第26話

 どこの世界にも話が通じない奴がいる。

目の前にいる頭のいたるところにネジ生えてる、フランケンみたいな厳ついおっさんもその中の一人みたいだ。


 あの後保安隊という警察のような人たちが一杯やって来て焼き魚事件の事情を教えて欲しいという任意同行に付き合った。


 事情をイオリが説明していると、生き残りのアンキモ族の証言で加害者は俺達と言うことになり取り調べが始まった。

イオリは激怒しているが、いつも影のように隠れて護衛をしている人たちがいない様なので何もできないようだ。


「あー うー えー ・・・ 貴方は大量破壊魔法で市民の多くに危害を加えましたね?」


「やってない」


「相手はアンキモ族ですよ! 危害を加えられたのはこっちです!」


 頭のネジをクルクルと手で回しながら体を前後左右に揺らして「あー、あー」と唸っている


このおっさん。頭大丈夫か?


「あー うー 容疑を認めたと『カキカキ』」


 ちょっと待て。 いつ認めた?


「やってない」


 改めて、強めに容疑を否定するが、体を左右に激しく揺らしながら、頭のネジをクルクル回している姿を見ると、言葉が通じているか激しく不安になる。


「ちょと! いつ私たち認めたんですか!

それより、お城に行ってセキュアさん呼んできてください!」


「あー うー えー おー ・・・ 頭は大丈夫か?」


「プッ」


 いかん、酷い『おまえが言うか?』 発言だったので思わず笑ってしまった。

イオリがチラっとこっちを見たので、慌ててプイっと横を向く。

イオリは怒るとどす黒いオーラが出まくるので、ちょっと怖いんだよな。


「あなたに言われたくありません!」


「んー むー あー ・・・

保安長官はお忙しい。 子供の行き過ぎた暴走位で呼べる訳がない」


「こっ・・・ あはははは 子供ですかぁ。 私の名前ちゃんと調べました?」


「あー うー はぁ・・・ イオリ・オリベッティは未婚の成人、子供はいない・・。

まずは本当の名前を教えなさい。」


「違う、本物のイオリ」


 また酷い子供扱いか。

さすがにかわいそうだから、フォローを入れておく。

それに、こういうときに大人と言ってくれる存在はポイントが高いからな。


『つまり、見返りを期待しているのデスネ』


うむ。

リップサービス位で大きなリターンを得る可能性があるから、出し惜しみはしないのだよ。


『すがすがしいデス』


 ふふ、長い間底辺のリーマンとして生きてきたのだ。

体に染みついた渡世術を否定した生き方はできないな。


「ルゥイ様・・・うれしいです。」


見ろ。 この反応を!

もう既にイオリの財布は既に我が手中にあるのと同然ではないか!


『そうデスネ』


「私、魔王様の身の回りのお世話をしている白羊族ですよ。

お城に行って、確認位した方がいいんじゃないですか?」


 イオリがドスの利いた僅かに低い声で警告したが、ネジ保安官は全く気にしていないようで、体を揺らしながら、ネジをくるくる回している。


相棒、あのネジは一体なんなんだ?


『記録にないデス。 ホムンクルスの一種だと思われますデス』


そうか、フランケンシュタインみたいな人造人間と言うことか。


「あー うー えー ・・・

 白羊族の娘であろうが、誰だろうが、街の治安を乱すような行為は認められない。 親御さんにはきっちり罪を償ってもらうと伝える。」


 ただ、頭がおかしい感じだけど、言ってることはまともだな。

融通の利かない、頑固な保安官さんということか。


嫌いじゃあない。


「あはははは じゃあ魔王様でも罪を償ってもらうんですかぁ?」


「あー うー 無論」


「魔王様! 聞きました! 罪を償うんですって! 不敬罪は極刑ですよね!」


 もの凄く腹黒い感じの悪い笑顔で同意を求められても困る。

真面目に仕事している人を罰するなんておかしいから、俺的には絶対に不可なのだが・・・ 


「フラケンさん! 大変です!」


 イオリとネジ頭のおっさんの言い合いを横で眺めていると、若い保安官のお兄さんがバンと扉を開けて、中に入ってきた。


「あー うー どうした?」


「魔王城から戒厳令が出ました。 街への出入りはすべて禁止するとのことです。

 我々も完全武装で市民を守るようにとの命令がありました」


「あー うー 分かった。

あー この子供達を地下1階の牢屋に入れておけ」


「地下1階? ああ、なるほど。

アンキモ族しか被害は無いですし、もう、この子達は解放してあげたらどうですか?」


「んー あーー 街中で強力な範囲攻撃魔法を使ったのだ、子供だからと言って許せる訳がない。 それに戒厳令がでている。」


「なるほど。 了解しました!」


 牢屋って・・・

 いいかげん勘弁してほしいと思いつつ、イオリを見ると、もう何人も人を殺したのではないかと思うほどのどす黒い笑顔でフラケン保安官を睨んでいた。


 若い保安官に連れられて、取り調べ室から牢屋へ移動中に窓から外の様子が見えた。


 かなり遠くの空に、横向に幾つもの雷光が走ったり、雷と違う閃光が発生している。


相棒、あれは・・・


『何かが戦っているようデスネ』


そう言えばこの前も街の外で戦いがあったな。

この街は結構危険なんだ。


「大丈夫だよ。

この街の結界は勇者でも突破は難しいから」


 保安官のお兄さんが優しく頭を撫でるが、これはノーサンキュウである。

とは言え、今はこの美少女ボディだから、仕方がないので黙っておく。


案内された所は、普通の部屋だった。

てっきり牢屋にぶち込まれるという話だったのでびっくりだ。


「牢屋じゃないんですね」


 イオリも驚いているようだ。


「地下1階に牢屋なんて無いですよ。 安全なこの部屋に戒厳令が解除されるまで入れておけと言うことです。」


「へぇ。」


 イオリは不快そうにお兄さんを睨んでいるが、どす黒いオーラは無くなっている。


「強力な魔法覚えたら使いたくなったのかもしれないけど、次は本当に牢屋に入れる事になるからね。」


 お兄さんは部屋に鍵もかけずに出て行った。


 魔法使えないんだけど・・・

そもそもパンツの攻撃ってイオリが説明しても信じてもらえないし・・・


あのアンキモ族がもう一度襲ってきたら、間違いなく再発する案件なのだが・・・


まぁ、イオリと相談するか。


などと考えていると、あちらこちらから轟音と地響きがした。


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