15話 ストレアに到着

 ストレアの街に行く途中で、馬車がゴブリンに追われていた。

 俺はゴブリンを軽く蹴散らした。

 その馬車に乗っていた行商人の男が、俺たちに感謝して街でお礼をするという話になった。

 俺とリリアは馬車に乗り込み、ストレアの街へ向かうことにした。


「それにしても、あなた様は本当に強いですな。高名な冒険者の方でしょうか? お名前をうかがっても?」


「俺はライル。こっちはリリアだ。俺たちは強さに自信を持っているが、冒険者としては活動していないな」


 俺は王族だったので冒険者活動などする必要はなかった。

 竜王であるリリアも似たようなイメージだ。


「なんと! それは少しもったいないような気もしますな。……私はこのあたりで行商などをしております。よろしければ、専属の護衛としていかがでしょうか? 護衛料ははずませてもらいますよ」


 男がそう言う。


「ふむ。ありがたい話ではあるが、あいにく俺たちには目的があるのだ」


「目的ですか?」


「ああ。諸事情により、”白銀の大牙”が必要になってな。それを手に入れるためにこの地にやってきた」


「白銀の大牙……。B級の魔物、シルバータイガーから剥ぎ取れる素材ですな。確かに、このあたりで目撃例はあります」


 男がそう言う。

 リリアの情報通り、このストレア付近にシルバータイガーが生息していることは間違いないようだ。

 街で情報収集をする予定だったが、せっかくなのでこの男にも聞いてみるか。


「シルバータイガーの情報を何か知っているか?」


「ううむ。あいにく、特には……。かなりめずらしい魔物ですからな。情報を手に入れるのであれば、やはり冒険者ギルドに登録されるのがよろしいかもしれません。実力を認められれば、高ランクの魔物討伐の指名依頼がされることもありますし、情報は入手しやすくなるでしょう」


「なるほどな。確かに、冒険者として登録するのは悪くなさそうだ。リリアはどう思う?」


「うむ。ちまちま聞き込みを続けるよりも、名を上げて情報を集めるのは悪くないの。ただ、悪目立ちは避けたいが」


 そうだった。

 あまり目立ちすぎるのもよくないのだった。

 ブリケード王国から、追手が差し向けられるかもしれないからな。


 とはいえ、ここはブリケード王国から遠いし、多少目立つぐらいであれば構わないだろう。

 顔写真を魔道具で撮られたり、ライル・ブリケードというフルネームを名乗ったり、人前で竜化スキルを使ったりしない限りはだいじょうぶだ。


「よし。とりあえずは登録して、様子を見ることにしよう」


「ふむ。わかった。それでよかろう」


 リリアがそう了承する。


「ライルさんであれば、必ずやご活躍されることでしょう。応援していますよ」


 行商の男がそう言う。

 そんな会話をしつつ、俺たちは馬車に揺られてストレアへと向かっていった。



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 無事にストレアに着いた。

 街中を馬車で進んでいく。


「さて……。こちらが、私の商館となります。ここら一帯では有名な商会なのですよ。私はその頭取です」


 男がそう言う。

 なかなか立派な建物だ。


「ほう。一介の行商かと思っていたが、これほど見事な商会の頭取だったのだな」


「はい。行商は半ば趣味として続けています。よく行く村までの道だったので、まさかゴブリンに襲われるとは思いませんでした。これからは、気をつけないといけませんね」


 それはそうだろう。

 商会の頭取として、自分の身の安全には気を配る必要がある。


「こちらで一度降りていただき、お礼の物品を見定められますか? もしくは、冒険者ギルドに登録に行かれますか? お疲れでしたら、私の屋敷に招かせさせていただきますが」


「そうだな……。リリアは、特に疲れていないよな?」


「当然じゃ。余がこの程度で疲れるわけがなかろう」


 竜王であるリリアは、戦闘能力はもちろん、体力や気力も並外れている。

 多少旅した程度では、疲れたりはしない。

 そしてそれは、S級スキルを持つ俺も似たようなものだ。


「よし。さっそくだが、冒険者ギルドに向かいたい。案内してもらえるか?」


「承知しました。一度この商会で荷降ろししつつ、別の客人用の馬車を用意させます。少しだけお待ちください」


「わかった」


 俺とリリアは、行商用の馬車の荷台から降りる。

 商会の応接室に案内され、客人用の馬車が準備されるのを待つ。


 ガチャリ。

 応接室のトビラが開いた。

 少女が中に入ってくる。


 彼女の手にはコップがある。

 客人に飲み物を出してくれる感じか。


「よろしければ、こちらをご賞味くださいませ」


「ふむ。ありがたくいただこう」


 俺とリリアは、出された飲み物に口をつける。

 なかなかの味だ。

 ブリケード王国の王宮で出されていたものよりは若干劣るが、市井に出回っている中では相当な高級品だろう。


「ライル様、リリア様。この度は、当商会の頭取の身を守ってくださり誠にありがとうございます」


 少女がそう言って、深々と礼をする。

 仮に頭取が死亡したりすれば、この商会にとっても大きな打撃だったことだろう。


「通りすがりに低級の魔物を倒しただけだ。大げさに礼を言われるほどのことではない」


 俺はそう言う。

 無闇に謙遜するつもりはないが、あまり大げさに褒め称えられるのもむず痒い。

 ここは適度に謙遜しておくことにした。

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