14話 ゴブリンを一蹴
シルバータイガーの生息域の近くにある、ストレアという街を目指していたところだ。
偶然通りがかった馬車がゴブリンの群れに追われていた。
俺は馬車を逃してやり、馬車を追うゴブリンたちの前に立ちはばかる。
肉弾戦で戦っても一蹴できるだろうが、ゴブリンは不潔な魔物だ。
ここは、魔法で倒すことにしよう。
「揺蕩う炎の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。火の弾丸を生み出し、我が眼前の敵を滅せよ。ファイアーバレット!」
俺は中級の火魔法を発動させる。
以前は使えなかった魔法だ。
竜化スキルの副産物として人間形態の俺の魔力は上がっている。
そのため、今は使えるようになっているのだ。
「ぎっ!?」
「ぎゃおおぉっ!」
高熱の炎の弾丸を受け、ゴブリンの群れはあっさりと壊滅した。
やはり、今の俺にとってはゴブリンの群れごときはまったく驚異ではない。
「さて。街へ再び向かうとするか」
「そうじゃの。しかし、その前に話すことがあるようじゃぞ? ほれ」
リリアがそう言って、指差す。
俺は彼女が指差した方向を見る。
先ほど通り過ぎていった馬車が、少し遠方に停止している。
御者の男がこちらの様子をうかがっている。
「ふむ? 通り過ぎたのはいいが、心配して様子をうかがっていたのか? 彼に何ができるわけでもないのに、義理堅いことだな」
このゴブリンの群れは彼が連れてきたわけだし、責任を感じる気持ちはわからないでもないが。
俺は彼に手を振ってやる。
彼はゴブリンたちの脅威が取り除かれたことを確認して、こちらに戻り始めた。
さて。
彼はどういった反応をするかな?
助けてあげたことだし、ストレアでの活動にあたって助力を得られると助かるのだが。
「いやあ。助かりました。ありがとうございました」
御者の男がそう言う。
彼は行商か何かだろう。
馬車の荷台には、商品らしい積荷がある。
「いや、あの程度は大した脅威ではない。お安い御用さ」
俺はそう返答する。
一般的にはゴブリンの群れはそこそこの脅威だ。
ここぞとばかりに恩を強調してもいいが、俺にとって大した脅威ではないことも事実だ。
あまり恩着せがましくする気にはならない。
「なんと……! しかし、確かにあなたの言うことも事実なのでしょうな。安全なところから見させてもらいましたが、ずいぶんとお強いですね?」
男がそう言う。
「まあ、それなりにはな。それで、そちらはなぜ追われていたのだ?」
「隣町からストレアへ向かう道中で、運悪くゴブリンの群れと遭遇してしまったのです。最近は平和だったので、油断していました」
男がそう言う。
街から街へ移動する際には、通常は護衛を雇う。
専属の護衛を常時雇う場合もあるし、その時々で冒険者を雇う場合もある。
今回は、このあたりの魔物が最近おとなしかったという事情から、経費削減のために護衛を雇わなかったといったところか。
「ふむ。それは危ないところだったな。俺たちがいなければ、マズかっただろう」
「ええ、その通りです。いざとなれば、食料の積荷を捨てるという選択肢も残してはいましたが……」
食料の積荷を捨てると、メリットが2つある。
1つは、ゴブリンたちがそれに気を取られる点。
あわよくば、それで満足して追跡をやめる可能性もある。
もう1つは、積荷が軽くなって馬車の速度が増す点である。
単純に逃げ切れる可能性が増す。
ただし、もちろんデメリットもある。
言うまでもなく、捨てた積荷の分は純粋な損失となるのだ。
命には代えられないのでいざとなれば捨てるのだろうが、それは最後の手段というわけだ。
「なるほどな。俺がいなくとも、命までは落とさなかった可能性が高いわけか。俺の助力は、余計なお世話だったかな?」
「いえいえ! とんでもございません! あなたのおかげで、積荷の損失を抑えることができました。それに、積荷を捨てても必ずしも逃げ切れるとは限りませんし。ぜひ、お礼をさせてください」
「そうか。では、お言葉に甘えて礼をもらうことにしよう」
俺はそう言う。
ストレアの街で、シルバータイガーの”白銀の大牙”の情報収集をしなければならない。
直接的に彼から情報を得られれば理想的だ。
それがムリなら、せめてストレアの街でしばらく活動する上での便宜を図ってもらいたい。
「ええ。それで、どのような形でお礼をさせていただきましょうか? 今現在お渡しできるのは、馬車に積んでいる限られた物品のいくつかか、いくばくかの現金となります。ストレアの街に着けば、もう少し幅広い物品からお選びいただくことも可能ですが」
男がそう言う。
先ほど、彼はストレアに向かう途中だと言っていた。
ストレアに拠点があるのだろう。
「俺たちも、ちょうどストレアに向かうところだった。礼をもらうことは急いでいないし、まずはストレアに向かうことにしよう」
「わかりました。よろしければ、こちらの荷台にお乗りください。狭いところで申し訳ありませんが」
男がそう言う。
積荷があるので、確かにそれほど広くはない。
しかし、一般的な感覚で言えば歩くよりは楽で快適だろう。
俺とリリアは、人並み外れた脚力を持つ。
別にムリして狭い馬車に乗り込む必要もないがーー。
「ふむ。人族の馬車に乗るのは初めての経験じゃな。悪くない」
リリアがちゃっかりと乗り込んでいる。
わざわざ微妙な環境に飛び込むのか。
物好きな性格をしている。
「よし。俺も乗るぞ。リリア、詰めてくれ」
御者の男からのせっかくの好意を無下にするのも悪い。
俺も乗り込む。
やや狭いが、不快というほどの狭さでもない。
「では、参りますね」
男がそう言って、馬車を走らせていく。
ストレアの街には、今日中には着くだろう。
ルーシーを蘇生させるための使命感と、見知らぬ街を訪れる高揚感を感じつつ、馬車に揺られていく。
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