18話 先輩冒険者を一蹴

 冒険者登録を済ませたところ、背後から声を掛けられた。

 チンピラのような口調だった。

 俺とリリアは振り向く。


「へいへい! 見たところまだガキじゃねえか」


「ククク。その女を置いて、立ち去れ。そうすれば、痛い目を見なくて済むぞ?」


 やはり、典型的なチンピラだった。

 冒険者ギルドにいるということは、これでも一応は冒険者なのだろうが。


 冒険者は、荒くれ者がなる職業だ。

 魔物や盗賊と戦うことがある以上、のんびりとした人には務まらない。

 一方で、品行方正で正義感にあふれるような人なら、最初から国軍や領兵になっている。

 つまり、自然と『腕には自慢があるが、素行などに少し問題がある者』が多くなってくる。

 こいつらもそのうちの2人なのだろう。


「ふん。……羽虫か」


「小物に用はないのう。どうせ、大した情報も持っておらぬじゃろうし……」


 俺とリリアが冒険者ギルドに登録したのは、シルバータイガーの情報を集めるためだ。

 シルバータイガーは上級の魔物である。

 B級以上の冒険者であれば何かしらの情報を知っているかもしれないので、仲良くする価値はある。

 しかし、見るからにザコなこのチンピラたちに時間を割く価値はない。

 俺とリリアは彼らを無視して、受付嬢に向き直る。


「俺たちは、シルバータイガーという魔物を狩るためにこの街に来たんだ。何か情報をしっていないか?」


「え、ええと……。シルバータイガーは上級の魔物ですので、新人のライルさんたちには規則によりお教えできないのです。それよりも、その……」


 受付嬢が俺の後ろに視線を向ける。

 どこの馬の骨かも知れない新人に、やすやすと情報は渡してくれないようだ。


「そうか。教えてもらえるようになるには、どうすればいい?」


「そ、そうですね……。まずは薬草採取や魔物退治で実力を示していただければ、冒険者ランクも上がっていきます。シルバータイガーの情報であれば、Bランク以上が目安になります」


 まずは地道にランクを上げる必要があるわけか。

 他にBランク以上の冒険者と懇意になってその者から聞き出すという手段もあるが、それはそれで面倒だ。

 Bランク以上は希少だし、仲良くなれるとも限らない。

 仲良くなったとしても、貴重な魔物の情報をしゃべってくれる保証はない。


「へいへい! 無視してんじゃねえぞ、コラァ!」


「ククク。一度洗礼を浴びせておいたほうがいいみたいだな!」


 俺の背後から何やら雑音が聞こえる。

 羽虫の音だ。

 やつらが俺に攻撃を仕掛けようとしている気配がある。


「くたばr……」


「うるさい、黙れ」


「プゴッ!」


 俺が軽く拳をコツンと当ててやると、チンピラの1人は後方に弾け飛んでいった。

 こううるさくされると、受付嬢からの情報収集がままならん。


「なっ!? あ、相棒!」


 残ったほうの男が、後方でぐったりしている男に駆け寄っていく。


「う……ああ……」


「し、しっかりしろぉ!」


「さて。では、説明を続けてもらえるか? ええと、どこまで聞いたのだったか……」


 俺はチンピラたちの存在を頭の中から消し、受付嬢からの情報収集を再開する。


「シルバータイガーの情報であれば、Bランク以上が目安となるというところまでを説明しました……。しかし、Cランクのベテランを一蹴されるほどの実力をお持ちとは……」


「Cランク? 誰がだ?」


「先ほどライル様が一蹴なさって後ろで伸びているあの二方です……」


 このチンピラたちがCランク?

 意外に高ランクだな。

 Cランクといえば、確かな実力を持つことの証明になるランクだ。


 小規模な村であれば、ちょっとした英雄扱い。

 ゴブリンの群れなどを討伐する際の指揮官となる。


 また、このストレアのような大規模な街においても、それなりに一目置かれるはず。

 危険度の高い魔物に対する大規模な討伐隊において、各小隊の指揮を任されるぐらいのポジションだ。


「ふん。あんなザコがCランクとは、この街もずいぶんと人材不足のようだ。同情する」


 俺は後方で伸びている男と、そいつを介抱している男に視線を向ける。

 こいつら程度であれば、100人で向かってこられても負けることはないだろう。


「ククク。言ってくれるじゃねえか……」


 介抱していたほうの男が、怒気を込めた目でこちらをにらんでくる。

 伸びていた男の無事を確認して一安心し、こちらへの怒りが湧いてきたといったところか。


「言ってくれるも何も。事実だろうが」


「まぐれ当たりで調子に乗るな、ルーキー! 死n……」


「だからうるさいんだよ」


「プゲラッ!」


 俺が軽くデコピンをしてやると、男は後方に弾け飛んでいった。

 伸びている男と同じあたりで倒れ込んだ。


「ふん。ザコ同士、2人で仲良くおとなしくしているといい」


 俺はチンピラ2人から視線を外し、受付嬢に向き直る。


「あの2人がCランクとはな……。この街の将来が思いやられる。しかし、それならば俺やリリアがBランクになる日も近そうかな?」


「そ、そうですね……。戦闘能力であれば全く問題なさそうです。規則もありますので、まずは魔物を退治してランクを順番に上げていく必要はありますが……」


 Cランク冒険者を一蹴したらといって、すぐさまBランクになれるわけではないようだ。


「魔物か。それならば、いいものがある」


 この街に来るまでに狩った魔物が何体かアイテムバッグに入れてあるのだ。

 それを提示すれば、ランクアップも早いかもしれない。

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