第90話

「ヒナタだったかの?

 主、妾に付いてくれば命だけは助かるぞ?」


 金色のドラゴンが欠伸をしながら興味もなさそうに言っている。


あまかったと思う。

街やここに来るまでに吸血鬼たちを何体も倒したからもっとやれると思っていたし、

マユミやカーツウェルさんがあっさりあの巨人にやられてしまうなんて考えもしなかった。


「みんながここからから逃げれるならついていくわ」

「ヒナタさん!

 それはだめです!!」


 シンジが私にしがみついて制止するけど、周りを見回すと吸血鬼が100体はいるし、巨大なドラゴンに4本腕の巨人に今は姿が見えないけど蛭を操る吸血鬼・・・


このままではみんな死んでしまうのは間違いない。


「それは無理じゃの」


「なぜ?

 クロスの命令なんでしょ?

 あの子なら私の仲間を殺すようなことしたら怒るんじゃないかな?

 みんなを助けるなら付いていくわ」


「ふむ、妾はルゥイの命令で来ておるのじゃが?

 まぁ、もしあやつの妹が怒り狂って妾に戦いを挑むというなら受けて立つまでじゃ

 それに人間ごときが妾と取引だと?

 うぬぼれるでないわ」

 

ルゥイ?

あれ? クロスじゃないの?

ルゥイって不滅の魔王のことだよね。

会ったこともないんだけど。


「じゃあ、ルゥイが怒るじゃないかな?」

 

「ふむ、あやつが怒ると面倒じゃの。

 じゃが、もうスペルガンに喰われておるし、もう手遅れか」


え?

喰われてる?


「きゃああああああああああ!」

 

マユミの悲鳴!

振り返ると巨人はマユミの腕を引きちぎり、ポリポリと喰いはじめた。


「私は大丈夫です!

 早くマユミを助けに言ってください!」


「マユミを放せぇ!」


 シンジの杖が輝き出すと吸血鬼達が少し離れたので、巨人に向かって左右にフェイントを入れながら突進する。

槍先に炎の力を纏わせて巨人の首を狙ったが横から突然現れた巨大な拳に殴り飛ばされた。


「ぐっ! 今の何?」


巨人は全く動いてなかったから別の敵がいるの?


「スペルガン。

 妾はその人間をクロスの所に連れていくようにいわれておるのじゃがの?」


「手加減した。

 そこの人間ももらっていくぞ」


シンジの近くに巨大な手が表れて体をつかむと『バキバキ』と骨が折れる音が聞こえる。

そして口から血を吐きながらぐったりとするシンジ・・・


このままだとみんな殺されてしまう。

みんなを助けないと!


恐怖のせいなのか、それとも頭が打ったためなのか、ガクガクと体が震えているが何とか立ち上がって槍を巨人に向けると、シンジの頭を齧ろうとしていた巨人が私を見てニヤリと嗤った。


万が一にも勝つことはできない

そんな感覚が沸きだしてくる。

『絶望』ってこんな感じなのかな・・・


いや、だめ!

私が頑張らないと!

諦めたら終わり!

強い意志をもたないとだめ!

私はどんな苦労や困難にも絶対にくじけないから!


自分を奮い立たせながら、槍を構えて巨人に向かって走り出すと、だんだん体の痛みが消えていく。

一歩進むごとに体の中から不思議と力が湧いてくる。

私の中から湧きだす力が槍に流れていき白く輝きだした。


巨人はなぜか慌ててみんなを放り投げて、4つの手のひらを私のほうに向けている。


「馬鹿な! 貴様その槍は!」


槍が巨人に当たると僅かに抵抗を感じたが、そのまま巨大な体を突き破った

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