白雪姫の髪を乾かす
「姫乃が俺のことを好きかもしれない……」
自室のベッドに横になりながら、隆史は姫乃がお風呂に行っている間に考える。
惚れられていると考えないとおかしなことがいつくかあり、例えばキスがそうだろう。
抱き合うだけなら寂しいというので説明がつくが、流石に慰め合うのにファーストキスは捧げない。
好きだから捧げてくれたというわけだ。
「白雪姫と言われるくらいに人気がある姫乃が……」
つい先程までは好きになってもらえるなんて有り得ないと思っていたが、その可能性が大いにあると分かって自然と口元が緩む。
好きな人から好意を向けられていると分かれば、誰だって嬉しくなるだろう。
本当は今すぐにでも床でグルグル、と転がって喜びたいとこだが、子供みたいだしそんなスペースがあるわけでもないからしない。
「タカくん……」
ドア越しから声が聞こえたため、姫乃がお風呂から上がったのだろう。
「どうぞ」
別に声をかけないで入ってきてもいいのだが、声をかける辺りは姫乃らしい。
失礼します、と言った姫乃がドアを開けて入って来る。
「にゃ、にゃんで?」
猫語になってしまうほどに驚いてしまうのも当たり前で、何故か今の姫乃はバスタオル一枚を身体に巻いているだけだった。
バスタオル姿は一度見たことあるとはいえ、お風呂と違う場所ではこちらの方が見る恥ずかしさは上だ。
お風呂上がりだからか、白い肌がほんのりと赤い。
「その……タカくんに、髪を乾かしてもらいたくて……」
頬が赤くなっているのはお風呂上がりだけだからではないらしく、恥ずかしさがあるからだろう。
髪はバスタオルで拭いているようだが、まだ完全に乾ききっているわけではない。
ドライヤーで乾かした方が髪に良いと聞くし、乾かしてほしいのだろう。
手にはしっかりと高橋家に置かれているドライヤーを持っている。
使ってもいいと言ったし、姫乃が持っていても問題はない。
「わ、分かった」
惚れられている可能性が大いにある、という状態でイチャイチャするのは普段よりかなり恥ずかしいが、好きな人のお願いを断るなんて有り得ないことだ。
姫乃からドライヤーを受け取ってコンセントに差し、バスタオル姿の彼女の後ろに立つ。
(良い匂い過ぎる)
お風呂上がりだからか、普段より甘い匂いが理性をゴリゴリ削っていく。
惚れられているとしても、今押し倒したら姫乃の好意は一瞬にしてなくなるだろう。
以前したような甘噛みならまだしも、付き合う前に抱くなんてことをする男子と付き合いたいとは思わないはずだ。
「じゃあ、するね」
「はい」
今は余計なことを考えず、姫野の髪を乾かすためにドライヤーのスイッチを入れる。
たまに麻里佳の髪を乾かしたりしていたため、姫野の髪も同じようにして乾かしていく。
髪質や色は違えど、基本的にドライヤーを使って乾かす行程は変わらないだろう。
「お客さん、髪サラサラだね」
「な、何で美容師さんの真似をするんですか?」
「なんとなく?」
髪を乾かしている時に何て話せばいいか分からなくなったので、美容師の真似をしただけだ。
そんなことを言うのは恥ずかしいため、適当に誤魔化す。
「タカくんに、お客さんなんて他人行儀で呼ばれたくない、です」
キュン、と胸が高鳴ってしまうくらいの衝撃が走った。
「分かったよ」
サラサラな銀髪をドライヤーで乾かしながら頷く。
きちんと手入れしているおかげなのか一切枝毛などなく、ずっと触っていたいと思わせる髪だ。
「この髪はお母さんから受け継いだ髪です。大事な髪だから……触っていいのは一番信頼している、タカくんだけ、ですよ」
つまりは妹であるひなたにさえ触るのを許していないのだろう。
あんな態度を取られているのだし、触らせたくないと思うのは当たり前のことだ。
(本当にヤバい)
惚れられている可能性が大いにある状態でそんなことを言われると、今まで以上に心臓が激しく動くのを感じる。
心臓が激しく動いているのを感じながら姫乃の髪を乾かした。
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