白雪姫と電車で駅弁
「全部指定席の電車か……」
箱根までは電車で移動するため、隆史と姫乃は特急電車に乗り込んだ。
旅行が決まってすぐに予約したから隣同士で席が取れ、二人して手を繋ぎながら座る。
休日とかは旅行客で席が満室になる時があるらしい。
「駅弁食べようか」
「はい」
お互いに昼ご飯を食べてこなかったため、少なくとも隆史は空腹に襲われている。
駅で買った駅弁を出し、前の席の背面に付いているテーブルを下ろしてからお弁当を置く。
他の人も駅弁を食べている。
「いい匂いだ」
紐を解いて蓋を取ると、駅弁の匂いが鼻に届いた。
この近くというわけではないが、同じ県の名産の牛肉を使った駅弁だ。
「そうですね。こういう電車に乗ったら駅弁は楽しみの一つですからね」
普通の電車だと周りの迷惑にしかならないが、こういった特急電車での駅弁は確かに楽しみではある。
姫乃は以前にも特急電車や新幹線などに乗って駅弁を食べたことがあるのだろう。
早く駅弁を食べたいからか、隆史のお腹からぐうぅぅ、と腹の虫がなった。
それを聞いた姫乃が「ふふ……」と笑み浮かべる。
「姫乃のは山菜メインの駅弁か」
恥ずかしくて話題を逸らす。
「はい。タカくんは早く食べたくてしょうがないみたいなので、食べましょう」
どうやらお見通しらしい。
二人して「いただきます」と言い、早速駅弁を食べ始める。
最近の駅弁は紐を引くと温まる仕組みのようだが、お腹が好きすぎて温まるまで待てなかった。
姫乃のは山菜メインの駅弁だから温まる仕組みはないようで、冷たくても美味しそうだ。
「美味い」
温まっていなくても駅弁はとても美味しく、これなら二つくらいはペロっと食べらるかもしれない。
特急電車代や旅館代などは自分たちからの出費じゃないから駅弁を少し豪勢にしてみたから何個も買えるわけではないが。
「そうですね。野菜の甘みなどがきちんと感じられて美味しいです」
山菜弁当は牛肉弁当より値段は劣るもののそれなりの値段はするため、きちんと値段以上の味はするようだ。
姫乃の笑みを見る限り、本当に美味しいのだろう。
牛肉弁当も本当に美味しく、自然と頬が緩むのを感じだ。
「あ、あーん」
山菜弁当も食べてみたいというのを感じとったようで、頬を赤く染めている姫乃は隆史の口元に椎茸を持ってきた。
椎茸の香りが鼻に入り、脳が早く食べろと訴えかけえいるかのようだ。
最近は人前でもイチャイチャしているからある程度抵抗が無くなってきているようだが、まだ恥ずかしさはあるらしい。
「わ、私はタカくんと一緒にいるというのを、見せつけたい、ので……」
周りを見てみると、明らかに姫乃に見惚れている人たちがいる。
この旅行は新婚旅行の体、本当に付き合うためなので、姫乃からしたら他の人にナンパなどされたくはないのだろう。
だからこうして自分にはきちんと彼氏がいる、というのを見せつけているというわけだ。
正式にはまだ彼氏ではないが、この旅行が終わった頃にはなっているから問題はないだろう。
実際に姫乃を見ていた人たちは隣のいる男が彼氏だと思ったのか、見るのを止めている。
何人かは隙を伺ってナンパしようとしていたのかもしれない。
旅行なんかに行くと心が開放されるため、地元の人たちよりナンパしやすいのだろう。
どうやらナンパしに箱根に行く人もいるらしい。
「あーん」
恥ずかしくても姫乃の申し出通りに見せつけたいので、隆史は目の前にある椎茸を食べていく。
椎茸の芳醇な香りと味が口の中で爆発する。
「めちゃめちゃ美味い」
普段食べる椎茸より美味しく感じるのは、旅行で心が浮かれているのも原因だろう。
だけど椎茸自身の味が良いというのが一番の原因な気がする。
スーパーなどで売っている椎茸と違うのだろう。
「タカくんにもあ、あーんってしてほしい、です」
一番の理由は周りにバカップルだと思わせたいのだろうが、どうやら牛肉も食べてみたいらしい。
「わ、分かった。あーん」
恥ずかしくても最愛の人が求めてきたのだから応えないわけにはいかず、隆史は姫乃の口元に牛肉を持っていく。
「あーん」
口元にある牛肉を食べた姫乃は、美味しそうに頬をほころばせた。
好きな人のこういった笑顔を見るだけで幸せな気分になり、旅行に来れて良かったと思う。
ただ、今度は本当の恋人、結婚してから来れたらもっと幸せな気分になるだろう。
次は箱根にはならないだろうが。
「本当に旅行に来れて良かった」
「まだ行っている途中ですよ」
ふふ、と笑みを浮かべた姫乃も、旅行に来れて良かったと思っているだろう。
まだ電車で移動している途中ではあるが、来れて良かったと思わずにはいられなかった。
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