107話 認知
サテラが抱きかかえている赤子。
それはなんと、俺の子だったらしい。
「ええ。あの日にいただいた種が無事に芽吹いたのです。私の母乳を飲んで、すくすくと成長しました」
「……」
俺は何も言い返せない。
しかし、どういうことだ?
俺が彼女と致してから、まだ半年も経過していない。
明らかにおかしいのだが、サテラが嘘をついているようにも見えない。
(狂って……いるわけでもなさそうだな)
俺は彼女に”竜の加護”を与えている。
その副作用か何かで精神に異常をきたしたのかと疑ったが、そういうわけでもないようだ。
狂人か否かぐらいは、見ればわかる。
俺の微妙な反応を感じたのか、近くにいた村長が口を開く。
「サテラが産んだのはライル殿との子どもで間違いございませぬ。彼女が生娘であったことは、ライル殿もご存知なのではございませんか?」
「まぁ、そうだな」
確かに、あの日の反応は処女のそれだった。
「そして、ライル殿が去った後も、男衆はサテラに手を出しておりませぬ。破った者は村八分にすると布告しておりましてな……。サテラが子を孕むのは、ライル殿との間にしかあり得ませぬ」
「ふうむ」
「妊娠発覚から出産まで前例のないほど早かったのですが、見ての通りすくすくと成長しております。いやはや、さすがは規格外のライル殿の種というべきか」
「まぁ、そんなこともあり得るか」
S級スキル竜化持ちの俺は、こういうところでも妙な力を持っていたらしい。
外見特徴からしても、俺の子で間違いなさそうだ。
(となると、どう”処理”すべきか……。殺しておくか?)
俺はついそんなことを考えてしまう。
第一王子の俺がその辺の村娘との間に子を成したなどと知れれば、政治的にややこしいことになる。
幼なじみのルーシーぐらいに特別な関係ならまだしも、行きずりの関係で成した子であれば殺すのも手だ。
(いやいや、俺はもう王子じゃない。政治なんざ関係ない)
俺はそう思い直す。
せっかく生まれた我が子だし、何も殺すことはないだろう。
(問題は、リリアが何と言うかぐらいか? まぁ、彼女ならどうでも良いと一蹴しそうだな……)
竜王であるリリアは、人族とは格が違う。
例外的にS級スキル竜化を持っている俺に対してのみ、友好と親愛の情を向けてくる。
無事に覚醒しきった暁には、俺を伴侶として迎えるとか。
ルーシーの蘇生を手伝ってくれているのは、俺の覚醒を促す実践トレーニング兼、将来の伴侶へのプレゼント感覚だろう。
俺がそこらの村娘と子を成したところで、特別な感情を抱くとは思えない。
「なるほど。俺が父ということだな。理解したぞ」
俺はサテラと村長にそう言って、我が子の存在の認知を宣言したのだった。
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