第28話
メイド長「こんにちは。 ミリアさん」
金色の生きた豚を乗せた大きな皿を台車を押しながら、メイド長が魔王城の塔の最上階に軟禁されているミリアを訪れた。
ミリア「こんにちは。 それは私の食事かしら?」
ミリアは皿の上で眠っている金色の豚に近づくと、豚から漂う芳醇な血の匂いにゴクリと唾を飲み込んだ。
わずかに息遣いが荒い。
メイド長「ええ、どうぞ、お吸いになって。」
メイド長の許可がおりると、ミリアは貪るように金の豚に噛みつき、血を吸い始めた。
豚はピクリと反応したが、皿の上で眠り続けている。
・・・
・・・
・・・
メイド長「吸血村から購入している、ボールドさん用の最高級金豚です。 かなりお高い豚ですからゆっくりと・・・ あら、もう、吸い終わったの?」
メイド長がティーポットから二人分のお茶を入れたあと、ミリアの方を見ると、丸々と太っていた豚が、骨と皮だけになって皿の上で息絶えていた。
ミリア「スーちゃん! ってここにはいないか」
ミリアがきょろきょろと周りを見たが、すぐに視線をメイド長に向けた。
メイド長「あなたのペットは後で連れてきます。
あれは、今の魔王様にお見せするにはあまりよくありませんから」
ミリア「お願いするわ。 しかし豚の血がこんなに美味しいなんて驚きだわ」
口の周りに付いた豚の血をナプキンで拭いたあと、メイド長が差し出したカップを取って口に当てる。
メイド長「若い処女の生き血に匹敵するらしいですね。」
ミリア「それで、メイド長自ら、なんの御用でしょうか?」
メイド長「単刀直入に言います。 国には帰らず、このまま魔王城で働いてください。」
ミリア「え!? てっきり、黙ってこのままこの国から出て行けと言われると思ってたわ・・・
でも、どうしてここで働いてほしいわけなの」
ミリアは新しく同僚になった羊のメイド達や黒バニーなど、城で働く人達からあまり好ましく思われていないと感じていたので、魔王以外から引き止めされるとは思っていなかった。
メイド長「魔王様の為です。
私としては女神の元使徒である、あなたのことははっきり言って嫌いですが、魔王様には楽しくすごしていただく必要があります。
それが、この国の繁栄につながるのですから。」
ミリア「この国の繁栄?」
メイド長「待遇に関しては、この居室で生活する事を認めます。
さらに生活面では先ほどの金の豚を週に1回提供し、嫌がらせがありましたら、公正に調査をして対処する事をお約束します。」
ミリア「毎週・・・」
ミリアはキョロキョロと貴賓室のような部屋中を見回した後、じっと骨と皮になった豚をみる。
笑みがこぼれるのを必死に我慢しているミリアを見て、メイド長は『堕ちた』と確信した。
・・・
・・・
・・・
羊のメイド「メイド長! 賊が正門を突破して、まっすぐこの塔に向かってきています!」
メイド長「賊ですか?」
メイド長は首をかしげて、報告に来た羊のメイドに問いかける。
羊のメイド「はい。 強力な聖属性装備を確認しました。 おそらくローフル陣営の勇者達ではないかと・・・」
メイド長「勇者ですか・・・
まさか、ミリアさんを攫いに来た・・・
そんなことは、ないですよね?」
お茶をおいしそうに飲むミリアをちらっと見ると、ちがうと首を横に振った
ミリア「停戦の使節団の人達は私が軟禁されたことは知っていると思う。
でも、私のような下位の元ヴァルキリーを勇者たちが救出に来るなんて考えられないわ」
メイド長「そう・・・ですか・・・
賊は親衛隊総出で押さえるよう伝えてください。
使節団の人達は全員捕縛。
ワイアットさんのお相手は黒バニーさん達にお願いしてください。」
メイド長が指示を出すと、羊のメイドは頭を下げて退室していった。
鳥の衛兵さん「宰相様ぁ! セイント・ラファがぁ! ラファがぁぁああ!!」
今度は鳥の衛兵さんが真っ青になって、メイド長に向かって飛んできた。
メイド長「セイント・ラファさんがどうかしたのですか?」
鳥の衛兵さん「光翼で飛行しながら、魔王城に真っすぐ向かってるピー!!」
メイド長「あらあら、そうですねぇ、ゴルドラさんにセイント・ラファさんを迎え撃つよう伝えてください。」
鳥の衛兵さんに指示を出した後、メイド長はお茶のおかわりを自分で入れているミリアさんのほうを見てニッコリと笑う。
ミリア「あの人・・・
ものすごく残酷で潔癖な人だから、裏切者として私をサツガイしに来てるんだと思うわ。」
メイド長「あなたをサツガイですか?」
ミリア「吸血鬼にされたので国に帰れなくなったって、ワイアットさんがラファに教えたんだと思うわ。」
メイド長「国に帰ったらサツガイされるのに、帰ると魔王様に伝えたのですか?」
ミリア「ワイアットさんに助けてくれるようにお願いしたから、すぐには処刑されないとは思うわ」
メイド長「なぜ、処刑されるかもしれないのに国に帰ろうとしたのですか?」
ミリア「裏切ったと思われたら、お母さんに類が及ぶって教えてもらったから。
国に帰ったらお母さんを連れてこの国に逃げ込むつもりだったわ」
メイド長「うふふ。 なぜ、この国に戻るのですか?」
ミリア「ルゥイが面倒見てくれるから・・・かな?」
メイド長「うふふふふふふふふふふふふふふふふ。 この部屋と金の豚は無しで」
ミリア「あら、約束は守ってもらうわ。
後、ルゥイにお願いするつもりだったけど、お母さんをこの国に連れてきて欲しいわね。」
メイド長「うふふふふふふふふふふふふふふふふ」
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