第9話
前略
視界が真っ白になり、また死んだのかと思ったけど違ったみたいだな。
エッチぽい事をすると死んでしまうことが続いたので、「またか!」と思ったのだが心配のしすぎだったのかもしれないな。
でも今は血を吸われすぎたせいなのか、冷汗がでて、体に力が入らず、ちょっと息苦しい。
これって、失血性のショック状態だと思う。
この美少女ボディは魔王だなんだと相棒や周りの人達に言われているわりには、実は死んだら蘇る事と、一つだけやたら強力そうなチートスキルがなければ、見た目通りの普通の女の子レベルの身体能力ではないだろうか。
視界は徐々に回復してくると、下からメイド長の顔を見上げていた。
どうやらメイド長にお姫様抱っこされているようだ。
「魔王様。 危ないところでした。 こちらをお飲みください。」
横にいた羊のメイドさんが木製のコップを口につけて、少し苦めの液体を少しづつ傾けて飲ましてくれる。
「ありがと、ミリア、どこ?」
とりあえず、ミリアさんの安否確認のためを頭を動かして周りをみまわすと、メイド長の肩を掴む力が強くなり少し痛くなった。
何かあったのかと思って、メイド長を見るとこちらを見ながら微笑んでる。
なぜか怒っているような気がするけど、気のせいかな。
いあ、ここで気のせいだと考えることは、いわゆる鈍感キャラへの第一歩だ。
見た目はバリバリの思春期美少女ボディだから、そう、思春期だからあらゆることに敏感に反応すべきだろう。
「怒って、いるの?」
ここは心配で悲しそうな顔を意識して作りつつ、力が入らない腕を頑張って動かしてメイド長さんの頬を触ってみる。
ちょうどいい感じの高さの鏡があったので、ちらっと見てみると、この美少女ボディ、なかなか『グッ』とくるいい表情するじゃないか。
もうすこし成長したら嫁にしたくなるレベルである。
「お、お、怒ってなど・・・
あ、あの女はベットで眠っています。 すこし火傷をしたようですが、回復を始めているようですので、ご安心ください。」
少し顔が赤くなったメイド長の視線の先を見るとミリアさんが眠っていた。
体のあちこちが焦げているが、ものすごい勢いで回復を始めているのがわかる。
「何が、あった?」
「侵入者対策のトラップが作動したようです。」
トラップなのか、すごくまぶしかったからなぁ。 いわゆる閃光弾みたいなものか。
この美少女ボディには特に怪我は無いけど、ミリアさんは運が悪いな。
「わかった」
ふと気づいたのだが、このメイド長さん。
美少女ボディは不死身だと知っているのに、「危ないところでした。」と言って心配してくれたな。
なんかちょっとうれしい気がする。
あ、そういえば、回復魔法という便利な物があるのに使ってくれないのかな?
『魔法耐性は∞デス
回復魔法の恩恵をあまり受けることは出来ないデス』
おお、相棒・・・ やっと反応してくれたか。
質問だけど、魔法耐性ってどこまで有効なの?
例えば魔法で炎を作って攻撃されたら火傷するわけ?
『火傷しますデス』
じゃぁ耐性が聞く範囲は?
『呪術系、状態異常系魔法は効果がないデス』
この前、100年練習したら転移の魔法使えるって言ってたけど、自分で使う分には大丈夫なの?
例えば自分で回復魔法使ってこの体を直す場合はOKとか?
『YESデス』
なるほど、ちょっと魔法とか勉強したほうが良いみたいだな。
「魔王様、やはり死ぬのは嫌でございますか?」
「嫌・・・」
突然質問してきたメイド長さんを見ると、にたぁっと笑っている。
さっきのほんのり恥じらう乙女のように赤くなった顔はどこかに消えてしまったようで、すこし少し目が据わるった感じの怖い顔をしている。
これはひょっとして元人格ちゃんじゃないって疑われていて試されたのか?
ボールドの時に使った力と右手に出てきた小剣で、うまく本物認定してもらったと思ったんだけど疑われていたのか。
今までの話から元人格ちゃんはむしろ悦んで死にまくってたみたいだから、死ぬのは嫌だという意味の発言はありえないからな。
メイド長さんの顔をジーっと見たあと、何か思案中のように上を向きながら目を閉じている。
ひょっとしたら偽物魔王の香草あえとかになるのかな、死んでも蘇るけど痛いのは嫌だなぁ。
「私の名前は分かりますか?」
知らんな。
どうしようか・・・
『メリー・ゴーランドデスネ』
悪いな相棒。
「知らない」
やっぱり嘘とか隠し事とか苦手なんだよね。
だから知らないって伝える事にする。
『了解デス』
元友人によると表情や仕草でモロバレらしい。
三食昼寝と夜伽付きは無理になったか・・・
まぁ、せっかくの異世界だし、冒険者でお金を稼ぎつつ旅に出るというのありかもしれないな。
いや、むしろそちらのほうがいいかもしれない。
できればミリアさんと人間の国にこっそり移動、あ、でもミリアさん吸血鬼だよね。
見つかったらやばいか。
「魔王様、少し場所を変えてお話をしましょう」
「分かった」
羊のメイド長に連れて行かれた部屋は偉い人の執務室みたいで、威圧感の有る大きい机と革製ソファとテーブル、本棚には革装丁の本がびっしりと並んでいた。
机の上に山積みされた付箋紙が一杯の書類を見ると、この部屋の主はバリバリ働いているなぁと感じた。
なぁ相棒。 この部屋は元人格ちゃんが使ってた部屋なの?
『違うデス』
メイド長はソファに座ると美少女ボディを膝の上に座らせ、後ろからぎゅっとだきしめられた。
お人形さんみたいに扱われてるな。
まぁでも、いい匂いがするし、背中に当たるメイド長のお胸様の感触を堪能しようと思う。
EXILEのように背中を押し付けながらクルクル体を動かす。
まぁ、軽いセクハラである。
「ま、魔王様・・・ お戯れを・・・」
ん? 声がすごく色っぽいな、これぐらいでエッチな気持ちになるの?
「アレクサ様! 勝手に入れれては困ります!」
バーンと扉が開くとアレクサが羊のメイドを引きずりながらズンズンと入ってきて片膝ついて頭を下げたあと、こちらをジッとみている。
ぶっちゃけこの女は苦手だ、どうしても背骨を抱き折られことが頭に浮かんでムカムカするのだが、ご立派なお胸様をみるとムラムラして怒りが萎えてしまう。
「申し訳ありませんでした!!!
魔王様の痛覚耐性が下がっていることに気づきませんでした。
どうかお許しください」
ふむ、何でかわからないけど、痛覚耐性が無くなっていることがばれたようだ。
でも、こうやって謝っているということは、料理の食材にされることは無いということでいいのかな。
「もういい、帰って、休め」
謝ったし、ムカつくという気持ちよりも、怖いという気持ちの方が強かったから、もうパフパフ中に背骨折るとかやらないなら許してやろう。
それより産休中なのになんで帰ってきたんだ?
とりあえず、ここは頭を撫でつつ、うさ耳の感触を堪能するというのが鉄板の対応だろう。
メイド長の膝の上から降りて、アレクサに近づこうとすると、足がもつれてしまった。
「ア・・・「魔王様!」」
アレクサは前のめりで倒れる美少女ボディをご立派なお胸様で受け止めると、ぎゅっと抱きしめられた。
これはいわゆるラッキーすけべというやつか。
この美少女ボディ、いい仕事するな! うへへへへ。
あ、でも、これってまた背骨が・・・いや、さすがにもう折らないよね?
本当はぱふぱふしたいところだけど、後ろから刺すような視線を感じるので、名残惜しいけど離れることにする。
アレクサから離れると、後ろから幼子のように「高い高い」状態で持ち上げられて、メイド長の膝の上に座らされた。
「魔王様は全て記憶が消えてしまわれてのですか?」
「解らない」
全てというか元々知らないから。
でも、相棒が教えてくれるから、全部消えてると断言するのはおかしいような気がする。
こういう時は「わからん」が正解だろう
「私やアレクサの事は覚えておりますか?」
覚えているというか、そもそも知らないので首を横に振る。
「ゴーランド、どいうこと?」
「ボーランド将軍も定期的に古い記憶を消されています。
完全記憶・・・つまり時間とともに記憶を忘れることが出来ない不老不死の方は記憶の整理されるのですよ」
おーい、相棒。 この美少女ボディは完全記憶なんてすごいスキルあるの?
『ありましたデス』
ありえねぇ、過去形かよ・・・
完全記憶があれば魔法とか覚えるの早そうなのに、もったいない・・・
「うわぁ、あの禿げ、風呂に入ってる私を覗いて、これは永遠にわすれないって言ってたけど、本当に忘れないだ・・・ あ、コホン
魔王様も同じことをなされたということですか?」
「記憶に、無い」
「記憶を全て消したということですか・・・」
「ええと、ゴーランドぉ、どうしよう・・・」
メイド長はキザ眼鏡風にクィっと中指で眼鏡を直すと、目をつぶって上を向きながら何やら思案しはじめた。
アレクサもなんか困ったようにおろおろしてる。
「むぅ、舞おう、止めて、どこかで暮らす」
「それはダメです。」
「どうして?」
「簡単に言うと、他の魔王がやってきて、私たちと戦争になるからです。」
むぅ、戦争を知らない平和な令和日本からやってきた俺としては、血なまぐさい話は嫌いである。
そして、戦争の当事者になるなんてまっぴらごめんである。
とはいえ、この美少女ボディが魔王をやめると戦争になるという根拠は気になるので、聞いてみる。
「戦争?」
「そうですね、まず、ルゥイ様お呼びして良いですか?」
「良い」
「ルゥイ様以外の魔王は単一種族の長です」
オーク族の魔王とか巨人族の魔王とかそんな感じか。
「負けたら、奴隷、?」
パターン的には支配している種族以外は追い出すか、奴隷にしそうだよな。
「奴隷ならましなほうです。 龍王、黒狼王、鬼人王などは我々を食料にするでしょう」
羊と兎だよな、食物連鎖ではバリバリの捕食される側だから、戦うこと自体嫌だろうな。
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