ありふれた美しさの町で、思春期にたゆたう小さなロミオとジュリエット

シェイクスピアの舞台ほど劇的でなくても、学生たちの上にぼんやりと覆いかぶさるように存在する地元の空気や家同士の関係。学校生活、授業、日々のタスク。そして定期試験。そういったもやもやを少しずつ押し上げるように育つ感情、熱情を、筆者の豊富な比喩表現や言葉のセンスをちりばめつつ描いている素晴らしい百合作品です。

海に自宅、学校、喫茶店、体育館といったように場所が変わっていて、町の風景がどんどん広がっていく感覚も小説として楽しかったです。
堅実で読みやすい中、ロケーションの町や風景を容易に想像させる数々のオブジェクトをはさむことでセンスの良さを文章にかよわせていて、読みごたえと奥行きのある作品です。その中に自然に感情がはさまれる文章の運びが美しく、見習いたいと感じました。