女子同士の触れ合い

「本当にバカップルだね」


 一時間目の授業が終わった休み時間、クラスメイトの女子が話しかけてきた。


 もう教室でイチャイチャしなくても問題はないだろうが、一応は手を繋ぎながら過ごしている。


 話しかけてきた女子は姫乃を虐めていないらしい。


 姫乃が隆史と手を繋いで表情が前より和らいだからか、話しかけやすくなったのだろう。


二宮にのみやさん」


 青い瞳が話しかけてきた女子を見つめる。


 彼女――二宮つかさは確か気さくな性格をしているから話しやすい。


 右側だけ耳にかけているボブの黒髪、パッチリ二重の大きなキャラメル色の瞳、モデルのように細い手足と腰をしている女子だ。


 圧倒的美少女である姫乃がいるからそこまで目立たないが、かなり人気がある女子と言えるだろう。


「最近の白雪さんはいい顔してるよね。少し前までの作り笑いとは全然違うね」


 以外とハッキリと物事を言ってくるタイプなようだ。


 確かに以前の姫乃より笑顔が良いかもしれない。


 実際に何人かのクラスメイトが頷いている。


「そう、ですか?」


 どうやら当の本人は自覚がなかったらしく、少し驚いたような表情をしている。


「うん。やっぱり彼氏が出来ると変わるのかな? 今の白雪さんは本当に楽しそう」

「か、彼氏……」


 つかさの一言により、姫乃の顔は熟れた林檎のように赤く染まった。


 付き合っているわけではないが、言われると恥ずかしくなるようだ。


 テストが終わったら告白して付き合う予定だが。


「恥ずかしがる白雪さん可愛い」


 うりうり、とつかさは姫乃の頬を軽く突く。


 抵抗しない姫乃は、いきなりされて恥ずかしそうにしているだけだった。


 隆史とはもっと恥ずかしいことをしているのだが、他の人からされるのには一切耐性がないのだろう。


 女子に虐められたり、妹であるはずのひなたに酷いことをされたため、同性に触れられたりするのには少し怖いかもしれない。


 麻里佳や美希とはハッキリと話せるのは、隆史が信頼している幼馴染みや後輩だからだろう。


 でも、相手がクラスメイトであれば別だ。


 今の姫乃は抵抗出来ていないのだから。


「姫乃に触れるのは止めてあげて」


 ここは彼氏役になっているのだから止めるべきだ。


 流石に触れることはしないが、二人の間に入って突くのを止めさせる。


「タカくん、私は大丈夫ですから」


 どうやら隆史と一緒にいたおかげで恐怖はだいぶ無くなったようで、姫乃は優しい笑みを向けてくれた。


 少し前の姫乃だったら恥ずかしさと恐怖で逃げていただろう。


 でも、もう本当に大丈夫なようだ。


「姫乃が大丈夫であればいいけど」


 女子同士の話でいちいち嫉妬などしない。


「彼氏である高橋くんの許可を得たし、沢山触れ合おうよ」


 えへへ、と笑みを浮かべたつかさは、両手を使って姫乃の頬を突く。


 もしかしたらつかさは女の子と触れ合うのが好きなのかもしれない。


 流石に百合ではないだろうが、同性同士だと気軽に話せたりしていいのだろう。


 仲の良い同性の友達がいない隆史には分からない感覚だが。


「な、なんかくすぐったい、です」


 恥ずかしさが少しなくなってきたようで、姫乃は若干の笑みを浮かべた。


 こうやって良くしてくれる同性の知り合いが出来て嬉しいのかもしれない。


 つかさの性格からして美希やひなたと違って裏表があるわけではないだろう。


 だから姫乃と仲良くしたいと思っているかもしれない。


「白雪さんもしていいよ?」


 頬を突いてほしいかのように、つかさは自分の頬を姫乃に向ける。


「じゃ、じゃあ……」


 少し緊張しているのか、恐る恐るといった感じで姫乃はつかさの頬を指で突く。


 プニプニ、とつかさの頬は柔かそうで、姫乃にしてみたいと思った。


 今度頬を突かせてもらおう。


「これで私たちは友達だね」

「は、はい」


 姫乃に女友達が出来た瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る