第93話

「ねぇダルゥ、戻ろうよう。

 ここって、来ちゃだめな所でしょ」


「だめ。神様の力を使って皆を助けて貰うんだ。

怖いならマリアちゃんは皆の所に戻って。」


ここは聖域。

地下都市の最奥に神々の世界へと通じる門があるとお祖父様が言っていた。


今、地上は魔王軍に占拠されていて皆が逃げ込んだ地下都市に攻め込んでいる。


父上は侯爵様が王都から援軍を引き連れてくるとみんなに言っている。

でも僕は知っている。


侯爵様は王都を守ると言って軍勢を率いて出て行ったけど、この領土から逃げ出したんだ。


だって不滅の魔王は聖域がある都市を狙っているから。


天弓の勇者ラファ様は不滅の魔王に敗れ、力はお祖父様に匹敵すると言われた勇者ワイアット様がいるグレートフリード王国は不滅の魔王の傘下なった。

聖皇国も殆どが占領され教皇様は行方知れず、皇子レオ様がエルフの森の近くにある城塞都市に逃れエルフと共に戦っている。


「離れるなんて嫌よ!」


マリアちゃんは僕の腕にしがみついた。

小さい頃からずっと一緒だった。

僕も離れたくない。

でも僕がどうなろうと皆をいやマリアちゃんを守りたいんだ。


しばらく進むと僅かに発光している黒っぽい石の通路を抜けると大きな広間に出た。


階段の上には神殿があり10体の石像が入り口を守るように置いてある。


「あれ大丈夫なの?

 今にも動き出しそうな気がするのだけど?」


マリアちゃんが心配そうにしているので懐から宝珠を取り出してみせる


「この宝珠を持っているから大丈夫だよ」


「宝珠?」


「この宝珠を持っている人は襲われないんだって」


マリアちゃんに宝珠を見せると目をキラキラと輝かせて喜んでいる。

昔からアクセサリーや宝石が好きだからね。


「その宝珠を持つ者は天獄の門に行き、神の力を得、神々の軍勢を従える事ができる」


突然知らない人の声がしたので、振り返って見ると神官服のおじさんとハルオ義兄さんが近づいてきた。


「誰ですか?」


「余は聖皇国の教皇である。

 ふむ、お前はリーマンの子か・・・

 まぁ悪くは無いが・・・」


「教皇様。

どうしてこんなところに・・・」


ハルオ義兄さんは神の力を得ることが出来ると言うことに少し驚いたみたいで、じっと僕の持っている宝珠を見ているので、ポケットに収まった。


「神の力を得れば、外の魔物、いや一部の大魔王クラス以外なら問題なく討滅できるであろうな。

 今は時間が惜しい。

 ここから先は宝珠を持つものしか入れぬゆえ、ハルオはここまでで良い。

余は聖域の最奥へ向かう。」


「一人しか入れないから、マリアちゃんは皆の所に戻って。」


教皇様は神殿の中へ入って行った。僕も後を追いかけたいけど、ここから先は僕が独りで進まないといけない。

でも。マリアちゃんは腕にしがみついて離れてくれない。


「だめ!

 嫌な予感しかしないわ。

 この感じの予感はよく当たるのから絶対に行っちゃだめ!」


「でも、皆を助ける事が出きるんだ。

行かなきゃ。」


「絶対に嫌!」


あぁ、マリアちゃんはこうなると梃子でも動かないんだ。


どう説得しようかと考えていると、ハルオ義兄さんは近づいてきてマリアちゃんを引っ張り、抱き寄せるとそのままマリアちゃんに口付けした。


「え?

 ハルオ義兄さん?」


 すぐに間に割り込んでマリアちゃんを引き剥がす。


「何するんですか!」


マリアちゃんの様子がおかしい。

腰が抜けたみたいにへたり込んで、息が荒い。


「んー、どうやら俺は宝珠を持ってないから入れないみたいだからな。まぁダルくんは神の力貰って頑張れよ。

俺はマリアちゃんと良いことしてるから」


「は、はぁ、なに言ってるのよ!」


「はは、怒ってる?

嫌なの?

でも、君、顔真っ赤だね、

それにさっき舌入れたけど噛みついたりしなかったし、案外オッケーなんでしょ?」


「あ、頭が真っ白になって動揺してただけよ」


「俺、子作りには自信があるんだよね。

病みつきになるくらい気持ち良いことしてあげるよ?

来年にはダル君に俺たちの子供見せてあげようよ」


「ハルオ義兄さんは神の力がほしいんだね。」


ハルオ義兄さんはニヤリと笑ったあと頷いた。


「そんな良いものじゃ無いよ。

体を乗っ取られて、ボロボロになるまで戦う事になるんだ。」


「え、ちょっと待って!

 そんな話、聞いてないわ!」


「何の問題も無く力得られるなら、皆がとっくに使ってるよ」


「俺は大丈夫。

 神様から貰った、俺のチートが囁くんだ。

 絶対に手に入れろってね」


「チート?」


「君が宝珠を渡すのが嫌なら、マリアちゃんでたっぷり楽しむ事にするよ」


この人は確か聖皇国の皇女様や色々な女の人に手を出して追放されらしい。

こんな人が居るのにマリアちゃんを置いて行くことは出来ない。


僕は宝珠を投げ渡した。


「素直だねぇ

 じゃあマリアちゃんと楽しむのは君に譲るよ。

ああ、早く鎮めて上げないとつらそうだよ」


「僕はそうゆう事はちゃんと結婚式をあげてからと決めています」


「俺の唾液は強烈な媚薬になるだよ。

意地張ってるとマリアちゃん発狂するかも知れないよ」


ハルオ義兄さんはとんでもない事を言い残して神殿に向かって走っていった。


確かにマリアちゃんの様子がちょっと変なんだけど・・・


『ゴゴゴゴゴゴゴゴオゴ』


なんか物凄い圧力をマリアちゃんから感じる。


「ダルゥ・・・

 二人っきりだね・・・」


「そ、そうだね・・・」



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