108話 サティ
サテラが抱きかかえている赤子は、確かに俺の子だ。
俺はその事実の認知を宣言した。
「ありがとうございます! ライル様!」
「うむ。父親として当然のことだ」
一瞬、殺す選択肢が脳裏によぎったことは内緒にしておく。
別に言葉にする必要もあるまい。
「それではさっそく、この子に名前を付けていただけませんか?」
「ん? まだ名付けていなかったのか?」
俺は赤子の成長過程にさほど詳しくない。
だが、見た感じ、生まれたてというわけでもないだろう。
1週間か2週間か……。
あるいは、1か月以上が経過していてもおかしくないように見える。
「こうしてお戻りいただける日を信じて、この子の名前はまだ定めていなかったのです。ぜひお願いします」
サテラは目を輝かせながら言った。
「ふむ」
とはいえ、急に言われても困ってしまうが。
「ライル殿、よろしくお願いいたしまする」
村長も期待の目をしていた。
俺は小さく溜息をつく。
まぁいい。
「俺の子でもあるのだ。責任を持って俺が決めよう」
俺がそう言うと、二人は嬉しそうに身を乗り出した。
キラキラとした視線をこちらに向けてくる。
「性別は……女か」
俺は赤子の股間を見て、性別を確認する。
(ライルとサテラの子どもか……。ライラ、ラテラ、サイル、サテル……)
俺はいろいろと考えていく。
候補は無限にある。
別に自分の名前から取る必要もないしな。
(俺とリリア、あるいは俺とルーシーとの子どもならともかく……。サテラとの子どもに俺の名の一部を与えることはやり過ぎか?)
適当な名前を付ける方が無難かもしれない。
だが、それはそれで、別のリスクがある。
俺が名前をど忘れするリスクだ。
母親のサテラの名前すらかなり怪しいのに、子どもの名前を何の関係もない適当な名前にしてしまっては、絶対に忘れてしまう。
S級スキル竜化は戦闘や知覚系の能力に秀でているが、暗記力に関しては大した恩恵がない。
いやむしろ、真覚醒へと至るために新たな能力を得ていく過程で、他の記憶が押しやられているような気さえしている。
ここは敢えて、自分やサテラの名前に関連した名付けにしておく方が無難だろう。
「よし、決めた」
俺は数分ほど考えた結果、こう名付けた。
「今からおまえの名前はサティとする」
「あうー?」
俺の言葉に答えるかのように、赤子が声を上げた。
「サ、サティですか?」
「ああ。『ライル』と『サテラ』からそれぞれ文字を取った。かつて”竜の巫女”と呼ばれたサティ=ルーギエルからも取ったが……。どうだ?」
「は、はい! 素晴らしいと思います!」
サテラが大きく首を縦に振る。
どうやら納得してくれたようだな。
「ありがとうございます。ライル殿。この子の名は村中に周知いたします。必ず立派に育て上げてみせますとも」
「ああ。よろしく頼むぞ」
俺はこうして、村娘サテラとの間に成した我が子に”サティ”と名付けたのだった。
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