第五話 絶対に止まってはいけない妖怪退治24時な件について

 狐鮫きつねさめサク、ちゃん朔は異次元に潜って移動しながら獲物を食べる妖怪だ。その妖怪が、あたしちゃんを追っている。止まれば四ちゃんデンジャラスレッドアラートがあたしちゃんの周囲に現れる。右腕と右脚は再生途中でまだうまくバランスが取れない。

 バランスは取れなくても、荒国さんの浮遊力を利用して片足だけで飛び跳ねる。カッコ悪くても、とにかく逃げなきゃ。みうみうの話が本当なら、アレに食べられたら異次元に飛ばされてしまう。ヤバヤバが津波のように押し寄せて来た。そんな感じだ。

 途中で拾ったリオン兄ちゃんのスマホはロックされずに麦野さんのコーヒーレシピが保存されているクラウドサービスが表示されたままだった。


 そこにはこんな風に表示されていた。


 CAFERESTフォックストン/コーヒーのレシピフォルダ/


 これを僕以外が見てるなら.txt

 きっと僕は石化している.txt

 僕の身体は最後にあるレシピで.txt

 作ったコーヒーをかけると元に戻る.txt

 それまで大槌式の武器として.txt

 使ってね.txt

 コーヒーのレシピ.txt


 麦野さん、武器として使えるのかよ! しかもコーヒーで元に戻るんか。どんな妖怪だよ。

 あたしちゃんは運が良い。適当に逃げた事で、ちゃん朔と距離を取りながら麦野さんをゲットしに行ける且つゲットした時には身体が元どおりになる予定な位置に付けている。

 運が良いっていうより、四ちゃんの指示のお陰でもあるな。ありがとう、四ちゃん。


 跳んだ先の周辺が赤く光る。四ちゃんデンジャラスレッドアラートだ。

 コイツ! あたしちゃんが次に跳ぶ位置を予測して来た!


「んばぁ!」


 ちゃん朔は口を大きく開けて、あたしちゃんを待ち受ける。でも、それ自体は赤く光っていない。光の色はオレンジ色だ。これはカウンターのチャンスだ。

 口が閉じられる瞬間に鞘のままの荒国さんを振る。ちゃん朔の頭に横から荒国さんを叩きつけると、驚いたちゃん朔は異次元に逃げようとする。異次元から出てきたお腹に向かって、蹴りを入れて麦野さんの方へ向かって飛ぶ。


「いったぁい!」

 

 朔は痛がりながらも異次元へと逃げていく。

 あー。痛がってる声めちゃくちゃカワイイ。出来れば、違う形で出会いたかった。

 だって想像してみ? 例のサメのぬいぐるみが可愛い声で喋って動いて異次元からいないいないバァしてくるんだよ? 一生飽きん自信しか無いわ。

 直線コース上には赤い点がいくつか現れる。これは出てくるかもしれない場所だと思う。四ちゃんはこの点を避けて移動しろって言ってる。

 一番近い点に近付くと、点が大きな光になってちゃん朔が出てくる。カウンターが出来る感じじゃない。避けて、少しでも麦野さんに近付いていく。

 避けられる時は避けて、カウンターが打てるなら打つ。それを繰り返した結果が・・・・・・そう、こちらになります☆


「え? な、なに? おねーちゃん、何をしたの?」


 スキルオブシックステン、発動。

 麦野さんを抱えて、腕も脚も完全復活したあたしちゃんの真下で、ちゃん朔は口を大きく開けてポカンとしていた。

 あー、これ、この位置に飛ぶんだ。マジかよ。

 落ちれば異次元お口が待っている。その真上であたしちゃんは今まさに落ちようとしている。

 ヤッベェ!


「なんだかよくわかんないけど、いただきます!」

「待って待って! 待てって!」


 荒国さんの力ではあたしちゃんと麦野さんを同時に浮かせる事は出来ない。

 このまま落ちるしか無い。大槌式維、あたしちゃんはまだ練習すらした事が無い。とにかく持ったまま良い感じの角度で振り下ろすくらいしか出来ない。軽く持てる程の力はあるけど、それをどう振り下ろせばいいのかなんて分からない。


「ど、どうするんだ澪。このままだと食われるぞ!」

「こうなったらアレを使うしかない」

「アレ? アレとはなんだ?」

「なんとかなれ! だよ!」


 ちゃん朔の頭が閉じる瞬間、赤色から青色に光が変わった。なんとかなりそう!


「なんとか・・・・・・なれー!」


 麦野さんを振り下ろすと、あたしちゃんの身体は宙に浮いた。同時に、麦野さんの身体がちゃん朔の頭にめり込んだ。


「ぽよ!」

「あ、ぽよって言うんだ、そこで」

「頭ぽよってなったら、そりゃぽよって言うよ!」


 くっそ。このモフ鮫狐いちいち可愛いなチクショウ。

 割と重いはずの石像を思い切りぶつけられたのに、ちゃん朔は平気そうだ。四ちゃん情報では、まだ三分の一しかダメージを与えられていないらしい。しかも、なんか回復し続けているみたい。なんなん。お前の方がチートじゃねーか。

 つーか、アレを食らってもそんなにダメージを与えられないってどんだけだよ。

 ぽよじゃ足りない。もっと、ズボォぐらいの勢いが欲しいけど、石化した百七十センチ成人男性よりも強い武器が現状では見当たらない。


「おねーちゃん、怖すぎ。ちょっと休憩してくるね。休憩するって言っても、ひょっとしたらすぐ戻ってくるかもね。じゃあ、そゆことで。チャァオ♪」


 ちゃん朔は異次元に潜った。四ちゃんレッドアラートが出てこないって事は、本当にここから逃げたのか。それともまだいて、ただ攻撃して来ないだけなのか。


「これは逃げ続けるしかないぞ」

「だよね。それしか無いよ」


 ちゃん朔の事は、時々出てくるお邪魔ブロックか何かだと考えて、眷属を狩っていくしかない。

 一気にベリーハードモードになってしまった。こんなん無双状態でもなんでもない。一瞬でも気を抜いたらやられる。


 絶対に止まってはいけない妖怪退治二十四時が始まってしまった。裏番組だと歌合戦とかやってるんだろうか。ああ、ここで頑張らないと今年の紅白を見られない。まだ出る人発表すらされてないのに。

 え? 裏ではドスケベ淫紋を七つ集めて願いを叶える話が公開されてるって? なにそれ。ちょっと興味アリじゃん。


 って、止まってたら早速四ちゃんレッドアラートでちゃん朔が飛び出してくる。すぐに飛んで避ける。


「フヒヒ。おねーちゃんのコト、絶対に休ませてやんないからね」


 ちゃん朔の相手をすれば眷属と爆ねーさんとみうみうを放置する事になる。

 相手をしないとなると、あたしちゃんは常に動き続けながら眷属と爆ねーさんとみうみうと戦わなければならない。

 まだ十分の一くらいしか眷属倒してないのに、これはキツい。でも、選択肢はやはり後者しか無い。

 あたしちゃんは不死身でさいつよだけど、選択肢が無さすぎる。これが力の代償という奴なのかもしれない。

 それにしても麦野さんハンマーが重い。大槌式維で、投げて飛んで掴んで投げてを繰り返して移動する方法があるから、解決策が見つかるまでそれで行くかな。


 荒国さんの力とご先祖様パワーと麦野さんハンマー移動技を駆使して、建物の屋根から屋根へと飛んでいく。

 狐の面を被った鳥人間二十匹に囲まれた。こんなの荒国さんの鞘を足場代わりにして、ぴょぴょぴょんぴょぴょぴょんするだけで圧勝だ。

 こちらには荒国さんと破邪の木刀、そして麦野さんハンマーがある。一刀式二刀式大槌式一刀一槌式無手式を組み立てながら、斬って打って叩いて蹴って殴って斬って行く。

 四ちゃんの声に従い、攻撃をしながら空を移動していく。商店街の西側出口付近に五十匹くらいの群れがいるらしい。西口出口って言うと、屋台系のお店と広い西口スポーツ公園がある場所だ。西口公園は遊具のある広めの公園を中心に、各種スポーツが出来る運動場三つくらいが扇状に広がっている。各運動場は、北からABCと並んでいる。間には広い通路があり、その真ん中にはアスレチック遊具が並ぶ。

 目を向けると、赤い光が見えた。そして、レーザーみたいに赤い光の線も見える。何かが飛んでくるってサインだ。


「狙われているぞ!」

「みたいだね。避ける?」

「避けた先に朔が出るかもしれない。麦野を盾にしながら飛ばして様子を見よう」


 麦野さんを投げて、荒国さんに捕まって追いかけ、麦野さんを盾にしながら勢いを利用して飛ぶ。

 何か硬いものが高速で飛んできた。映画やゲームで聞いた事がある音がする。そう、なんかスナイパーライフル系の武器で撃たれている音だ。

 麦野さんシールドは壊れない。反動で浮き上がるくらい強い衝撃があるのに、びくともしない。これ、地面に降りても盾にして使えるかも。一刀大楯式維も使える。


 時間を飛ばして、商店街西側出口にスーパーヒーロー着地する。同時に眷属の連中が襲いかかってきた。猿タイプ、ゴリラタイプ、鳥タイプ、あと新種のイソギンチャクタイプがいる。なんかエロい事してきそうな奴だな。

 でも、六種類の維を組み合わせられる状態の十三段流にとって、妖怪たった六十数匹なんていないのも同じ。武器を投げて、攻撃しながら移動して、武器を拾ってあらゆる敵の攻撃に最適なカウンターを繰り出す。途中でちゃん朔が乱入してきてきたけど、この状態なら勢いを利用してギリギリ防ぐ事が出来る。千切れた腕だってなんだって利用して、六十八匹の雑魚眷属はあっという間に虹色の光になった。ちゃん朔がいなければ時間を飛ばせたけど、これは仕方がない。


 雑魚は消えた。ちゃん朔もダメージを受けたからか止まっているのに気配がしない。残るは、B運動場の入り口に立つ狐面を被った学生カップルのみ。ラクショーじゃん。

 雑魚を倒し終わった途端、二人は手を繋ぎながらスキップをし始めた。

 嫌な予感しかしない。

 そうして、ドシンドシンという地響きと共に、それが二人の狐面カップルではなく、二人の狐面カップルを舌のように口から出しているクソデカい狐だって言うのが分かると、これケン坊がやってたゲームで見た事ある奴だと確信した。

 デカイ狐は前脚と後脚が妙に長い。まるで昆虫のようだ。尻尾は狐というより蛇のようで、先っちょには蛇の頭がこんばんはしている。背中にはなんか気持ちの悪いコブがある。

 不気味過ぎて攻撃手段が予測できない。さっきの狙撃は蛇頭から撃った可能性が高いのはわかる。あと、もう一つわかった事がある。

 あいちー達とは何か違う。この二人はもう助からない。気配が完全に融合してしまっている。


「澪、コイツを殺さないとこの二人の魂は救われない」

「死が二人を別つまで、って事だね。コイツの名前は、もうそれで行こう」

「えっえっ。澪よ、そんなポエミーな名前つけて大丈夫なの? 後で恥ずかしくならない?」


 その時はその時だ。あたしちゃんは、この不気味だけどポエミーな奴にポエミーな名前をつけたかったんだ。


 蛇頭が赤く光る。やはり狙撃してきたのはコイツだ。この攻撃は麦野さんシールドで防げるのはわかってる。四ちゃんも荒国さんも同じ意見だ。ここはガードしながら、ゆっくり前進だ。







「ねーちゃん、起きて」


 は? 目が覚めればベッドの上。ケン坊があたしちゃんを起こしてくれた。

 え。待って待って。あたしちゃんまた死んだ?

 キョトンとしているあたしちゃんを見て、ケン坊は長い溜息を吐く。


「あのさぁ、ねーちゃん。空飛んでる時に受けたら反動ヤバい攻撃をさ、地面で上から受けたらどうなると思う?」

「んー? 潰れる?」

「正解」


 あー。麦野さんに潰されたパターンか・・・・・・。四ちゃんもあたしちゃんも荒国さんも、誰も予想出来なかった。どんだけ硬いんだよ、あのイケジジィ。

 慌てて部屋を出ようとするあたしちゃんをケン坊が止める。


「ねーちゃんが寝てる間にねーちゃんのスマホに僕が作ったカメラアプリ入れておいたよ。これで妖怪を撮るとダメージを与えられる」

「神アプリじゃん。自撮りして攻撃出来る?」

「自撮りした場合はねーちゃんの体力が回復して再生速度も上がるよ」


 すっげ。さいつよじゃん。


「あと、三十分くらい待てばご先祖スキルガチャが出来るようになるよ。いくつか武器を作っておいたから、練習しながら待ったら?」


 ケン坊はそう言って、手に持ってた袋から薙刀と分銅付き鎖鎌と二丁の拳銃を出した。


「待って。何? そのラインナップと、その・・・・・・えっと・・・・・・四次元ポケットとしか言えない何か」

「ああ、武器は今のねーちゃんが使えそうな奴。で、こっちは母さんが作ってくれた・・・・・・例の猫型ロボットのお腹についてる奴をパクった奴」

「ママこんなんも作れるの?」

「うん。ねーちゃんに着て欲しいコスプレ衣装を作りまくってるから、着てあげたら?」


 それ楽しそうだな。

 ケン坊から四次元ポケットを受け取って、ママの所に行く。やっぱり台所で何かご飯を作っていた。

 あたしちゃんに気付くと、ママはあたしちゃんを抱きしめた。


「おかえり」

「ただいま。なんかコスプレ衣装作ってくれたって?」

「そうなのよ! あなたが二十四代目様の力で外の世界に繋がった時にママも少しだけ向こうの世界の情報に触る事が出来たの! で! 出来たのが、こちらになります☆」


 いつの間にかママの趣味部屋にワープしていた。ママもスキルオブシックステンが使えるのか・・・・・・。

 ママの趣味部屋はミシンとか生地とかが置いてある。結婚する前は服のデザイナーだったって聞いた事がある。昔は仕事部屋だったけれど、今は趣味の部屋になっている。

 クローゼットに並べられた服を見る。赤い縞々ニーソックスの露出ヤバそうなセーラー服とか、ヒラヒラのついた魔女っぽい服に混じり、デッドプール様の服としか思えない服が圧倒的存在感でこちらを見ている。

 これしか無くね?


「あー! やっぱり? やっぱりデップー様選んじゃう?」

「そりゃ選ぶよ。一択だよ」

「絶対似合うと思うわ。あ、頭までデップー様だと何がなんだかわからなくなるから、頭は作らなかったわ」


 そりゃそうだよね。これで頭までデップー様だったらこの小説のタイトルがカワイイデッドプールになっちゃうじゃん。それはダメだよ。あくまでこの小説のタイトルはカワイイデモンスレイヤーだからね。行き過ぎないようにしなきゃね。

 そもそも無許可だしね。いつか許可取れるようにしなきゃ。それで、もし共演出来たらあたしちゃん鼻血出して気絶するわ。


 デップー様のコスプレに着替える前に、出来た衣装を一通り着ていく。そんな事をしていたらあっと言う間にご先祖スキルガチャの時間が来てしまった。

 着替えて道場に行き、ガチャを回す。何か光って、多分戻るとなんか能力に目覚めてる感を覚えながら、庭で筋トレ中のパパとアニキに手を振って、玄関を出る。




 身体が再生していく。背中につけた四次元ポケットに麦野さんを放り込んで、荒国さんと木刀を構える。

 再生が終わるとちゃんと服が変わっている。すごいな。


「澪、なんだ、その格好。かっこいいじゃないか」

「うん。これなら何食らっても平気な気がする!」

「そ、そうなの? そんなにいろいろ大丈夫なの? おじさん、そうとは思えないけどなぁ。その服、すごく、その、すごく危ない気がするんだけどなぁ」


 大丈夫じゃない所がいくつかあるだろうけど、多分大丈夫だよ☆


 再生したあたしちゃんを見て、『死が二人を別つまで』は驚いたような素振りを見せた。

 めちゃくちゃ警戒されている。でも、お陰でこちらも対策をじっくり考える事が出来る。


 さて、このデカブツをサクッと倒しちゃいますか!

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