17話 冒険者登録

 行商の男の娘とともに、冒険者ギルドに向かっているところだ。

 豪勢な馬車の中から、ストレアの街並みを眺める。


「ふむ……。この街には初めて来たが、なかなかの街だな」


 ブリケード王国の王都には一歩及ばないが、各領の領都ぐらいには発展している。

 『雪原の霊峰』から下山してくる途中に寄った村の発展度合いとは、比べるべくもない。


 そういえば、あの村で世話になった少女は元気にしているだろうか。

 彼女には竜の加護を与えている。

 身体能力や魔力が向上し、病気に対する抵抗力が増しているはず。

 ちょっとやそっとの脅威では死なないだろう。


「このあたりでは最も大きな街ですから。そのご様子ですと、ライル様はもっと大きな街のご出身なのですか?」


「ん? ああ、そんなところだ」


 具体的には、ブリケード王国の王都で生まれ育った。

 だが、それを広く公表するわけにはいかない。

 俺は適当にはぐらかしておく。


 馬車の外の景色を眺めつつ、馬車に揺られていく。

 そして、しばらくして。


「到着しました。ライル様、リリア様。こちらが、冒険者ギルドです」


「おう。ここがそうか」


 俺は眼前の建物を見る。

 なかなか立派な建物だ。

 人口が多い街の冒険者ギルドは、その分しっかりしている傾向がある。

 どの国でも、それはいっしょのようだな。

 俺とリリアは、馬車から降りる。


「案内ありがとう。ここからは、俺とリリアでだいじょうぶだ」


「いえ、私もごいっしょさせてください。冒険者ギルドにはツテがありますので、私がいっしょのほうが登録もスムーズでしょう」


「そうか。それはありがたいな。よろしく頼む」


 俺とリリアは、平民の常識や機微に疎いところがある。

 彼女が同行してくれるなら、ありがたい。


 俺たちは冒険者ギルドのトビラを開け、中に入る。

 少女の案内のもと、受付まで進んでいく。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどうされましたか?」


 受付嬢がそう言う。


「今日は、こちらのライル様とリリア様の冒険者登録をするために来ました」


「ライルだ。よろしく頼む」


「リリアじゃ。良きに計らえ」


 俺とリリアはそう一言だけあいさつをする。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね。冒険者ギルドのルールの説明は必要でしょうか?」


「ある程度は知っているが、念のため聞いておこう」


 俺は元王子である。

 将来の統治に活かすために、一般知識として冒険者制度についてもある程度は知っている。

 しかし、実際に関わったことはない。

 聞いておくに越したことはないだろう。


「承知しました。まず……」


 受付嬢が説明を始める。


 魔物を倒せば、冒険者はギルドから金を受け取ることができる。

 分類は大きく分けて2つ。

 討伐奨励金と、素材買取金だ。


 討伐奨励金については、魔物の討伐証明部位の提出が必要となる。

 ゴブリンなら両耳、スライムならコア、といった感じだ。


 素材買取金については、魔物の死体や部位を提供することになる。

 獣型の魔物であれば、単純に肉を買い取ってくれる。

 このあたりでは、リトル・ボアなどが狙い目らしい。

 俺が雪原の霊峰で狩ったギガント・ボアの下位にあたる魔物だ。


 また、魔物狩り以外にも収入源はある。

 依頼をこなすことだ。

 代表格は隊商の護衛依頼。

 その他、要人の護衛、薬草の採取、特定の魔物の素材の提出など、依頼内容は多岐にわたる。


「なるほど。よくわかった。詳しい説明に感謝する」


 もともと知っていた知識と相違ないことが確認できた。

 これで、憂いなく冒険者活動をスタートできる。


「それでは、こちらの登録用紙にご記入くださいませ」


 受付嬢がそう言って、登録用紙を差し出してくる。

 俺とリリアは、そこに書き込んでいく。



名前:ライル

ジョブ:剣士、火魔法使い


名前:リリア

ジョブ:格闘家、氷魔法使い



 実際のところ、俺はS級スキル『竜化』を発動させた状態で暴れるのが一番強い。

 また、スキルの副次的な効果により、人間形態における身体能力や魔力も向上している。

 そのため格闘などでも上級の魔物を討伐することは可能だし、火魔法以外にも様々な魔法を操ることができる。


 リリアも同じようなイメージだ。

 人間形態における彼女も十分に強いが、本来の姿である竜形態のほうが段違いに強い。

 氷魔法以外にも様々な魔法を使える。


 とはいえ、そのあたりを正直に書きすぎるのも問題だ。

 登録したてのルーキーが嘘をついていると見られるのが関の山だろう。

 仮に信じてもらえたとしても、それはそれで問題だ。

 とんでもないルーキーが来たと騒ぎになる。


 シルバータイガーの情報を集めるためには、そこそこの活躍はしたいところだが……。

 バランスが難しい。

 とりあえずは、『ルーキーにしてはそこそこ優秀』ぐらいのバランスで様子を見たい。


 俺とリリアは、記入した登録用紙を受付嬢に提出する。


「ふむふむ……。ライル様とリリア様は、お二人とも魔法をお使いになるのですね。それは将来に期待できそうです」


 受付嬢がそう言う。

 狙い通り、『ルーキーにしてはそこそこ優秀』という評価をもらえそうだ。

 と、思っていた、そのとき。


「へいへい! 女連れの若造が、冒険者になろうってのか?」


「ククク。冷やかしならやめておけ。痛い目を見る前に帰るのだな」


 俺たちの背後から、そう声が掛けられた。

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