第6話

昼食タイム。

目の前には普通のパンと果物、野菜のサラダ、白身魚のフライがおいてある。


 相棒、まともな食事あるやん。

普通に美味しいし。

昨日の食事はなんだったの?

嫌がらせなの?

今からあの豚コック殴りにいこうかな!


『人間用の食事デスネ』


うむ。大変結構。


 さて、目の前には貫頭衣を着たミリアさんがパンをちぎってボソボソと食べている。

時々「うぅぅ」と呻くように泣き出すので少々居心地が悪い。


 あのあと、スライムのせいで悪臭を放っていたミリアさんと一緒に風呂に入ろうとした俺の前に羊のメイド長が立ちはだかった。


彼女の話の内容を纏めると、

・俺がミリアさんと過剰な接触をするせいで、黒バニー達を初め、羊のメイドから城内の一般兵にまでミリアさんに対する反感が高まっている。

・お風呂で美少女ボディの世話をするのは、羊のメイド達の領分である。

ミリアさんを入れて、羊のメイド達を浴場から追い出すなんて納得できない。


との事である。

最後に、無礼な忠言をした。

といって刃物を取り出してその場で自害しようとしたから、慌てて止めた。


 まぁ、羊のメイドを風呂から追い出すのは、良くないのは理解した。

仕事を取られるというのは、案外プライドが傷つく物だからな。


 仕方ないので、モップを使わずにミリアさんをきれいにするように指示を出した。


俺の目の前でどんよりと全てに絶望したかのような暗い顔で、パンを齧っているミリアさんは、ピカピカに磨き上げられ、とても良い香りがする。

そして、何よりも、美人だわ・・・。

これはいわゆる惚れるよりもさらに上の見蕩れるというやつか。

前で座っていると気になってチラチラと何度も見てしまう。

 

 黒バニー達が目に入ったが、彼女たちはミリアさんに殺意が籠もった視線を向けている。

放置するとミリアさんに何をするかわからないので、帰還する時までそばに居てもらうことに決めた。

つまり今から当分の間、寝食を共にするわけだ。

これは羊のメイド長であろうと、異論は認めないし、反論は聞かない。


うへへへへ


 「仲間、どこ?」

 とりあえず、一応、お仲間が近くにいるか一応聞いてみた。

ミリアさんは「もう、いないと思う」と呟いた後、また俯いてボソボソとパンを食べ始めた。


よっしゃー!

もう、勇者に邪魔されるなんて嫌だからね!


 はぁああああ。できれば今夜から肌と肌が触れ合う、気持ち良い関係になりたいのだが、さすがに男に裏切られたばかりの傷心状態に付け込むなんて出来な・・・


ん? いや、有りか。


 傷ついた心を癒すため、色々嘗めあうとか、いいかもしんない。

元気を出してもらうために、早速今夜からふれあいを始めよう。


「ぅぅぅ」

 などと考えていると、ミリアさんを見るとまた泣き出した・・・


「ここ、安全、保障、する」

 まずは、メンタルのケアが必要かな。

とりあえず、そばにいれば安全だと伝える。

裏を返せば、そばにいないと安全ではないという意味でもあるけどね!


「どうして、私を助けてくれるの?」

ミリアさんは上目遣いで俺に問いかける。

これはたまらん、ドキドキするわぁ。


「ミリア、好き、愛、してる」


ミリアさんの目をみてしっかり愛を伝える。


「え! えええええ!」


 ミリアさんはポロっとパンを落とした。

意中の相手に好意を伝える時は、はっきりと、明確に、迷いなく伝えることが大切である。

これは俺を裏切って早々に結婚したあげく、子供までいる元友人が教えてくれたことなので、活用させていただく。


「そ、そんなこと突然言われても、女同士だし・・・」

 まぁ、普通の反応である。

だが、美少女ボディの中身はアラサーDTのおっさんだから、俺的には全く問題はない。

母親に、「孫が見たいから、選り好みをせずに、いいなと思った相手にはちゃんとお付き合いを申し込むのですよ」と何度も言われていたので、従っておくことにする。


「ミリア、装備、返す」

とりあえず、黒バニーに襲われても、身を守れるようにしておきたいので装備品を返しておく。


「畏まりました。 ボールド閣下が謁見を求めております」


ふむ、相棒、ボールドって何者?


『カッターランドの将軍デス』

 カッターランド? 味方なの?


『この国の将軍であなたの部下デス』

 この国はカッターランドって言うのか。

で、俺は王様かぁ。

魔王は辞めてどっかでひっそり暮らそうかと思っていたけど、偉そうふんぞり返りながら、三食昼寝に夜伽付きなら継続もありかもしんない。

夜伽相手はもちろんミリアさんだけどな!


さて、どんなやつかわからないけど、会っといたほうがいいかな?


『ご自由にデス』


「会う」

 了承すると羊のメイドは一礼して下がっていった。


「よぉ、ルゥイ。 やっと蘇ったか。 待ちくたびれたぜ。」


 身長は2メール近くありそうな、禿た40才くらいの美白のオッサンがすぐにやってきた。


このおっさんは椅子に座ると、テーブルの上に置いてあったトマトをひょいと取ると、シャクシャクと食い始めた。


 相棒、こいつがボールドか?


『YESデス』


 ボールドはジーっとミリアさんを見ている。

まぁ、あげないけど、美人さんだからなぁ気になるのは仕方がないな。


 ただミリアさん、今朝の出来事で相当参っているのか反応が鈍い。

チラッとボールドを見た後、ブツブツ言いながらパンを食べ始めた。

あと、俺の告白はちゃんと回答してほしいな。


まぁ、夜に肌を重ねながら答えてもらうというのもいいかもしれないな!


「嬢ちゃん、いい歳なのにまだ処女なんだなぁ」


 ミリアさんの動きが止まった。

どす黒いオーラを放ちながら、禿男をにらんだ。

どうやらあたりのようだ。


そっかぁ! 処女だったのかぁ!

なんかうれしいぞぉ!


「女性にいきなり鑑定スキルを使うなんて、失礼な化物ね」


なぁ、相棒。


『鑑定スキルは才能が必要デス。 残念ながら何年がんばろうと取得不可デス』


そっか、ありがとう。


「はっ! めんどくせえ女だな。なぁ、ルゥイ。 なんで人間なんて近くに置くんだよ。

しかもこいつ女神の使徒じゃねーか。

って、んん? お前も・・・処女なのか? いやいやおかしいぞ。 何でお前まで処女なんだ?」


なぁ、相棒。


『完全かつ完璧に初期化されましたデス。

この男は吸血鬼デス。

女性が生娘かどうかは匂いで分かるデス』


そっか、わかった。 

こいつは変態なんだな。

ところでミリアさんは女神の使徒なの?


『聖皇国のヴァルキリーは女神メルマに仕える使徒と称していますデス』


なるほど。

今の相棒の言い方だと、女神様非公認の使徒と言うことだな。


「おい、俺の話を聞いてるか?」


うるさいなと思って、ボールドを見ると俺を見る目が変わっていた。


これはアホ上司が派遣の女の子に手を出そうしていた時と同じ目だ。

確認のためにスーッと視線をこいつの股間に移す。


 やはり男なら当然反応、つまり、子孫繁栄の準備段階に移行を始めていた。

俺にはよくわかる。

これはもう理性ではどうしようもないのだ、本能なのだから責めることは出来ない。


だがしかし! この美少女ボディは中学生ぐらいに見える、いわゆるJCと呼ばれる存在と考えてもいいだろう。


 さて、公衆の面前で40代くらいの禿げたおっさんが、JCに対して『お前、処女か?』と確認しつつ、あからさまに子孫繁栄の準備を始めるというのはいかがなものか?


つまり、これは『事案』と言っていいだろう。


 俺はこの美少女ボディの住人として、不逞な輩から貞操を守る義務と責任がある。

申し訳ないがここは正しい対応をさせてもらおう。


 通常なら防犯ブザーを鳴らして大人に保護を求め、それでもダメならスタンガンあたりの護身用グッズに頼るのが常道であろう。


 なので、まずはちらりと助けを求めようとミリアさんの方を見ると、なぜか俺を見ながら口をポカーンと開けて固まっている。

ミリアさんの装備品を持ってきた羊のメイドも同様だ。


なぜ、固まってる? 

今、あなたに告白した美少女ボディが不逞な輩にロックオンされているんですよ?


「衛兵!」

仕方ないので警察(衛兵)に保護を求めると、近くにいた大きな角の衛兵がやってくる。


「ちょ、ちょっとまて、なんで衛兵を呼ぶんだ!!」


ボールドは自分の犯罪行為に気づいていないようだ。

この手の犯罪者は自分の行いが法を犯していると気づいてないケースが多い。


たとえば! 有名なところでは迷子っぽいの子供を見つけたので「どこから着たの? 迷子? お母さんは?」と声をかける。

これ、『誘拐犯』と認識され、「たいーほ」されます。

つまり犯罪ですから!


他にも、仕事に疲れていたので、電車の中でぼーっとしていた時、本人は気づいていなかったが、視線の先に女性がいて、これを不快に思った。

これ、『迷惑条例違反』で犯罪ですから! もちろん「たいーほ」されます。


他にも色々ある。

そして納得できないものが多い。

だが、それが世の中のルールなのだから、これはもう、どうしようもないのだ!

悔しいと思う。 俺も悔しいぞ! だが、あきらめてくれ・・・


「魔王様、どうなされたんだモゥ」


「こいつ、タイーホ」


 牛の衛兵さん、速やかに変態を確保して牢屋に放り込むように。


「モゥ!?」

 牛の衛兵さん、驚いている暇はないので、速やかに対応お願いします。


「ちょっと待て! ルゥイ!! 俺が何をしたっていうんだ!!」

 この変態は、近づいて美少女ボディの両肩をつかみながら、俺が罪を問うたことを責めてきた。


はい、アウト~。

もうこれはもう「暴行罪」の現行犯ですね。

令和日本の法律では「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」となっているので、ここは日本の法律に従うか。


「離せ、変態」


 取りあえず、明確に拒絶しておく。

ここで素直に従えば、無かったことにしてやるぞ?

俺は寛大だからな!


「む、まてまて。 お前、ルゥイだけど何者なんだ?」


 俺の「離せ」は無視しつつ、両肩を掴んだまま質問か?

はい、もう無理だな!


「こいつ、二年、牢屋」


貴様の質問に答えるのは、罪を償った後だ。


どうやら牛の衛兵さんのほかにも、鳥や馬の衛兵さんまでやってきた。


「ボールド将軍、魔王様の命令なので逮捕だモゥ」

ボールドはがっくりと肩を落として溜息をついた。

どうやら素直に連行されるようだ。


正しい判断だ。 ここで暴れると『公務執行妨害』が加算されるからな。


それにまぁ、二年は冗談だし。

公衆の面前でミリアさんのようなレディや美少女ボディ相手に処女とかデリカシー皆無で聞くから、ちょっと懲らしめただけだしな。

飯食ったら解放してやるよ。


さって、俺はもう一度椅子に座ってテーブルの上にあるコーヒーに似た飲み物に手を伸ばす。


「あぶない!! 魔王!!」


『ドーン』という轟音とともに、コーヒーっぽい飲み物を入れたカップがテーブルごと消えた。


そして、顔に何か暖かい液体がかかり、視界の半分が真っ赤になったが、俺には突然現れたミリアさんの首から下の左半身が切り裂かれて、後ろに倒れていく様子が見えた。


そして真っ黒な結膜に赤い目、大きな尖った八重歯。 まさに吸血鬼という風貌になったボールドが俺に襲い掛かろうとしていた。


殺す! 俺を見ながら、地面に倒れていくミリアさんを見ると、ボールドに対して明確な殺意が生まれた。


豚顔コックの時とは比べ物にならないぐらいの力と、どんなものでも必ず破壊できるという全能感が沸いてくる。


このまま、殴ればこいつは消滅する! 跡形もなく消滅する! 塵にもならず消滅する! 何も残さず全て完全に消滅する!!


ぶっ殺してやる!!!


拳に力を入れて殴ろうとすると、なぜか時間の流れがゆっくり流れ始めた。


『ストップデス』


相棒! 止めるな、俺はこいつをぶっ殺す!


『この都市ごと消し去るのでしたら止めないデス』


えぇ! い、いや、俺はそこまでは・・・ でも、こいつは許せねぇ!


『仕方ないデス、わたしを使うデス』


は?


ボールドは立ち止まってじーっと俺の右腕をみている。

おれも、右手を見ると、いつの間にか小振りの剣を握っていた。


「その圧倒的な破滅のオーラ・・・ そして、その剣はネオ・コスモ。 お前は本物なのか・・・」


なぜか、ボールドは大人しくじっとしていけど、許すことはできないで、たった切るつもりだったが、俺の右足をミリアさんが掴んでいる


左の首筋から肩ごとを含んでバッサリ切り取らていて、普通なら即死だとおもう。


「治療、すぐ!」


俺の叫びを聞いた、羊のメイドさんがミリアさんのそばに来て何やら呪文を唱えている。


なぁ、相棒、ここは異世界だし、回復魔法とかでサクッと治ったりするよね?


『無理デス』


羊のメイドさんでは力不足なの? もっとすごい回復魔法使えるやついないの?


『この白羊人の回復魔法は十分高レベルデスネ』


そうなんだ、じゃぁ、ミリアさん・・・ 死んじゃうの?


『・・・』


「ま、まおう・・・。 わたし今、初めて女神様の声聞いた・・・ゴホゴホ」


女神? そんな話どうでもいいんだけど。

大体、この美少女ボディは死なないって、知っているはずなのに何でかばうんだよ!


「もう、人間を・・・恨まないで・・・思い出しても、赦してやってほしいだって・・・」

これって元人格ちゃんの事だな、確かに相当恨んでいたのではないかと思うけど、もういないし・・・

だいたい、ギリギリの状態のミリアさんに無理して話させるとか、むしろそっちの方で俺、怒るよ!


だんだん、血の気が引いていくミリアさんを見てると苦しい、胸が詰まるほど哀しいってこんな感じなのかな・・・


「分かった・・・」


たまらず了承してしまった。 でも、ミリアさんが嬉しそうに笑ったので良かったのかもしれない。


「魔王でも・・・泣くんだ・・・ びっく・・・り・・・」


ミリアさんは死んじゃうのか。

哀しい・・・

悲しい・・・

愛しい・・・


目を閉じたミリアさんの頬を触ると、視界が真っ暗になった。



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