第3話
俺は今大変困惑している。
前菜の巨大蜥蜴の卵やブッシュスパイダーの茹で糸とか、かなり抵抗があったがうまかった。
だが、問題は目の前の皿だ。
目の前の大きな皿には全裸金髪のお姉さんが載っていて、豚頭のコックさんが丁寧に脂や塩香辛料を擦りこんでいる。
お姉さんは体が動かないようでなされるがまま状態だけど、顔が恐怖で引きつっている。
女体盛りなら歓迎なのだが、体の上に盛りつける食材が見あたらないな。
まさかと思うけど、お姉さんが食材なの?
「魔王様。
本日のメイン、とれたてヴァルキリーの香草あえでございます。
体は暴れないよう、麻痺させております。
レバー、コブクロ、タン、ハツの順でお切取りください。」
豚頭のコックさんはいい仕事したぞという自信満々の豚顔でスッと俺に大きめのナイフとフォークを渡してくれた。
チラッと皿の上の美女を見ると恐怖に歪んだ顔で泣きながら俺を見ている。
何か話したいことがあるみたいで、震える口をパクパク動かしているが、麻痺しているためか、うまくしゃべれないようだ。
かわいそうに、何とか助けないといけないな。
「魔・・・魔王・・・ルゥイ・・・ストラ・・・カッター!!! ひぃぃぃぃぃぃ!! たたた助けてーお母さまぁぁぁぁああ」
相棒・・・助けてくれ。
『どうしたのデスカ?』
なんでこの美女が豚頭のコックよりこの美少女を怯えているの?
なんでこの美少女ボディを見ただけで麻痺に打ち勝って大声で悲鳴あげれるの?
『最狂最悪の不滅の魔王として、全世界に知れ渡っているデス』
元人格ちゃんはかなり道徳がダメな娘だったみたいだな。
あのね、俺は人食いと無理だから。
こんな美人のお姉さんを食えとか、性的な意味なら歓迎だけど、違うよね。
こいつらはには人間としての最低限の倫理感は無いの?
『皿の上以外に人間族はいないデス。』
いやいや、言い方変えるわ。
自分と同じ様な姿をした生き物は食えるわけがないよね。
こんなものを料理として美少女に出すなんて、頭おかしいだろこいつら全員!
『いやなら食べなければ良いデス』
全く食べる気はないが、食べなかったら、こいつ魔王じゃねぇーって、ばれのじゃないか?
最悪、あの皿の上の美女の横に盛りつけられるかもしれないでしょ?
俺はもう痛いのは嫌なの!
そして、この美人のお姉ちゃんを助けたい!!!
・・・
・・・
・・・
『はぁ?デス』
『はぁ』じゃねーよ!
助けろ下さい。 お願いします。 相棒様。
『助けた後、どうするのデスカ?』
そりゃーお前、助けてくれた俺に感謝して、惚れてもらって、前世で登れなかった大人の階段を登らせて欲しい。
できれば、リードしてもらえると大変助かるな!
そしてさっきの黒バニーが俺にした様な、体がバラバラにされる惨劇をこのお姉さんには受けてほしく無いわけ。
わかる?
『この女は解放して連れて戻るといえば良いのデス』
チートはないんだろ?
もう、この体は最狂最悪の不滅の魔王じゃないんだよね?
弱いんでしょ?
雑魚なんでしょ?
強気に物を言えない状態にしておいて、どうしてわからないの?
『私がやった訳ではないデス。
そしてこの世界で生きていくのに十分な初期スキルはあると伝えましたデス』
痛覚耐性とか結構重要そうなスキルが消えて酷い目にあったし。
さっきの黒バニーの引き裂きプレイは滅茶苦茶痛かったんだけど!
こいつらと拳で語り合えるぐらいの強さなんて無いに決まってる!
『十分ありますデス』
えっ、ほんと?
『YESデス』
そ、それじゃあ、まずは定番の魔力で身体強化とかお願いします。
こんなか弱い細腕であの豚顔のコックさんとか、周りにいる鎧来た連中殴ったら、骨が折れそうだし。
凄く痛そう。
『そんなものは必要ないデス。 あなたは十分に強いデス』
そ、そっか、よーし、じゃぁおじさん頑張るぞぅ!
『イメージが大切デス。
感情を込めて、強い怒りを込めて攻撃するデス』
強い怒りねぇ・・・
ナイフとフォークをテーブル置いて
じろりと豚顔コックを睨むと、自信満々だった豚顔が段々引きつった顔になっていく。
「魔王・・・様?」
豚顔コックはじりじりと後ろに下がって行く。
俺は昨日上司に放った全身全霊の荒ぶるエンジニアの右ストレートをぶち込む事にする。
まずはクソ上司の顔を思い出す。
ムカムカムカムカ
あーなんかすげぇ力が沸いてくるぞ。
なんかパンチ一発でKO出来そうな気がするな。
思い出せぇ~。
あのアホが作った工程表のおかげでエンドレスデスマーチ確定。
おかけで社員、派遣の大量の脱落者が発生。
大量退職ビックウェーブに乗り遅れた俺はしわ寄せ一身に受けた。
そんな身も心もボロボロの俺に奴は言ったんだ。
『君、ハゲてきたねぇww』
理性、モラル、俺の中の枷が砕け散る感覚があった。
その後の事ははっきり覚えてない。
足元に転がるアホ上司とズキズキと痛む右手だけ
あのアホは禁忌に触れたのだ。
誰がハゲだ!
少し額が広くなった原因は貴様の工程表だろうがぁぁぁ
おおおおおおおおおおおおおぉぉ
なんか凄すぎるパワーが湧いて来るぞー
『素晴らしいデス。
そんなくだらない事でここまで怒のオーラを発生させるとはデス』
くだらない言うな!
「ひぃぃぃぃぃぃ、魔王様お許しをぉぉ!」
豚頭のコックさんはDOGEZAして謝っている。
周りを見ると、羊のメイドさんたちの一部は逃亡。
他は腰を抜かしたように地面にへたり込んでる。
「人間、食う、良くない、禁止」
「え!? 我々も人間を食べるのは禁止ですか!?」
何を当たり前の事を言っているのだ?
当然、コクリと頷く。
「で、では我々は何を食べれば?」
さすがに豚頭の人に豚は不味いな。
豚肉がだめならこれしかないだろ。
「牛」
「え!」
豚頭のコックさんが牛頭の衛兵さんの方をみた。
「な、何卒ご容赦をだモゥ」
牛頭の衛兵さんは地面に頭をこすりつけながらひれ伏す。
こいつはミノタウロス的な牛の魔物みたいだ。
こんなのがいるなんて気づかなかった。
『むぅ。 牛、禁止、 鳥』
「ええ!」
豚頭のコックさんは上を見上げた。
上でホバーリングしていた。黒い大きな翼を持つ人型魔物が降りて来てさっきのミノタウロスと同じ様にDOGEZAして地面に頭をこすりつけた。
『何卒ご容赦だピー!』
こいつはハービーか・・・
『むむぅ、鳥、禁止、馬』
「ひぃぃぃぃぃぃヒッヒーン」
今度はケンタウロスか・・・
「馬、ダメ、魚・・・」
「ギョギョー!?」
今度はさかなクン!
「魚、禁止・・・」
よし、肉は諦めた!
「植物・・・」
「キィヤァァッァァアアッーー」
地面からものすごく大きな悲鳴とともに根っこが人形のような草が地面から現れてDOGEZAを始めた。
あれはマンドラゴラか・・・
食うもん無いな・・・
「もう、水、飲む、だけ」
バッシャーーーン。
えええええ、水までダメなん!?
人型の水塊がDOGEZAを始めた。
あれはウオーターエレメンタル的な精霊かな
相棒・・・ なんか良い食材ないか?
『あなたは普段何を食べていたのデスカ? 』
お米かパン。
牛、豚、鶏、魚、野菜などを調理したものだな。
『白麦パンの野菜サンドとハーブティーならあなたに合うはずデス』
そんな普通の料理があるんだ!
「白麦パンの野菜サンド、ハーブティー」
相棒が教えてくれた料理を頼むと、豚頭のコックさんは「早速ご用意します」と言って、走り去って行った。
ものすごくビビッてるね。
『過去に食材として強く人間を推奨したのデス』
マジで!?
『人間にかわって新しい食材に推奨されることを恐れているのデス』
なるほど、因みにこの体は人間食った事が有るのかな。
『黙秘するデス。
しかし、完全かつ完璧に初期化済みデスのでご安心下さいデス』
うーん、初期化って言われてもねぇ。
「人間、禁止。」
どうしたらいいかわからんので、丸投げしとこう。
「は! ははぁ!」
野菜サンドをテーブルに置いた後、豚頭のコックさんは地面に頭をこすりつけながらひれ伏した。
そして皿の上の美女の横に移動する。
どうやら気を失っているようだ。
舐めるように全身をチェックすると、油でテカテカお肌から、スパイシーな良い香が漂ってくる。
むぅ、動けないことをいいことに、エッチなことしたいな!
しかし二人っきりになるにはどうすればいいのか・・・。
周りを見ると全員、完全にひれ伏してる。
ちょっとアホ上司の顔と所業を思い出すだけで、こんな状況になるのか。
意外とイージーモードなのかな。
相棒♪
『なんデスカ? 気持ち悪いデス』
俺、魔王とか引退したいんだ。
『そうですか、自由にすればいいデス』
女の子とさ、エッチなことやってる最中に勇者みたいなのが現れて襲われるとかテンプレなんで起こりそうでしょ?
集中もできないしさ。
『・・・』
とりあえずさ、この皿の上の美女をつれてどっかに消えたいんだけど、転移魔法とかつかえないかな?
『転移魔法は今から100年くらい集中して魔法の練習をすれば使えるようになるデス』
えぇぇ!? 無理なんだけど!
あ、そ、そっかぁ、初期化されたのかな?
じゃぁ元人格ちゃんは隠れ家とかぁ、無限収納的なところに隠し財宝とかぁ持ってない?
この美少女ボディは俺の物なんでしょ?
ついでにこのこの子がもってる財産も俺のものにしたいから教えてほしいなぁ。
『ないデスネ』
えええぇ、ちょとぉ。 財産まで初期化は出来ないよね?
意地悪しないでおしえてほしいなぁ。
『財産を隠す必要なかった様デスネ。 欲しいものはその場でひゃっはーと奇声をあげながら奪ってたデス』
世紀末に出てくる汚物を消毒する人のような美少女だったんだな・・・
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