16話 冒険者ギルドへ

 ストレアの街の商会の応接室で馬車の準備を待っている。

 少女が茶を提供してくれたので、俺とリリアの2人で堪能する。

 そして、少女が俺に対して深々と礼をしてきたところだ。


「父からは、ゴブリンの群れに追われていたと聞いています。単独のゴブリンであれば下級の冒険者でも対処可能ですが、ゴブリンの群れとなると中級以上の腕が必要となります。それほど簡単なことではなかったはずですが……」


 少女がそう言う。

 確かにその通りなのだが、俺にとっては簡単なことであったのも事実だ。


「俺にとっては造作もないことだ。ゴブリンごとき、俺の相手ではない」


「まあ! ずいぶんとお強いのですね……。ライル様とリリア様は、さぞかしご高名な冒険者なのでしょうね。あいにく、私はそういったことに疎くて……」


「いや、知らないのも当然だ。俺たちは、冒険者登録をしていないからな」


 そもそも冒険者登録をしていないのであれば、彼女が俺たちのことを事前に知る由もない。


「そうでしたか。何か理由があるのでしょうか? どこかの貴族の私兵や専属護衛だったり、国の兵士だったり……」


 俺が冒険者登録を行っていなかったのは、一国の王子だったからだ。

 兵士とともに魔物を討伐したことはあるが、冒険者登録を行う必要性や義務などはなかった。


 リリアが冒険者登録を行っていなかったのは、彼女が竜王だからだ。

 彼女の魔大陸には冒険者ギルドがない。

 わざわざ人族の大陸に赴いて冒険者登録をする必要などなかった。


 しかし、このあたりの事情を正直に話すわけにはいかないし、そのつもりもない。


「いや、どこかに雇われているわけではない。まあ、いろいろと事情があるのだ。しかし、今回はこの街で冒険者登録を行おうと思っている」


「それは素晴らしいですね。ゴブリンの群れを一蹴する実力を活かせば、すぐにでも中級冒険者になれるでしょう。そしてゆくゆくは、上級冒険者も狙えるかもしれません。当商会とも、ぜひ懇意にさせていただきたいです」


 少女がそう言う。

 なかなか熱い視線を送ってきている。


 おそらくだが、彼女のこの視線の理由は2つある。

 1つは、俺が彼女の父でありこの商会の会長でもある男性を救ったこと。

 1つは、俺がゴブリンの群れを一蹴できる実力者であり、将来的に商会へ利益をもたらす可能性があること。


 この2つから、恩人、強者、利益供給者として総合的な好意を持っているのだろう。

 淡い恋心のようなものすら抱かれている可能性もある。


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 俺はそう言う。

 俺がこの街にやって来たのは、シルバータイガーの情報を集めるためだ。

 冒険者ギルドに登録してランクを上げつつ、この商会から信頼を得ていけば、いろいろな方面から情報を集めることができる。

 この少女とも、頭取である父とも、うまく付き合っていかないとな。


 俺たちはそんなことを話しつつ、時間を潰す。

 しばらくして、少女の父である頭取が戻ってきた。


「ライル殿。お待たせしました。馬車の準備ができました。冒険者ギルドまで案内させていただきます」


「おお、ありがとう。よろしく頼む」


 俺はそう言って、イスから立ち上がる。


「お父様。冒険者ギルドまでの案内は、私に任せていただきないでしょうか?」


 少女がそう言う。


「む? お前がそう言うのであれば、私は構わないが……。ライル殿も構いませんか?」


「俺は特に問題ない。冒険者ギルドまで、しっかりと案内してくれるのであればな」


 強いて言えば、男よりも少女に案内してもらいたいが。

 特に、この少女は結構かわいいしな。


「では、私にお任せください! 冒険者ギルドは何度か行ったことがありますし、道は知っていますので」


「わかった。お願いしよう」


 俺はそう言う。


「ではそのように致しましょう。もちろん御者も道は知っていますし、迷うことなどあり得ないでしょう。馬車内で、ゆるりとおくつろぎくださいませ」


 少女の父親がそう言う。


「ああ。そうさせてもらう」


「うむ。良きに計らえ」


 そんな感じで、冒険者ギルドに向かうことになった。

 冒険者ギルドといえば、荒くれ者の巣窟だ。

 少なくとも、ブリケード王国ではそうだった。


 個々の戦闘能力は王族や上級騎士に劣るとはいえ、なにせ数が多い。

 それに、各地に点在しているし、それぞれの統率度合いも中途半端だ。


 王家としても、管理に苦労していた様子を覚えている。

 まだ王子として限られた実務にしか携わっていなかった俺には、あまり関係のないことだったが。


 この国の冒険者ギルドはどのようなものだろうか。

 ブリケード王国と同じような感じなら、ひと悶着あるかもしれない。

 きちんと統制が取れているのであれば、それはそれで参考になる。

 荒くれ者を管理するノウハウを吸収したいところだ。


 俺はそんなことを考えつつ商会を出る。

 商会の前には、馬車が用意されていた。


「ふむ。なかなか立派な馬車だな」


「はい。最高クラスの来賓を送迎するための馬車でございます。ささ、どうぞお乗りになってください」


 少女がそう促す。

 街中から街中に移動するだけなのだが、少し大げさだな。

 まあ、それほど俺たちに恩義を感じてくれているということだろうが。

 もしくは、戦闘能力を評価して先行投資しているようなイメージなのかもしれない。


 俺は、そんなことを考えつつリリアや少女とともに馬車に乗り込む。

 御者の男が手綱を取り、馬車は街中をゆったりと進み始めた。

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