白雪姫と新婚旅行

「いよいよ旅行か……」


 学校が終わった後はお互いに自分の家に帰って着替え、隆史は姫乃が住んでいるマンションの前にいた。


 駅前で待ち合わせだと姫乃ほどの美少女がいたらナンパに合うし、それだったら家で待ち合わせた方がいいと思ったからだ。


 キャリーバッグを引きマンションの中に入り、姫乃が住んでいる部屋の番号を押して呼び出す。


『すぐ行くので待っててください』


 インターホンに出た姫乃はそう言うと通話を切り、これから出てきてくれるようだ。


 後数分で来る姫乃を待ちながらも、隆史は凄く緊張していた。


 一緒に寝たことはあれど、これから行くのは理性のタガが外れてもおかしくない旅行だからだ。


 ラブコメアニメで旅行はほぼほぼ主人公とヒロインの距離が縮まるイベントがある。


 今の隆史は姫乃と付き合う一歩手前のため、この旅行で付き合える可能性は充分にあるのだ。


 それに姫乃は新婚旅行気分で行くようなので、間違いなく恋人同士の関係になれるだろう。


 もう両片想いではなくて両思いなのだから。


 ただ、旅行中のどのタイミングで告白するか迷う。


 初日にするべきなのか最後にするべきなのか、本当に迷いどころだ。


 恐らく姫乃はいつまでも待ってくれるだろうが、少なくとも箱根にいる時にするべきだろう。


 そうでなければ箱根旅行に行く意味がない。


「お待たせ、しました」


 色々考えていると、キャリーバッグを引きながら姫乃がやってきた。


 以前一緒に出かけた時に隆史が選んだ上下違う色のワンピース、綺麗な足は普段通りにタイツで覆われている。


「どう、ですか?」


 着慣れない服で遠出をするのは初めてだからか、頬を赤くしている姫乃に覗きこまれるようにして聞かれた。


「に、似合っているよ」


 似合うと思って選んだから似合わないわけがないのだが、つい先程まで告白のことを考えていたから恥ずかしくてまともに見れない。


「ちゃんと私を見て、言ってほしいです」


 ギュっと手を握られた。


 好きな人にはお洒落をしたら見てほしい、そんなことを思っているのかもしれない。


「とっても良く似合っているよ」


 恥ずかしい気持ちを我慢しつつ、隆史は姫乃をしっかりと見て素直な感想を伝えた。


 アニメのヒロインが着ていた時より姫乃の方が似合っている。


「ありがとう、ございます」


 可愛いのはいつものことだが、今日の姫乃は普段より数倍は可愛い。


 この旅行が特別なものになるからだろう。


 本当の恋人同士になるために行く旅行なのだから。


 そのことが分かっているからこそ、姫乃はお洒落をしているのだろう。


「でも、何か可愛すぎて心配」

「心配、ですか?」

「可愛いからナンパされそうだし」


 ナンパされると断言出来るほどに、今の姫乃は可愛い。


 だから心配でしょうがないのだ。


「じゃあ、タカくんが、私から離れないでください」

「離したくない」


 ナンパされないためというのもあるが、一番の理由はずっと一緒にいたいから。


 離れなければナンパされなくなるし、そもそも一緒にいるのは幸せだから離したくない。


 だからなるべく一緒にいる。


「なら一緒にいましょう」


 えへへ、と笑みを浮かべた姫乃は、本当に離れるつもりはないだろう。


 離すつもりは一切ないから有り難い。


「そろそろ行こうか。電車の時間あるし」

「はい」


 恋人繋ぎをしながら駅に向かった。

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