第25話

「イオリ」


「はい、何でしょうか?」


「これ、使え、ない」


 喉が乾いたのでジュースを買おうと思い、屋台でこの前もらった硬貨を渡したら、不思議そうな顔をされ、突っ返された。

どうやら、見たことのない硬貨らしい。


「あっ! まさかこれを使おうとしたのですか?」

 

 イオリは何をいっているのだ?

お金は買い物に使うものだろう。

とりあえず、コクリと頷く。


「あはははは・・・ 銀行に行きましょうか」

 なぜか生温かい目で見られながら銀行に連れて行かれた。


 相棒、銀行なんてあるんだな。

ところで元人格ちゃんの口座ってあるの?


『記録に無いデス』


 そうなのか?

普通に必要だと思うんだけど。


『必要なものはその場で奪ってますデス』


それって強盗じゃね?

ああ、でも、そんなこと言ってたな。

強奪されたら不平不満とか溜まってるじゃない?

というか、治安が良さそうなこの町で強盗なんてしたら、タイーホされると思うんだが?

 

『不明デス』


 この世界の貨幣制度が気になるので教えてほしいな。


『様々な金属で硬貨を作っているデス。 この国に紙幣は無いデス』


 紙幣はないのか。

つまり金属の価値と重さで通貨としての価値が決まるんだろうな。


 ジュースが買えなかった事とあの生温かい目から察するに、お小遣いにもらった硬貨って結構高額なものかもしれないな。

仕方がないので銀行にいって両替してもらうことにする。

 イオリが入るとすぐに行員が現れて、ぺこぺことイオリに頭を下げていた。

そして豪華な部屋に案内され、イオリが丁寧な接客を受けた後、両替を依頼する。


「口座は作らないのですか?」


「いらない」


 元人格ちゃんが強盗を繰り返していたのなら、ちょっとお金を預けるのは止めておこう。

被害者への賠償に充てられたらたまらないからな。


「えーっと、預かりましょうか?」


「うむ」

 イオリ名義なら大丈夫だろう。

あと、イオリは銀行員さんにお願いして、色々な硬貨を見せてくれた。


貰った硬貨はオリハルコンらしく串焼き換算で約1000000本(10進数)分らしい。


串焼き一本100円として、1億円かよ・・・


街で買い食いも出来ないような硬貨は困るので、1円玉位の大きさの、銅貨と鉄貨を16枚づつ貰った。


 銀行を出た後、魔法の道具屋さんに行って、見た目の容量より8倍は入る鞄を買って貰った後、ラグジュアリーなショップ向う途中で女性の悲鳴が聞こえた。


「ひぃいいい、止めてぇ! 近寄らないでぇ!」



 若い女性の悲鳴が聞こえた方に向かってはしっていく、勇気ある通行人達。


民度高いな。


特に若いお兄ちゃん達が勢いよく走りだしたので、野次馬根性の赴くまま後をおいかける。


 犯行現場に着くと、頭に先端が光る物体をぶら下げた、身長が膝ぐらいのかなり小さい魚人達が2メートルはあるかなり大柄の女性を襲っていた。


 そして、魚人達の一部と男性の通行人との間でバトルが始まっていた。

魔法も飛び交ってるし、剣や棍棒なんかでぶん殴る本格的な乱闘だけど、魚人の数が多いので女性を助けるのは無理そうだ。


「「「アーンコゥw!」」」


「ひぃぃ、勘弁してぇ」

 

 魚人達は大きな女性を取り押さえながら一匹だけ股をこじ開けて股間に頭をつっこもうとしている。

 

「アーンコゥコゥコゥ。

お前の卵は全部俺の物だアーン」


 は?

何いってるんだ。この魚人は?


「うわぁぁアンキモ族の雄だぁ・・・。 ルゥイさま・・・ん逃げましょう。」


 周り見ると、女性の野次馬はこの魚人をみたとたん、Uターンして逃げ出している。


 俺はこういう危険を察知したときの初動の速さには自身があるのだが、股間を必死にガードする大きな女性に気になってしまい、遅れてしまった。


 つまり、俺とイオリは取り囲まれてしまったようだ。

俺の腕に抱きつきながら、イオリは股をぎゅっと閉めている。


 しかし、こいつ、本当に胸がないな・・・


「初潮も始まってなさそうな小便臭いガキどもだアーン」

「卵持ってないメスに興味ないアーン」


 魚人達がひそひそと失礼な事を話し合ってる。

そして、イオリからどす黒いオーラを感じる。


こいつは銀行員さんがペコペコと頭を下げてVIPルームに案内されるくらいだから、かなりの金持ちだろう。


つまり『金持ちには恩を売るべし』という強かな庶民の基本的な行動原理を発動させるべき相手!


『最低デスネ』


黙らっしゃい!

見返りもなく動くなんてナンセンスなのだよ。


「やめろ」


「アーーン?」


 俺がイオリの前に立ち、睨みつけると、いやらしさ目つきで俺のお腹のあたりじろじろと見始めた。


「アーーーンコゥ?。 小便臭い小娘だが、卵持ってるか確かめるアーン!」


魚人が姿消えると同時に股間から突き上げるような衝撃が走った瞬間、『ゴーン』という轟音と共に辺りが閃光で真っ白になった。


・・・

・・・

・・・


「うわぁ・・・パンツの貞操防衛機能が発動したようですね」


 足元に落ちている手足の生えた焼き魚を蹴り飛ばした後、イオリが腕に抱きついてきた。


ぶっちゃけ、固い肋骨の感触しかないので微妙ではあるが、黙っておこう。

周りを見るといたるところに手足の生えた焼き魚が落ちていた。


貞操パンツ、容赦なさすぎだな。







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