第11話

 私の名前はイオリ

魔王様のお世話をする白羊族の中で服飾を担当する、ちょぴり背が低めのメイドです。


 私の工房にメイド長がいきなり表れて、作業台の上に木箱を置きました。

私は何事かと思いながら、蓋を開けると中には『天女の羽衣』に『オリベの裁縫セット』が入っていました。


 これは間違いなく『特急の仕立依頼』


 私はこの国で一、二を争う裁縫士と言われています。

そんな私でもこれほどの激レアな素材とアイテムを使用した製作依頼は初めてです。

腕が鳴ります。

そして、とてもワクワクしましたが・・・


 メイド長の依頼は『絶対不可侵の貞操パンツ』の製作。


正直、ちょっとがっかりしました。

できれば『七聖のサッシュ』とか『傾国のトーガ』とか作り甲斐のあるものが良かったです。

 ありえないほど早く仕立てることができる『オリベの裁縫セット』があれば1年くらいで作れるでしょうか。


え、6時間で作れ?

しかも2枚!?


無茶ぶりにも限度というものがあります。


 他を当たってくださいと言うと、メイド長に裁縫道具一式を持たされて鉄処女宮の地下にある、『精神と時の玄室』に放り込まれました。


『精神と時の玄室』の中は外界と比べてものすごく時間の流れが早くなります。

つまりこの中で作れということですか。

確かこの部屋のからくりを起動させる続けるには膨大な魔力を注ぎ続ける必要があります。

どうやら魔術に長けた同僚達が起動させたようです。

かわいそうに、魔力枯渇はかなりきついのに強要されたようです。


 私は、「一刻も早く」という同僚たち悲痛な訴えを背に受けながら『精神と時の玄室』の中で、きっちり1年掛けて2枚作成しました。

そして、外に出ると6時間経過していましたので、すべてメイド長の思惑通りとなりました。


 そんな私と同僚たちの血と汗と涙の結晶のような神級パンツをいったいどうするのかと思ったら、なんと魔王様に履かせるそうです。

貞操なんて守る必要もない、いえ、守るべき貞操なんて、とっくの昔に失っている魔王様に履かすなんて無意味だと思うのですが?

私が不満そうにしていると、メイド長様は特別だと言って、眠っている魔王様のお股を広げて純潔の証を見せてくれました。


そっくりさんですか?

え、本物!?


 メイド長もよくわからない様ですが、ある種の若返りが行われた可能性があるそうです。

単に魔法などの方法で純潔の証を再生しただけなら、生娘に煩いボールド将軍の鼻をごまかすことは出来ないそうで、魂魄レベルで若返ったと推察できるそうです。


 なんか、ものすごくずるい気がするのですが、魔王様に神級パンツを履かせ、封印を行いました。

解除ができるのは私かメイド長だけです。


 改めてスヤスヤと眠る魔王様を見ます。

寝ている時だけは、世に並ぶものなしの美姫と言われるだけの事はあり、近寄り難い尊いオーラを感じます。

まぁ、神級パンツを履く資格があるかしっかり近づいて確認しましたけどね。



▽●▽●▽●▽●▽●



 私は魔王様の居室の隣にある隠し部屋にいます。

居室のベットには手紙を読む魔王様と吸血鬼がスヤスヤと眠っていました。

これから夜の営みが始まるのでしょうか?

神級パンツを履かせたばかりなの、もう脱いじゃうんですね。

え、血を吸うだけですか?

そんなはずは無いでしょう。


 そういえば、張型とかその他諸々の道具が無かったです。

あるのは増血効果のある天然由来のお薬を作る材料です。


 メイド長とアレクサ様の話を聞いていると、どうやら本当に吸血行為だけのようです。

確かにちゃんとパンツを脱いでやらないと、あの吸血鬼の女のひとは惨い目にあいますから。


 同僚達が魔王様の居室から出て行くと吸血鬼の女は魔王様を押し倒しました。

直ぐにガブリといくと思ったのですが、吸血鬼さんは何やら怒っているようです。


アレクサ「魔王様、ちょっと優しすぎ・・・」

 アレクサ様はやたら舌打ちを繰り返しものすごく不機嫌そうですが、娘さんが必死になだめています。


魔王「我慢、だめ、きて」

 なぜか血をすうことを躊躇っている吸血鬼さんを魔王様はとても悲しそうな顔で見つめています。


魔王「ミリア、いいの、吸って」

 そして、吸血鬼さんをぎゅっと抱きしめました。


この時点でメイド長とアレクサ様からただならぬ怒気があふれ出したので私はさり気なくお二方から距離を取ります。


あの吸血鬼はミリアというのですか。


魔王「いたッ・・・、入った、好きに、して、いいよ」

 ほんのり赤くなった顔にうるんだ瞳。

そしてこのセリフ、この人本当にあの魔王様なのでしょうか?

まったくの別人だと思うのですが・・・

同僚から、ざわざわと驚きと疑問の声が上がっています。


アレクサ「キィィィ! 入ったって何が入ったの! この女、今すぐに引き『ドゴーーーン!!』・・・」

メイド長が机を思いっきり叩いた衝撃で机は粉砕され、部屋が大きく揺れました。

これには発狂しかけたアレクサ様も一気に冷静になり、ギギギとメイド長の方に首を向けています。


冥土長「みなさん。 落ち着いてください。 これはただの吸血行為「アッアッーーーー!」ですよ・・・ね?」

 どうやら、血を吸い始めたようですが、同僚からは魔王様の悦声を聞いて、ひそひそ話が出ています。


 アレクサ様とメイド長もじっと、吸血鬼に抱きつきながら悦声を上げている魔王様を見ています。


わたし、そろそろ工房に帰りたいな・・・


魔王「死にそう、でも・・・、良かった」

 いやいや、魔王様、本当に死にそうなくらい真っ青な顔してますよ。

いくら死なないと言っても辛くないですか?

ああ、でも痛くて苦しい方が良いんでしたね。

ややこしいお方です。


 あと、魔王様に「もう少しすっていいかな?」とおかわりを要求したミリアさん、あなた、このままだと死にますよ?

そして私たちも、とばっちりを思いっきり受けそうです。


 メイド長を見ると、真珠のような色の髪の毛がだんだん、赤くなってきています。

このままメイド長の怒りが蓄積すると、羊の皮が剥がれ落ちて紅い狼になります。

そうなると、私たちにはどうすることもできません。

アレクサ様もメイド長の異変に気づいたようで、少し距離を開けています。

ああ、でもミリアさんは魔王様を抱き寄せて、なんども噛みついてます。


魔王「何度も、抜いたり、刺したり、ダメェ。」


 ミリアさんがっつかないで下さい。 そして魔王様、なんでこんないやらしい言い方するのですか!

普通、「何度もかまないで!」です!


冥土長「は、ははは・・・」

メイド長の髪の毛が段々赤くなってきて、かなり危険な状態ですが、深呼吸をなんども行って、必死に落ち着こうとしているようです。


メイド長は我慢強い分、キレると手が付けれなくなります。

このままではとても恐ろしい事になります。


アレクサ「ゴ、ゴーランド。 落ち着こう な? ぐほぉ!!」

 落ち着かせようとしたアレクサ様がメイド長にぶん殴られて、壁に激突。

すこし部屋が揺れましたね。


魔王「あん! ミリア、止めて」

 吸血の後、魔王様とミリアさんは『きゃっきゃうふふ』状態になりましたが、こちらの部屋はぶん殴られたアレクサ様とメイド長の殴り合いが始まり、同僚と黒バニーたちが睨み合う戦場と化しています。

まぁ、メイド長が10回殴って、アレクサ様が一発入れるぐらいなのですが、八つ当たりはだめだと思います。


ただのここはもう普通の裁縫士が居ていい場所では無くなったので、そっと隠し部屋から脱出して工房へ逃げ込みました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る