくなる。

 上空から壁みたいに飛んでくる狐面の群れが、バカみたいに触手を伸ばしてくる。この触手、完全に肉に刺さる奴じゃん!

 武器を投げるタイプの維を混ぜながら、距離、方向に応じた維を繰り返していく。遠距離系武器は間に合わない。薙刀、麦野さん、荒国さんを縦横斜めに振り回しながら投げたり拾ったり刺したり斬ったり・・・・・・そりゃ斬り方も投げ方もいろいろだよ。武器を振りまくってバッテンにしたり十字に繋げたり、とにかくいろいろしなきゃこれは乗り越えられない。


 んで、斬りながら考える。爆ねーさんがコイツらを作っていて、これまでの雑魚妖怪はこうして作られてきたのは想像に容易い。

 つまりこれは、あの腕なのか脚なのかわかんねー部分をぶった斬るか、中の爆ねーさんを斬るか・・・・・・そのどちらかしか攻略法が無い。四ちゃんからもなんか「クソゲーじゃねーか」っていう悲鳴に近い声が聞こえる。

 

 そして、目の前が急に真っ赤になった。直後、爆ねーさんが肉球パンチの構えをしながら目の前に現れた。


「ねーさんまで飛んでくるのはダメでしょ!」

「知ってるだろ。ウチはそういう事をする奴だって!」


 知ってるけど! 知ってるけどもさぁ!

 オレンジ色になった瞬間に弾く。爆ねーさんはよろけながら降ってくる寄生妖怪の雨の中に消えた。今頃、箱の中に戻っているんだ。この隙に追いかけて爆ねーさんを斬れば倒せるかな?


「澪! 左だ! 左から来る!」


 荒国さんの声! 上からしか来なかった寄生妖怪が、横から飛んできた。爆ねーさんが投げた可能性が高い。

 タイミングがズレてしまった。左腕に寄生妖怪の触手が刺さる。このままじゃヒダリーが誕生してしまう。すぐに、左腕を荒国さんで切り離し、スマホに切り替えて自撮りアタックで防ぐ。

 寄生妖怪は吹き飛んで、少しだけ余裕が出来た。


「下等生物、大丈夫か」

「トビー様!」


 トビー様が、心配して駆けつけてくれた。

 自撮りアタックでほぼ全ての寄生妖怪が消滅した。

 でも、喜ぶのはまだ早かった。

 想像するのは簡単だったはずだ。でも、咄嗟の事で、それを想像する事は出来なかった。


 あたしちゃんの左腕は再生し、切り取った左腕も綺麗に全身が再生してしまった。それも、狐面を被った状態で・・・・・・だ。

 狐面を被ったあたしちゃん爆誕!

 狐面あたしちゃんは触手で作った刀を構える。刀を両手で持ち、切先を下げながら真っ直ぐこちらを見ている。十三段流一刀式維の構えを、それはそれは綺麗に取っている。


「やっべ!」


 狐面あたしちゃんが飛び出した。刀はオレンジ色に光っている。弾かなきゃ! こいつはあたしちゃんと同じ技が使える!


 刀を振っては弾かれる。弾かれて回避に対処すれば追いついてくる。こちらが弾けば相手も同じ行動をする。六十っちゃんの能力が使えないのは、タワーと爆ねーさんという不確定要素があるからだ。

 それに、この状態で六十っちゃん能力を使えば、きっとヒナピが落ちてきた状態にまで時間が吹っ飛ぶはずだ。それは、言ってしまえば、ザ・エンドってねって奴だ。


「おい、下等生物! オレ様に良い考えがある」

「絶対ハズレだろ、それ!」


 一通り投げ終えたのか、箱は腕を箱の中に突っ込んだまま止まっている。

 今がチャンスだけど、目の前には狐面あたしちゃんが箱を守るように立っている。

 ハズレ呼ばわりしたのが気に入らなかったのか、トビーはイライラした様子で続ける。


「オレ様の血液、飲んでみないか?」

「はぁ⁉︎」


 何言ってんだコイツ。


「オレ様の血液は能力のほぼ全てをメリー姉様に封じられてはいるが、純粋なコマセールの血だ。何か良い感じの事が起きるかもしれない」

「澪、やめておけ。何が起きるかわからんぞ」


 一瞬、オーケーを出しそうになった。でも、荒国さんが止めてくれた。

 そうだ。たしかにちょっと考える時間が必要だ。


 あたしちゃんは荒国さんの刃が首に当たるようにして荒国さんを背負った。セルフギロチンみたいな感じ。


「あいつに勝つにはそれしか無ェ! はやく飲むんだ!」


 トビーはあたしちゃんを急かす。急がないとまたあの妖怪雨が降る。

 あたしちゃんにはこれまで選択肢が無かった。でも、今は考える時間がある事を知っている。


「ちょっと死んで攻略法を考えてくる!」

「はぁ⁉︎」

「任せろ、澪!」


 荒国さんはあたしちゃんがしたい事を瞬時に理解し、なんの躊躇も無くあたしちゃんの首を斬った。


 そう。今のあたしちゃんには待ってくれている家族がいる。そこで対策を考えるんだ。


 首が斬れて、目を覚ませば・・・・・・そこはいつものあたしちゃんの部屋だった。

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